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29:お部屋の契約

「おっと。先に私の自己紹介をしていなかったね。私は、カトレア。この王国の物件を管理しているわ。何かあれば私に言ってね。で、ミネコさん。どんな物件を探してるか改めて聞かせてもらっていい?」

「あっ、はい。えっと、私、職業が芸者なんですけど、ドがつくほどの田舎からやってきたんで、あんまりこの国のことをわかっていないんですよね。だけど、活動をするために、プライベート空間が欲しいなって思ってまして」

「なるほどね~。一応、ギルドカードを見させてもらってもいいかしら?」

「あっ、はい」


 カトレアさんに言われて、ギルドカードを差し出す。そのギルドカードをじっと見たまま、カトレアさんは何も言わずに自分の資料とにらめっこしている。


「2日でレッドウルフを4体とブルーウルフも1体、買取りに出しに来たのね……。その割には、ミニチュアウルフやレッドバードの記載がないけど……」


 そういえば、ミニチュアウルフとは鉢合わなかった気がする。図体の大きいレッドウルフとブルーウルフしかこの世界に来てから見てない気がする。

 わたしからすると、ほかにも魔獣って存在するんだ。って感じ。


「まぁ、とにかく、2日でこれだけの魔獣を狩れているなら、多少の妥協は許してもいいかな。ただ、芸者としての活動記録がないのが気になるけど……」

「あっ、えっと、それに関しては、今いろいろと準備中で、まだ実績がなくて~。プライベート空間の確保ができれば、本格的な準備が進むというか、なんというか~」

「そうなのね。それじゃあ……。ここなんてどうかしら?少しだけ街のはずれにあるんだけど、人通りも少なくて静かだし、あなたが言うプライベート空間も確保できるけど」


 カトレアさんがそう言って、地図を広げ、提案してくれた場所をタッチすると、ムクムクと3D映像のように建物が浮き上がってきた。

 この世界には、こんな技術があるんだ。なんて感心していたけど、今はそんな場合じゃない。ちゃんとした活動拠点を決めるんだから、しっかりと内覧しておかないと。

 緑の屋根が特徴の2階建ての建物。ただ、そんなに大きくはなく、私2人がいても十分位の広さだと思う。

 場所に関しても、商店が立ち並ぶ通りから外れているものの、今泊まらせてもらっている宿から比較的近いようにも見える。これくらいの近さなら、もしメイランちゃんにヘルプを求めるときでも意外と時間がかからなくて済むかもしれない。

 ただ、問題は、金貨が何枚いるかってところよね。

 今の私には、金貨の問題はほぼ皆無と言っていいと思う。ただ、芸者として活動していく中で、税金を納めなきゃいけなかったり、自分が生活していく中でかかってくるお金だってある。あまり豪勢なことはできないと頭の中ではわかっている。


「ちなみに、1か月いくらですか?」

「そうね……基本金額は月に金貨4枚といったところだけど、それくらいでも構わない?」


 金貨4枚か。もう少し出せそうだけど、ほかにいいところってあるのかな?


「金貨をあと2枚出せるといえば、どのあたりになります?」

「そうね。それじゃあ、ここなんてどうかしら?……」


 私の条件を一つひとつ聞いてくれ、あれこれと提案してくれたけど、結局、一番最初に提案してくれた金貨4枚の一軒家を借りることにした。


「もし、これを買い取りたいといえば、金貨は何枚くらいいりそうですか?」

「そうね~。だいたい、500枚といたところかしらね」


 単純計算で10年住むことを想定か……。そんなに長い時間もいるかな?なんなら、帰り方がわかるなら、さくっと元の世界に帰りたいものだけど……。


「わかりました。ありがとうございます。手持ちに500枚もないので、とりあえず、借りる方向で」

「かしこまりました。それでは、契約書をお持ちしますのでお待ちください」


 カトレアさんは、そういうと、席から立ち上がり、またギルドの奥へと姿を消し、また戻ってきた。


「それじゃあこれが契約書ね。よく読んでもらって、納得したら、右下のところにサインと自分の親指を押してちょうだい。それが契約者の証拠になるから」


 カトレアさんに言われて、契約書を隅から隅まで穴が開きそうなくらいの勢いで見る。

 これで一度騙されたことがある。そのときに親を巻き込む厄介ごとになって、泥沼の裁判沙汰になったしまったくらい。それからは、自分でいろいろ決められる歳になってからは、親に「契約書だけは、隅から隅まで穴が開くくらい見ろ」と口酸っぱく言われた。

 今回に関しては、騙されてしまったら、私の後ろにだれもいないから、私が損して終わるだけになる。損して終わるだけならいいけど、財産をなくすのは一番きつい。まぁ、ウルフを狩ればお金は入るけど、そんなぽんぽんと入るわけがないんだから、気を付けないといけない。

 穴が開くほどじっくり契約書を見ている私には何も声をかけず、ずっと黙って待ってくれているカトレアさん。これが仕事なんだろうけど、イライラしないのかな。なんて思いつつ、それでも、じっくりと契約書を眺める。

 ……うん。私も納得した。

 返却時には、すべてきれいな状態にして返すことも了承。1か月は月初めに支払って、日割りの返金もなし、敷金礼金はなし。金貨は月4枚。それも了承。

 うん。ほかに引っかかったり、おかしなところはないね。これで契約して大丈夫そうだ。

 そう思い、ゆっくりと、自分の名前を書いて、丸で囲われたところに親指を押し込む。


「はい、オッケーです。これでこの家は、ミネコさんのものになりました。ご自由に使ってください。あと、ここにも書いてある通り、木枠で囲われている庭もミネコさんのものになります。手入れをさぼっちゃうと、草がぼうぼうと育っちゃうので気を付けてくださいね」


 それも目に入っていて、了承済み。何も言うことはない。その広さで月金貨4枚なら相当な儲けものだと思う。

 それに、市場の串とかは、1本銅貨1枚みたいなところが多いから、私としても計算がしやすくて、安いように感じる。

 まぁ、東京にいたから物価が高く感じていたのかもしれないけど。


「それじゃあ、物件に実際に行ってみましょうか」


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