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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その千六十四


「言い淀む権利は、お前にはないんだ」

「少尉の言葉を、聴くんじゃない。呪術をかけようとしているんだ!!」

「ぼ、ボクは……」

「『ゼルアガ』が生贄に選んだ存在くん。お前は、あまりにも罪深いんだ。そして、呪術の生贄としての才能がある。『罪科の獣ギルガレア』に、裁いてもらうがいい」




―――ノヴァークが足元の揺れに気づいた次の瞬間、床と天井がひび割れながら。

無数の触手を生やして来たのさ、視界のすべてが揺れる黒い影に覆い尽くされる。

逆さまになったオルテガから落ちてきた、薔薇の花の欠片。

『それ』から呪術で生やしたのだろう、製法は呪術師じゃないから分からない……。




―――戦士でも兵士でもない家出少年の脚は、すくんでしまう。

いびつな触手の群れに取り囲まれた彼は、この闇色の触手に生物を連想した。

本能的に息をひそめて、じっとしておきたくなったらしい。

古代の神の一柱だからか、本能に訴えかけてくる力があるのさ……。




―――ノヴァークは怯え切って、ただ無音のまま立ち尽くしている。

触手たちは鞭のようにしなってうなり、イライラしているのか空中を叩いた。

空気が破裂するような音がして、その力は肉を裂き骨まで砕くはずだと想像させる。

ノヴァークは無力だった、自分を壊してしまえる力の群れのなかでね……。




「ぎ、ギルガレア。あなたは、ぼ、ボクを……」




―――ジャンが勇敢なのはいつものことだけれど、この瞬間は過剰だった。

臆病さは本能に必要でもある、こんな異常な状況で落ち着いているのはおかしい。

あわてて逃げ出すことが必要な状況であって、野原にたたずむような姿勢はいけない。

ジャンは破壊的な力にひしめくその場さえ、『怖がれない』んだよね……。




―――ヒトを無造作に壊せる力であっても、『狼男』の前には無力だ。

風に揺れる雑草と、この触手の群れはジャンからすれば同じものだった。

むしろ、神の気配を帯びたニオイに落ち着きさえしている。

レッドウッドの森や、アリアンロッドの棲みかと同じニオイがするようだ……。




―――『狼男』は、やはり『ゼルアガ』の影響で誕生したのかもしれない。

アリアンロッドを『お母さん』と呼ぶのは、ジャンからすれば当然なのかも。

シドニア・ジャンパーがここまで読んだとは、さすがに思えないけれど。

残酷なまでに方向性は正しく、ジャンを祭祀呪術に取り込んでいた……。




―――言葉で傷つけて、混乱させて。

その隙に、邪悪な作戦を実行に移す。

完璧な手口だったかもしれないし、ジャンには過酷な時間の始まりとなる。

おぞましくうごめく闇色の触手の群れのなかへ、ジャンは歩いた……。




「さ、誘われてはダメだ!!そんなものに近づいても、あんたは何も得られない!!生贄にされちまうだけだぞ!!」




―――ノヴァークも勇気を出してみせたよ、彼にも善良さはある。

敵の術中に落ちようとしているジャンを、止めようとはしたんだ。

ジャンの腕は、たしかにその一瞬だけは止まったけれど。

またすぐに動き出して、壁を這い回る触手の群れに手を突っ込んだ……。




「やめとけ、ジャン・レッドウッド!!そ、そんなものに、触れるんじゃない!!」

「……ギルガレア。罪の、つ、償い方を……」

「そんなもの、求めるんじゃない!!」

「ぼ、ボクは……反省しているんだ。つ、罪深さから、ゆ、許してもらいたい」




「少尉!!やめろよ!!いいヤツまで、騙すのはナシだろ!!ガキの頃からの苦労人だぞ!!こいつは、利用していい相手じゃない!!そういうの、あんただって嫌なハズだろ!!」

「黙ってみていろ、ノヴァーク。私の祭祀呪術の完成と、ソルジェ・ストラウス退治をな」

「んなこと、しなくていいはずだ。どうして、そんなに……」

「直接の原因になった。姫さまを死に追いやる状況を、あの赤毛野郎は作ったんだ!!」





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