第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千六十二
「おぞましいだろう。拒絶するがいい。その方が、楽に殺せる」
「……脅すなよ。たとえ、少尉がどんな真似をしていたとしても……心の底から嫌いにはなれないんだ」
「響かない言葉だな。面白みに欠ける」
「うるせえ。ガキ相手に、とんでもない難題を押し付け過ぎなんだよ」
―――状況把握に集中することで、難局を乗り切ろうとしている。
ジャンにアドバイスしただけでなく、ノヴァーク自身もそれが必要だ。
愛する人の知りたくもなかった側面、それをいくつも知っている最中だからね。
シドニア・ジャンパーはかなり狂気的な人物で、それでも好きなのさ……。
「そろそろ、ソルジェ・ストラウスたちが合流してくれるはずだ。少尉、あきらめる必要がある」
「戦力はまだあると言っている。各地の戦場にあった祭祀呪術の痕跡を、ギルガレアの一部に集めているんだ」
「そ、そんなことをして、ぎ、ギルガレアの力が暴走したらどうするんですか!?あ、あんな強大な力を、コントロールできるとは思えませんっ」
「やれるさ。だが、そのためには生贄がいる」
「そ、そういう発想はやめましょう!!そ、そんな選択で、幸せになれるとは、とても思えないんです…………っ!?」
「ああ。もしかして。他人のジャン・レッドウッドよ。私の気持ちを、理解してしまったかな」
「あ、貴方は、じ、自分の幸せが、欲しいわけじゃないんですね」
「そうだとも。同じかもしれない。我らは、まるで騎士のようだろう」
―――忠誠心の強さでは、ジャンとさえ並ぶかもしれない。
ジャンが騎士のように、ソルジェを王として認めるのと同じように。
シドニア・ジャンパーは、ライザ・ソナーズを女王にしたがっている。
もはや魔道の果てにしか、それが叶わないと知ってなお止まらないのさ……。
「ジャン・レッドウッド。お前のような、私に似た者と出会えてよかったよ」
「て、抵抗しないで。自殺もダメです」
「……そうだな。そのどちらも、しないでおくよ」
「ほ、本当ですか!?」
「信じるなよ。少尉は、天性の噓つきだ。何か、絶対、企んでいる。ギルガレアを使う作戦だ」
「お前には、それが分からないだろう。そこまでは教えてやっていないからな」
「だとしても。狙いは、読めるかも。あんたの部下で、あんたの弟子なんだ。あんたはさ、けっきょく欲張りだ。『最良の道』を選択するはず……生贄にしたいのは、オレじゃないな。オレを放置して、自分優先モードになってくれよ、ジャン・レッドウッド。きっと、生贄の本命は、あんたも含む猟兵だ」
「え、え、え!?」
「猟兵なら魔力も生命力もけた違いに強い。あんたに至っては、『狼男』だ。生贄としては、とても面白い」
「少なくとも、お前よりはずっと興味深い対象ではある」
「うるせえ。本当のこと、言うんじゃない。だから、ジャン・レッドウッド。少尉はあんたも狙っているはずだ。姫さま復活のためのカードは、どんな状況に追い込まれても最善策しか選ばない。少尉は、そうだ。欲張りで、完璧主義者なんだよ」
「ああ。まったく。なかなかいい弟子になったな」
「図星ってわけだよ。少尉は、あんたに興味を持っている。『狼男』を生贄にしたがっているんだ。それは、おそらく……『ゼルアガ』の生贄という部分に、惹かれている」
「か、神さまにしようとしているから……ふ、復活させた、ライザ・ソナーズを?」
「多分な。いや、絶対、そうだ」
「自信があるのか、知識が足りていないはずだが?」
「呪術師としては、知識が足りない。でも、詐欺師としては育ててもらっているよ。少尉なら、ソルジェ・ストラウスに勝つための方法も探しているはずだ。ジャン・レッドウッドを取り込んだギルガレア、みたいなヤツなら……人質にもなる」
「ぼ、ボクを、人質に!?」
「あんたら、仲良し傭兵組織だからな」
「そ、そんな。それは、あまりにも……」
「嬉しがっていいよ、ジャン・レッドウッド。あんたの『家』はそっちだ。少尉と共に向かう地獄みたいな道じゃない。だから、絶対、何が何でも協力するなよ」
「わ、分かった」
「呪術師の後輩どもに、少しばかり授業をしてやろう」
「少尉、黙ってくれないか」
「黙るものかよ。祭祀呪術は既に始まっている。『祭壇』として作っただけで、大暴れしているんだ。おぞましい触手の群れは、地下を破壊し尽くしながらソルジェ・ストラウスたちを追いかけている。追い詰めるはずだ」
「い、いいえ。そんなことにはなりません。だ、団長たちなら、しのぎ切ります。だから、ボクは、あ、あなたを確保しておくべきなんだ」
「さて、授業をしないとな。呪術は相手の情報を知れば知るほど、成功率が上がるんだ。だから、過去を問診するのは大切なんだよ。つまりな、ジャン・レッドウッド。手遅れだぞ」
「ま、まさか。ボクに、も、もう呪術を!?」




