第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千三十四
「具体的には、どうすれば?」
「別種の祭祀呪術で、妨害を仕掛けるべきだ」
「シドニア・ジャンパーは、『トゥ・リオーネの地』の神々を使った祭祀呪術と……」
「『プレイレス』の祭祀呪術も、使っているかも。それに……」
「ギルガレアの祭祀呪術を使っている可能性も、かなり高い」
『みっつ、あるね?』
「それらの全てとは異なる、祭祀呪術もあるのだ」
「もしかして、プレイガストさん……祭祀呪術も、使えるの?」
「長く生きていると、色々とね。隠している力も、知恵もあるものさ」
「……底が、知れませんね。キュレネイさんは、言っていました」
「底が知れない相手は、警戒しろ。そのような言葉だろうね」
「うん。私たち、知り合って数時間だもん」
「裏切りはしないよ。私の居場所は、『自由同盟』側にしかない。この世のほとんどに、居場所がないんだ。故郷さえ、私は捨てている」
「……それは、私たちもだよ。『メルカ』を、捨てたんだ。新しく、生き直すために」
「罪深さを感じるだろう。さみしさだけでなく。分かるよ。私も同じだ」
「……ええ。その苦しみを、今は信じます」
「それでいい。呪術師をすぐに信じてはいけない。暴走するかもしれないからね。復讐心も、私は強いし……感情的になる。ハーフ・エルフがらみでは、とくに」
「ノヴァークにも、肩入れし過ぎてる」
「ああ。ヒトというのは、年を取るほど視野狭窄にもなる。私は、豊かな年の取り方をしていない。何年も太陽さえ浴びず、監禁と拷問の日々だったからね」
「それは、精神を壊すでしょう。きっと、私たちでも、耐えられない」
「ああ。ぶっ壊されるよ。そして、ちょっとだけ学んだのだ。大切なもののためには、手段を選ぶ必要はない。どんな悪事でも、していいのだと。間違いさえも、使えるのだ」
「怖い、思想な気がする」
「左様。とても、怖い考え方だ。不健全である。だからこそ、シドニア・ジャンパーが、私には見えるのだよ。彼女も、似たような立場だ」
「シドニア・ジャンパーは、何を企んでいるのです?」
「私たちに、殺させたんだ」
「……え?殺させた……っていうのは?」
「どういうことです?何か、不穏なのですが……」
「祭祀呪術というものは、スケールがどうにも壮大でね。生贄の配置も、かなり大切になってくる」
「生贄の、配置……っ!?」
「私たちが、殺していった……敵の、位置が……」
「見たまえ。我々が襲撃してしまった敵たちの死体の位置は、東、北東、北西の配置だ」
『いくさが、あったほうがくに、むいているね』
「左様。オルテガの戦、『プレイレス』の奪還戦争、そして『トゥ・リオーネの地』への侵略戦争だ。最新の戦である、メイウェイ将軍の戦に関しては、それほどの接続はないかもしれないが……」
「せ、戦争でたくさん死んだから。その戦死者たちを、もしかして」
「生贄として、勝手に使うというんですか?」
「この配置が、いかにもうさん臭くてね。シドニア・ジャンパーは、部下との距離が『緊密』だ。性的な雰囲気さえ漂わせるほどに。骨抜きにした男は、ノヴァークだけではあるまい。つまりは、彼女は部下として雇った傭兵たちに、おそらくかなり詳しいよ」
「そういうのは、よく分からない」
「男女の心の通い方、みたいなものは『メルカ・コルン』は苦手なんです」
「うむ。まあ、詳しそうだ、でいい。シドニア・ジャンパーは自分の価値をよく理解しているんだ。我々が殺さずに確保しようとすることも、傭兵たちの誰が土壇場で裏切るかも詳しいだろう。会計将校。金という欲望の流れを、熟知している詐欺師だからね」
『さいしじゅじゅつの、『あわせわざ』をつかうきなのかな?』
「そのように思える。今、この瞬間となってはね。我々は、もしかしたら。彼女に乗せられたのかもしれない」
「……それに、気づけたのに。今まで、言わなかったの?」
「いいや。今このときまで、気づかなかったんだ。本当だよ」
「……信じます。何もかもを、完璧には予測できたりしないですし」
「私も未熟だった。もっと、壮大なスケールで戦場を見るべきだったかもしれない。懸念であれば、いいのだが……ああ、見たまえ、あれを」
―――プレイガストの指差したのは、海辺から北に向かって逃げようとした部隊だ。
その連中に、死人が発生していた。
いきなり頭部が、破裂した傭兵が四人ほどいる。
おそらく『トゥ・リオーネの地』に逃げ戻ろうとした、その地の出身者たちだ……。
「困ったね。あの生贄たちを使えば、メイウェイ将軍たちの行った戦の死者も、生贄として呼び込めるかもしれない。方角は、ドンピシャだろう?」
『うん。ちのにおいのながれに、いっちしているね……』
「シドニア・ジャンパーが、今このとき、何を企んでいるのか分かる?」
「三つの祭祀呪術から、力を呼び寄せる。彼女は、自分を最強の呪術師だとは信じていないようだね。だからこそ、他の呪術師たちが使った呪術を、乗っ取ることにした。便乗する、でもいいかもしれない。とにかく、自力ではない。これは呪術師よりも、金融家の考え方に近しいだろうね」




