第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千二十七
「説得、ですかあ」
「君たち、『メルカ・コルン』にはピンと来ないようだが」
「貴方は、復讐者という割りには」
「やさしいつもりもない。彼らは、帝国軍との戦いに利用できる『駒』だと思っただけだよ」
―――純粋無垢な『メルカ・コルン』にはない、妥協と説得の感覚。
双子たちは、戦場を見回しながらも考える。
傭兵どもの動きは、まだ続いているのさ。
連中は裂け目なり地下に逃げ込めば、竜対策になるとは知っているからね……。
『どーするのー?あいつら、うごきつづけているよ?』
「ゼファーちゃん!攻撃は、続行する!」
「それをしながら、説得もお願いします」
「……ふむ。妥当な線だね」
『こうげき、さいかーい!!』
―――ゼファーの顔が残酷さに笑い、漆黒の翼が空を打ち据える。
秘かに射撃の狙いをつけていた傭兵どもも、愕然とさせてしまう軌道だったよ。
鳥よりもはるかに速く、そして高い。
さらに言えば、立体的なフクザツさが伴う踊るような軌道なのさ……。
―――弓術の技巧と経験値がある者ほど、その理不尽さに圧倒されるだろう。
やわらかな軌道ほど、厄介なものはない。
ゼファーは縦にも横にも左右にも、速度を常に変えながら『うねった』のさ。
どんな予想をつければいいのか、エルフの達人にさえ分からないだろう……。
―――竜の動きを初見で見切るのは、とてつもなく難しいものさ。
リエルでさえ、二回はその動きを見る必要があるかもしれない。
今となっては、リエルの矢からゼファーが逃れることは不可能だろうけれど。
もちろん『マージェ』がそんなことを、我が仔にすることはない……。
―――せいぜい、ルルーシロアに放つかもしれないがね。
まあ、とにかく重要なことは。
ゼファーの空での『踊り』を見せつけられると、ほとんど全ての射手は困り果てる。
戦陣から放たれる無数の一斉射撃以外は、当たる可能性がないんだ……。
―――狙えば、外れる。
万に一つの幸運ではなく、数十人から数百人による『面』を作る射撃が必要だ。
それを傭兵どもは思い知らされ、困っているのさ。
歯ぎしりする、弓の腕に自信がある者がこの傭兵どもには多かったから……。
「あれが、竜かよ……ッ」
「ちくしょう。弓なんかで、狙えるか」
「……狙えると、すれば」
「魔術、ぐらいだろう」
―――それもまた、ベテランの戦士らしい発想だったよ。
魔術であれば、たしかに竜にも届くからね。
だが強力な魔術師というものは、極めて稀なものだ。
この傭兵どものなかには、中級の魔術師しかいない……。
「私の名前は、呪術師プレイガスト!!高名なる戦士、ストラウス卿に雇われた呪術師である!!傭兵諸君、君らに勧告をしてやろう!!直ちに武装を解除して、この戦場を立ち去りたまえ!!圧倒的な、戦力の差があるのは分かってもらえているだろう!!犬死にしたいわけでは、あるまい!!」
―――すでに少なくない逃亡者が生まれているから、この説得は有効だろう。
金のために戦う者たちにとって、戦場での死はそれほどの意義がない。
ククリとククルは、プレイガストが大声で叫んでいる間にも。
冷徹な矢を放ち、また二人殺している……。
「容赦は、してあげないよ!!」
「こちらの戦術目標を邪魔するなら、殺すだけです!!」
『あはは!!いいしゃげき!!ふたりとも、じょーず!!』
「ゼファーちゃんが、撃つための角度、作ってくれているからね!!」
『えへへ!『まーじぇ』に、ならっているんだ!!』
「さすがは、リエルさん」
「どんどん、殺していくから。プレイガストさん」
「分かっているとも。説得は、私が受け持つ。もちろん、矢も、放つ!!」
―――プレイガストも理想主義者ではない、現実的なオトナのひとりさ。
『パンジャール猟兵団』の残酷さの理由も、理解してくれているよ。
我々は最強であるべきなんだ、そうであればナラティブ/物語を帯びるから。
傭兵どもはこの死地を生き延びた後、語ってくれる……。
―――どれだけ『パンジャール猟兵団』と戦うと、奪われるのかをね。
優秀な戦士であっても生き延びられない、その物語が傭兵界隈に伝わるんだ。
傭兵は政治的な信条ではなく、金のために敵味方を選ぶものだけれど。
金というものは命の危険と、必ずしも吊り合ってくれるとは限らないからね……。
―――生き延びることを最優先する傭兵も、少なからずいるものだ。
『パンジャール猟兵団』と戦うことを恐れてくれれば、帝国から離れやすくはなる。
我々は常に敵の数を減らすように、振る舞わなくてはならない。
『恐怖の物語』は、我々少数派には最高の盾でもあるよ……。
「竜が使う呪術もあるのだと、諸君らに伝えておこう!!ヒトの力では、あり得ぬほどに強大な呪術である!!この戦場にいる全員を、呪ってみせたのだ!!神がかった力であり、実際のところ、ストラウス卿も竜も、神殺しを達成している英雄なのだ!!」
―――多くの者が、神と戦うことはない。
伝説のなかでしか行われないような、不思議な行為だ。
それをソルジェも、ゼファーも成し遂げている。
マトモな敵兵は、そんな英雄と戦いたくはないものだ……。




