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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その千二十四


―――傭兵たちはゼファーの歌声と呪術に、完全に圧倒されていた。

両手足の激痛と重りを括りつけられたような拘束感、そして心理的な焦り。

戦場で、しかも我らが『パンジャール猟兵団』を相手にした状況では最悪だよ。

焦れば勝てなくなる、戦場というものは知的であることが強みなのさ……。




―――ソルジェとゼファー、そして二人と間接的につながっていたキュレネイ。

三者の感覚が、敵の配置を脳裏に描かせている。

猟兵的な地図、あるいは竜騎士的な地図のそれにね。

戦闘配置というものは、武術で言えば『型』になるものだ……。




―――守りに特化したものもあれば、反撃に特化したものもある。

それらの逆に攻撃特化のものもあれば、機動につながるものもある。

傭兵どもは竜対策をしっかりしていたのさ、上空から見られても見抜かれないように。

歴戦のベテランであり、彼らの多くが帝国軍との戦争を経験済みだ……。




「つまりは、鍛えられているということだ。実戦はさまざまな教訓を血と骨に叩き込む」

「イエス。連中は、追い詰められる前ならば、嘘を演じられたであります」

『でも、いまは、ちがうよね!』

「ああ。連中の結束のなさが、明らかになっちまったな」




「逃げようとしている連中が、かなりいるね」

「単純に外へと、逃げようとしています。完全な職務放棄。『メルカ・コルン』ならば、絶対にありえないことです」

「……『メルカ・コルン』ってのは、恐ろしい連中なんだな」

「し、失礼だよ、ノヴァーク。か、彼女たちは本当に純粋な戦士なんだよ」




「純粋という言葉は、狂気とも紙一重なんだぜ」

「……失礼な子。でもね、ちょっとは理解してあげられるよ」

「ええ。私たち『メルカ・コルン』だって、『外』に触れた変わったの」

「そうだ!ククリ、ククル、ルクレツィア……『メルカ・コルン』たちは大きく変わった。そいつは新しく生き直すための方法だ。オレたちと、いっしょに在るための力だ」




「うん!ソルジェ兄さんと、いっしょに!」

「はい!敵の心だって、ちょっとは分かります!」

「逃げる連中は、無視していいよ!あいつらの先に、シドニア・ジャンパーはいない!」

「迎撃のために、躍り出た連中も排除していいです!あいつらは戦闘意欲が高く、作戦に対しては従順です!シドニア・ジャンパーを、捕らえようとはしません!」




「となれば、狙うべき対象が絞られてくるよね!」

「う、うん。ふ、ふたつだけだ。あ、あの海岸近くにある、い、入り江と……」

「その『逆』だね。小高い丘、あそこに向けても傭兵どもが動いているよ!」

「地形から見るに、入り江とは地下でつながっていそうだ」




「はあ?そんなものが、分かるもんなのか?」

「当然だ。地形をちゃんと見ろ。古井戸に偽装した空気を採り入れるための穴が、点でつながるだろう。植生も違う。地下トンネルの水気を帯びた空気が、地面を他よりも潤しているから、春の植物の芽吹きも、夏の植物の豊かさにも違いが生まれる」

「それだけじゃなくて、地形もね!『くぼんでいる』でしょう?」

「なる、ほど。地下トンネルがあるから、そこに向けて、砂やら土が落ちて……」




「かつてからあった地下水脈のトンネルを、軍事か実業、あるいは宗教的な理由あたりからトンネルとしてリメイクしたのさ。そいつを、シドニア・ジャンパーたちは『拠点』として使っている」

「じゃあ、少尉はあの入り江にいるのか?それとも、丘の方に……?」

「ノヴァークちゃん、どっちだと思うかなー?」

「見当ついてるヤツの聞き方だよな。なんだか、カンジ悪いぜ」




「これも勉強になるであります。ノヴァーク、解いてみるといい。団長たちと私は、侵入経路の特定をしている最中であります。猶予は、数十秒ある」

「……入り江には、弱点がある。海に逃げられるから、普通の敵相手には最高だけど。竜が相手なら、正直、海に逃げても絶望的だろう」

「その通りだよーん。ゼファーやルルーに襲われたら、船はいちころ。火球ひとつで全滅しちゃうもん。モロー沖や大学半島東岸の海戦で、帝国軍は痛いほど理解しちゃっている。竜を相手に、中海の小型の船は弱すぎるんだ」

「中海の船が、小型だって?……そう、か。北海の船は、より大きいのか。内海と外海の違い……北海の帝国軍船も、沈めまくったというハナシは聞いたが……?」




『もちろん。たーくさん、しずめたよ。あっちのほうが、『たふ』なんだ。たましいも、おおきい!』

「……少尉なら、海には逃げんな。船を出すとしても、それは、せいぜい囮」

「うんうん。犬死には、したくないと思うよ。その女はね、戦士を冒涜しているから。戦って死ぬことの意味を、気高い戦士の深さでは理解していないの。そういうヤツは、絶対に生き延びようとする。誰を犠牲にしても苦しまないんだ。戦士が好まない手法を選べる」

「生き延びるのが、少尉の任務だと、少尉自身が決めただけだよ。ライザ・ソナーズ姫さまのために……」




「それって、都合よすぎるよね」

「分かっているさ、そんなこと」

「何て潔さに欠くことか。でも、それが『外』に生きる者たちの半分です」

「どんなに軽蔑してくれても構わないよ。きっと、少尉はアンタらの役に立つ。だから、頼む。死なせないでくれ」




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