第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千二十三
「ククク!呪術を、拡張するというような感覚か」
「イエス。団長の『ターゲッティング』を、私が薄めながら広げるであります。この眼下の戦場のすべてを、巻き込むようなサイズで」
「『ターゲッティング』で、ゼファーちゃんの『歌』を敵に注ぐんだね」
「そうすれば、かなりの敵に強烈な『影枷』の増大を……」
「私の表情筋が豊かであれば、きっとニッコリしているでしょう」
「じゃあ、私がキュレネイのお口のはしっこを、ぐいって持ち上げてあげるね」
「イエス。むぎゅ、う、であります」
「ほっぺた、ふんにふにー」
「イチャイチャし過ぎじゃないかな、この連中」
「うらやましいんだろ。そんな言葉を吐くなんてよ」
「うるさい。ソルジェ・ストラウス、アンタは奥さんがたくさんいるんだから、気をつけろよ?奥さんの群れに八つ裂きにされちまうぞ」
「我が家は、純愛と幸せに満ち溢れているんだぜ。あと、奥さんの群れという表現は、紳士的じゃない」
「左様。言い方には気を付けるべきだ。少年よ、人生は口で損することが多くある」
「分かったよ。んで。『ターゲッティング』とやらは、どんなものなんだ?」
「お兄ちゃんの『ターゲッティング』は、敵を呪うんだ。呪われた敵は、そこに必ず魔術が当たるようになるの。しかも、威力がすっごくパワーアップしているんだ」
「なんだ、それ。反則じゃねーか」
「竜呪術ですね。魔眼に由来するもの、模倣は確かに困難でありそうですが」
「私が融け合うようにひとつになって、編集を加えるであります。薄めて、広げる。そして、敵の傭兵どもに対してのみ呪術が届くようにするであります。『動き』で呪うように、変えればいい。背骨の動きが、呪いの標的であります。これで、単独の威力は弱くなるものの、多くを同時に呪える……現状では、これが精いっぱいそうであります」
「さすがはオレのキュレネイ・ザトーだよ。見事だ、しかし無理はするな」
「イエス。無理はしていないであります。この後も、戦いがあるから。だから、戦闘の難易度を下げてやるだけ。これで、数十人を呪術で……」
「ああ。無効化してやれそうだぜ。楽しみだな!」
「では、団長。やれそうであります」
「おう。術はオレが組むから、お前は拡げてくれ」
「イエス。つながる、であります」
「ああ、『ターゲッティング』……」
―――キュレネイは竜呪術と、融け合っていく。
完全模倣の達人にだけ許されたものだろう、『竜を模倣』するなんて。
竜騎士どころか、竜そのものなのさ。
ソルジェの左眼、アーレスの魔眼と同調するにはそれが必要だ……。
―――ミアはキュレネイの赤い瞳に、アーレスを気取ったらしい。
『灰色の血』というか、キュレネイだけに許された奥義だろう。
『竜を模倣』したことで、竜呪術の編集者としての地位を得られたようだ。
まったくもって規格外のセンスだよ、さすがはボクたちのキュレネイ……。
「見える、であります。いや、もっと、より概念的な把握。言語化するのが難しいでありますが、今の私は、竜呪術の質を変化させられる……」
「地上の敵を、全員、感じられる……いや、オレたちの呪術の内側に引きずり込む」
「イエス。やれているであります。敵の、動きそのものを、呪術の儀式に組み込む……それが、完了したであります」
「お兄ちゃん、長く集中させるとキュレネイが疲れちゃう。サクッと、やろう!!」
「おう!!ゼファーよ!!歌ええええええええええええええええええええええッッッ!!!」
『GHAAOOOOHHHHHOOOOOOOOOOOOOHHHHッッッ!!!』
―――空を仰いでいた傭兵どもの全員が、この歌声に呪われていく。
キュレネイの『拡散ターゲッティング』に、『声』の呪術が導かれた。
『影枷』をさらに強化するように、強く深く呪いが溜まった挙句。
ゼファーの歌の迫力に後ずさりした者どもは、『影枷』を発動する……。
「手足の筋肉が強烈な痙攣を始め、筋肉が自らの強さによって断たれていく……強制的な肉離れと、神経麻痺を同時に発生させる。戦闘能力は大きく下がるのだ。対処のレベルは、それぞれの傭兵自身のスキルセットに応じたものとなるでしょう。時間経過により、もちろん復帰してくる傭兵は増える。襲撃するなら、素早くというわけです」




