第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千二十二
「もちろんだ。猟兵がやりたいのなら、団長は応えるのみ。キュレネイ、やってみよう」
「イエス。団長はゼファーの『歌』を、『ターゲッティング』で敵に集中できるであります」
「ああ。だが、そいつを『デリバリー』化するっていうのは、オレにはちょっとピンと来ていないんだよ。なかなか、あれは難しい技巧だ。ククリとククルにしかやれないものと思っていた」
「イエス。難解であります。魔術では、不可能に近い。しかし、呪術はより小さな魔力の構成で済むであります」
―――キュレネイらしいというべきか、やはりとても賢くセンスがあるよね。
ボクでは『デリバリー』という技巧の再現を、思いつけないだろう。
『灰色の血』、『ゴースト・アヴェンジャー』。
特別な生き方と能力ゆえの発想かもしれない、『ルードの狐』には無理だね……。
「『デリバリー』は、お互いの魔力や術のための構成を共有して運ぶものであります」
「そうそう。コツは、私とククルが双子だから」
「魔力の構造が、そもそも似通っているんです。『メルカ・コルン』は大体似ているんですが、私たち双子はさらに似ているからこそ、魔力の共有および補い合うことが不自然にならないんです」
「じゃあ、この赤毛と灰色髪はあまりにも似てない以上、無理なんじゃないのか?」
「ノー。私が、団長の魔力の構造を、『演じればいい』であります」
「演じる、ですか。なかなか興味深い発想です。魔力とは、元来、生まれ持っての特性そのもののはず」
「イエス。しかし、私は模倣が上手なのであります。そして、ソルジェ・ストラウスをずっと見て来た。呼吸も、体の使い方も、それに伴う魔力の動きも。すべて」
「じゃあ、キュレネイはお兄ちゃんの魔力のカタチさえも模倣しちゃうってこと?」
「イエス。魔力構造を重ね合わせて、ククリとククルに近づいてみるであります」
―――キュレネイがソルジェの胸にアタマをつけて、その心音を感じ始める。
竜鱗の鎧が邪魔ではあるが、些細な障害だった。
ソルジェの魔力の動き、血の動き。
心臓の拍動を、キュレネイはその全身で感じ取っていく……。
「わー。すごい。呼吸が、ピッタリ重なっているね。きっと、心臓のドキドキのタイミングも同じ。さすがは、キュレネイ」
「……マジ、かよ。体内の魔力の動きを、も、模倣なんて真似、やれるのか?」
「イエス。器用さは、私の得意分野であります」
「器用だとかどうとかのレベルじゃ、とっくにねえというか。プレイガスト、こんなの、あり?」
「ここまでの器用さなど、実在するなどと考えたことはありません。しかし、目の前で起きている事実が、すべてですね。究極の模倣の達人ならば、自分以外の体内魔力構造さえも再現してしまう……どの種族の血でもない、すべての種族の血が混じった、『灰色の血』であるからこその力、というべきなのでしょうか」
「イエス。そんなところであります。『オル・ゴースト』は、私をそのために作った」
「いいや。オレといっしょに猟兵をやるために、お前は生まれたんだぞ、オレのキュレネイ・ザトー」
「……イエス。そちらの方が、私らしいであります」
「なんだよ、その特殊ないちゃつき」
「何でも性愛に結びつけて考えるのは、良くない、浅はかな考えであります」
「そうかよ。悪かったな。だけど……いや、黙っておくか」
「それでよし。乙女を詮索するのは、下種の行いであります」
―――無表情さが伝わるほどの声質ではあって、感情表現のない声なんだよね。
普段のキュレネイ・ザトーの声は、そんなものだった。
でも、ちょっと違うのさ。
ハーフ・エルフで運命的な悪女に恋する少年には、その差が分かるようだよ……。
―――融け合うような、もっと露骨に言えば愛し合うような密着の感覚。
ソルジェの魔力の構造に、キュレネイの魔力の構造は重なるというか。
ノヴァークにはまるで、抱き合う恋人たちかのように見えたようだ。
金持ち商人の家に生まれた彼は、劇場でペアの舞踏を鑑賞している……。
―――その場で表現されていた、セクシャルなレベルの男女の一致芸。
それにも似ているようで、彼自身が引っ込めた自己検閲の言葉によると。
「ほとんどセックス」、という感覚だった。
魔力レベルで絡み合いながら重なるのだから、まあ近しいかもしれない……。
―――根本的な違いは、これが魔術であり戦闘のための行いってこと。
キュレネイと、ソルジェは猟兵だ。
この術の威力を考えれば、笑える。
戦いを愛しているのさ、我らが猟兵たちは……。




