第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千二十
―――咆哮で呪いをかける、という発想は『狼男』にはピッタリだよね。
『影枷』を仕掛ける方法としても、『巨狼』に化けてから浴びせかけられたら?
戦場に君臨する巨大な獣から、誰が目を離せられるというのだろう。
解剖学についても習得済みという点も、『影枷』には向くのだが……。
「や、やれるでしょうか……っ」
「『声』を呪術の触媒として使うのは、古典的なものだよ」
「そ、そうなんですか。そ、そう言われると、そんなお話を、聞いたことがあるような気もしますっ」
「基礎的な呪術でもあれば、奥義としても扱われる。『声』と『喉』の呪術というものは、そういう領域のものになる。つまり、呪術の根幹でもあるのさ」
「う、うう。基礎という点は、安心できますけれど。お、奥義のレベルとなれば……ぼ、ボクには難しいかもしれませんっ」
「ジャン。ゆっくりと成長していけばいいんだよ。クンクン呪術のほうは、完璧なんだし」
「く、クンクン呪術っ」
「イエス。分かりやすくはあるであります」
「クンクン呪術は可愛らしすぎるから、やめてやれ。嗅覚呪術の方が、やはりカッコいい。呪術はカッコいいほうがいいだろ?」
「呪術師としては、そちらがいいですな」
「オレもだ。一応は、呪術師だからな。少尉だって、同じ判断をするよ」
「そーかなー。女子としては、意外と可愛いもの好きかもしれないじゃない」
「そんなタイプじゃ、ないよ。度数の濃い酒を、塩舐めながら味わうような女性だぞ」
「かなりの酒好きだな、シドニア・ジャンパーは」
「そうさ。可愛いとかよりは、カッコいいのが好きなんだよ」
「そ、それは、ともかく。やはり嗅覚呪術と呼んでほしいです。あ、アルトーから伝わったものなんです」
「先祖伝来の呪術なら、クンクン呪術よりは嗅覚呪術の方がいいよね」
「たしかに、迫力が維持されますし」
「分かった。ジャン、嗅覚呪術で行こう」
「た、助かりました……」
「で。『声』の呪術についても、教えて欲しい。『影枷』を仕掛けられてはいるが、重ね掛けしてもいいところだよな」
「ええ。ゼファー殿が『声』の呪術を放つことで、この戦場の『影枷』の完成度は、より高まるでしょう」
『おしえて、ぷれいがすと』
「『声』の呪術は、感情を込めることが肝要です」
―――感情と魔力の属性は、かなりの関連性があるものさ。
『喜び』は『炎』に、『悲しみ』は『風』に。
『怒り』は『雷』に、というのが三大属性の傾向だ。
『怒りの声』と、神経と筋肉を呪う『雷』の呪術『影枷』は相性がいい……。
「怒りを、ぶつける感覚です。呪術は、微小な魔力の量で成り立つものですが、魔力の流れと質と属性には、依存しているものです。肺腑に空気を呼び込みながら、その空気に『雷』が混ざるように集中力を使うの始まりになります」
「肺腑にまとわりついている血管を、『呪術を編むための道具』として使うのか?」
「さすがは、ストラウス卿。そうなりますな」
「想像がつきやすいものだよ。ジャンも、やれるんじゃないか?」
「は、はい……そ、そうかも……しれませんっ。魔力を高めるための基礎訓練として、リエルにやらされた気がしますから、そ、それ」
「エルフほど魔力のコントロールが上手いわけじゃないが、基礎訓練としてはよくあるヤツだ。『炎のおてだま』と同じようなもんだな」
「あれは『炎』の魔術の才能がないと出来ないでありますが、呪術ならば、より魔力が小さくても使える」
「う、うん。肺腑に……『雷』の魔力を、送るカンジにすれば……やれる、かな」
「ゼファーちゃんは、余裕でやれるよね」
「プレイガストさんの動きを、もう完全模倣していますし……」
「正直、これは『歌』を放つときと」
「同じですね。ゼファーちゃんは、もう前々からちょっと無意識のうちに使っているかもしれません」




