第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千五
「女の子を犠牲にする以外に、お兄ちゃんたちの追跡を回避する方法ってあるの?」
「竜の呪術や、『狼男』の呪術にも勝るためには、かなりの残酷な方法がいるのは確か。外道の術に頼らずには、不可能に近い」
「不可能に近いのなら、あるんだね。あなたは何かを見つけてる」
「……無垢な純粋さとは、とても不思議なものだ。私の考えなど、見えないはずなのに」
「ミアは猟兵であります。ガルフ・コルテスが幼い頃から教育した唯一無二の純粋な猟兵。戦いに関することならば、賢さ以上の力を発揮する」
「えっへん!賢くなくても、鋭いんだー!」
「言い得て妙だ。だが、そうだ。私は見つけているよ」
「じゃあ、教えてよ」
「追跡を惑わす。認識から逃れる。それの最上級の力ならば、竜や『狼男』からさえも逃げおおせるかもしれない」
「なるほどな。分かっちまったぜ。オレも、アホだが、鋭いタイプだ」
「私もだよーん。お兄ちゃんと、おそろいだね」
「ぼ、ボクもです。あれですね。つまり、し、『侵略神』。あいつらは、た、たしかに認識のしにくさがあります」
「非対称のルールがある。あちらから干渉されない限り、こちらからは見えない。つまりは、神々の力を用いれば、竜や『狼男』の追跡さえも惑わせられるかもしれない」
「私たちの祖である『星の魔女アルテマ』。彼女が手に入れた『星』みたいに、ヒトが使えてしまう『侵略神/ゼルアガ』だってあるもんね」
「神だけでなく、『神をも創る力』もありますよね。シドニア・ジャンパーは『トゥ・リオーネの地』で、祭祀呪術を探していた。祭祀呪術の最盛期と、アルテマが『プレイレス』で生まれた時代は似通っています」
「左様。それらの力を使えば、呪いの痕跡さえも歪めてしまうかもしれない」
「しかし、それだけの力をシドニア・ジャンパーが有しているかどうかは不透明であります」
「その点は、ノヴァーク。君に聞いておくべきだろう。どんな印象だね?」
「……あちこちで、かなり祭祀呪術関連は漁っていた。ゼルアガと遭遇したとまでは聞いちゃいないけど。祭祀呪術で、何かしらの妨害ぐらいはしてくるかも。アンタらがオレたちの詐欺ビジネスを暴いたことを喧伝しちまった。少尉の耳には、状況が入っているかもしれない」
「じゃあ、ノヴァークが『エサ』なんだね」
「オレが、エサ……」
「お前から情報が漏れることを、シドニア・ジャンパーなら計算しているのさ」
「ノヴァークを、爆弾にしちゃうかも」
「お、おい」
「なくはない。ハーフ・エルフだ。潜在的な魔力はなかなかのもの。外道の術ではあるものの、倫理に反するに値するだけの効果はある」
「少尉は、オレをそんな使い方、するわけないだろ…………いや。そう、だな。もしものときのために、仕込んではいるかもしれない。オレは、それを、望んだこともある」
『そいつ、おっことす?』
「ふ、ふざけんな」
『ふざけてはいないよ。ほんきだもん』
「ま、ますます悪いぞ。おい、ソルジェ・ストラウス。オレという捕虜みたいな存在を殺せば、アンタの名誉に傷がつくぞ」
「殺しはしないさ。お前が罠になることぐらい、想定済みだ。ゼファーもだ。ただ、選択肢を語って確認しただけのこと」
「じゃあ、脅すなよ……」
「対策なんて、いくらでもある。むしろ、あっちから呪術を使ってくれるなら、より多くの情報を得られるのは確かだ」
「……オレごときが、呪術で洗脳されて大暴れしてもたかがしれていると?」
「まあ、そうだな。猟兵を倒せる力は、お前には出せん」
「クソ。否定は、しない。アンタらは正真正銘のバケモノだからな」
「観測用の、目にする可能性は高いでしょう。呪術は距離を越えられるのも特徴ではありますが、それでも近ければより多くを伝えもする。シドニア・ジャンパーに近づけば近づくほど、ノヴァークはスパイとして機能する」
「『逆流』を仕掛けるってわけだな。こっちの会話を聞いている可能性もある。それは、ノヴァーク自身も望むことだ」
「……オレが、自分から呪術を使って少尉に情報を伝えてるとか思ってる?」
「してもいいぞ。むしろ、しろ。それを期待して、乗せて来てもいるんだし、そもそもこんな会話をしているのも、お前の行動を引き出したいからでもある」
「……アンタ、自称アホのくせに。詐欺師のオレを操ろうとしているんだな」
「まあ、アホだからといって戦争が下手とは限らん。より正確な状況が明らかになるほど、呪術は冴えてくるもんだ。さっさと、つながってくれ。自力で無理でも構わん。どうせ、切れ者のシドニア・ジャンパーなら、そろそろノヴァークを利用してくるだろう」
「どこが、アホなんだ―――『そうだ。ソルジェ・ストラウスよ。思っていた以上に、恐ろしい相手らしい』」
「ああ。ノヴァークのカラダに色々と呪術を仕込んでるのなら、自分の声でしゃべらせることぐらいやれちまうのか。惚れ惚れするほどの呪術師だな」




