第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その千
「……それなら、恥ずかしくない戦いをしなければならない」
「ええ。その覚悟が、必要ですよ」
「メイウェイ、兵站構築については、ほとんど完了している。オレの出番は、もう終わっただろう。偵察に出ても、いいだろうか?」
「……許可しよう。十名の兵士を連れて行くといい。南西にある帝国軍の拠点、そこの敵は気になるところだ」
―――北と西、および北西に関しては敵を警戒する必要がなくなりつつある。
キュレネイ・チームによる攻撃のおかげで、かなり混乱を広められたからね。
イルカルラや『ペイルカ』からの援軍たちも、合流しつつある。
叩き忘れているというか、プレイガストの脱走で混乱していたせいだろう……。
「動きが悪かったからね。結果として、戦力を削り切れていない」
「レビン大尉とやらのおかげだな。彼は、そろそろ戻ってくるだろう」
「同じ大尉同士、いじめたりするなよ?」
「オレがいじめなど、するはずもないだろう。上下の立場は、弁えさせることがあったかもしれないが……」
「仲良くですよ、レイ・ロッドマン大尉。彼は『トゥ・リオーネの地』における帝国軍の内情に詳しい人物です」
「分かりましたよ。ちょっと、気を付けるとしましょう。裏切られては、困りますからな」
「まあ、信用しにくいよな」
「……いいや。彼は自分の立場を分かっているはずだよ。裏切り者として認識されてしまった以上、帝国軍に居場所はない」
「とにかく、オレは偵察に出る。さっきの襲撃者どもも、退路が南西だったからな。襲撃用の拠点を、作っているかもしれない。見つけられたら、敵の動きをそもそもつぶせるかもしれない」
「その通り。任せたぞ、アーベル・レイオーン」
「おう。我が姉上に、恥じぬ戦いをするとしよう」
「いい言葉だ。多くを背負うといい。背負うほど、お前は強くなれるだろうから」
「期待しすぎも、しんどいんだぞ」
「しすぎてはいないよ。十分に、こなせるはずだ」
「ですです。がんばってみてください。結果を、出せちゃうはずですから」
「賢い人たちがそう言ってくれるなら、ちょっとは安心できるかもな」
―――アーベルは若い学生兵たちと共に、偵察へと向かった。
メイウェイの指揮に好ましい反応を見せた者たちで、メイウェイ自身が選んだ者たち。
アーベルの部下として配属したいと、メイウェイは考えてもいる。
この戦を通じて、軍全体の骨格あるいは神経にしたい有能なメンバーたちさ……。
「若く、有能な者たちだ。彼らを育てておきたい。私は、いつ軍隊を取り上げられるかも分からない立場だ」
「メイウェイさんの軍を、取り上げさせはしませんよ」
「そう言ってもらえると、少しは安心する」
「ソルジェさんが望むからです。実際、貴方以上の将軍を探すのは不可能ですからね」
「有能だとは、私も思っているよ。だが、後ろ盾は少ない。血筋など、悲しいほどに貧弱だから。実力だけでは、どうにもならない場合だってある」
「弱気ですね。心の傷が、貴方ほどの逸材も縛るようです」
「政治は、戦ほどシンプルではない。居心地が悪いが……」
「貴方も『王』を目指しているのでしょう。それならば、身に着けておくべきものです」
「……ああ。耳が痛いが、理解しているよ」
「……世の中には、序列が揺るがされることを嫌う人々がたくさんいます。メイウェイさんは、とても優秀な軍人なので、多くの人々が『自分の立場を奪われる』と怖くなっているのです」
「誰かを追いやる程度の実力は、確かに私は持っている。衝突は望まないが……いや、そこが良くないのかもな」
「地位は奪い合いですからね。貪欲に主張したほうが、貴方の場合は、より多くを得られるでしょう」
「……王の立場を望む。都市国家の王でもいい。巨大な王朝などは、向いていないだろうから。城塞の強い、複数の国境に触れている土地が理想的なんだ」
「定期的に戦争が行える土地、というわけですね」
「何でも、お見通しだな。さすがは、『自由同盟』の巨大な頭脳」
「貴方は戦争の天才です。軍隊を指揮させれば、恐ろしく強い。戦争で政治力を得たいと考えているのね。敵を打ち負かせば、内部の不満は解消される。政敵だって、遠ざけるでしょう」
「政治をやるより、よっぽど確実だ。『イルカルラ』での失脚の原因に、『戦争が足りなかった』、という点がある。私の才は、けっきょくのところ戦争にしかないんだ」
「生粋の軍人、なのですね。『パンジャール猟兵団』の始祖の言葉には、戦争を行う理由は二つだけ、金と政治力だ……というのがあるんです。貴方はまさに、その後者の化身」
「あまりいい手段とは、思えない。でも、けっきょくは、そこが私の頼るべき才能なのだ」
「素直な認識ですね。問題は、ありませんよ。今は乱世です。戦で、全てを語らう時代。貴方の才能の報酬に、王国ひとつは十分に見合うもの」
「もっと、突っ込んだ話をしてもいいだろうか」
「どうぞ。予想は、出来ていますので。『架空の国』を、本物の王国に、なんてことでしょう」
「まさに、その通りだ。シドニア・ジャンパー少尉とストラウス卿の力が合わされば、偽物の皇太子国が作られる。だが、その資金と資材は本物だ。私は、どこかの国を奪うよりも、その国の王に相応しいような気がしている」
「ええ。それは、私も同意見ではあります」




