第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その九百九十九
―――正直、ロロカは自分のことをロマンチストだと思っている。
おそらく、実際のところはそれなりにロマンチストだろうね。
さすがに、詩人であるボクほどじゃないけれど。
賢すぎるから、ちょっと知力を使うだけでえぐいレベルで切れ者になるから……。
「女性なので、運命とかも、ちゃんと好きですよ」
「お、おお。そっか。そうだよね。なんだか、もしかして騎士道に反する発言だったのかもしれないな」
「そうです。アーベルくん、女性の心というものを、ちゃんと学びましょうね」
「わ、分かりました」
―――騎士道とは忠誠心と正義、ときに主君の過ちを正すほどの正義。
そして、ソルジェがある程度はそうであるように女性に優しい男であることさ。
アーベルのように傭兵団で戦場暮らしが長いと、そのあたりの育成は乏しくなる。
殺伐とした青春など、送るものじゃないよね……。
―――ロロカはその事実を察すると、左右の眉毛をむーっと近寄らせた。
昨今の若者たちの恋愛観が、歪んでしまっているのではないかなど。
少なくとも女性に対しての認識が、よろしくない少年が増えたかもしれない。
もしかして戦場から復帰できないタイプの兵士が、増えているかも……。
―――アーベルは別に構わない、誰に仕えようとも自分が王になろうとも。
騎士道精神と戦士としての生き方を、徹底的に貫けばそれで問題はないのだから。
だが、アーベル以外の一般的な戦士たちはどうなるのだろうか。
ちゃんと社会復帰できないかもしれない、特別なレベルの戦士は多くいても困る……。
「ああ。アーベルくん、私がロマンチストであることを証明できますよ。戦場でもいいから、ダンスパーティーでも開くべきだとか、考えちゃっていますから」
「……何で?いきなり?」
「ロマンチストだから、ですね。ウフフ。アーベルくんは、どんな女性をお誘いになることやら」
「……ロマンチストっていうより、天然ってヤツじゃねーか……?」
「か、かもしれません。ときどき、言われるような気がしたしますね」
「天然でも、ロマンチストでもいい。アンタがめちゃくちゃ優秀な軍師のたぐいだってことは、十分に伝わるからね」
「……十分、ですかね?」
「分かったよ。ロロカ・シャーネル先生は、とてもロマンチストな女性です。魅力的なレディーですね」
「うわ。心がこもっていないですよ」
「人妻に対して心がこもった褒める言葉って、使っていいのか?」
「口説いているわけじゃないので、お褒めの言葉はいくらでも構いません。むしろ、北方文化の価値観においては、上級王の后を褒めない行為のせいで、首をはねられた戦士はいくらでもいます。まあ、逆に。褒めたせいで殺された者もいますけれど」
「なんだよ、どっちにしても殺されてんじゃないか」
「適切な距離感を保つ。それって、とても大切なのでしょうね」
「……はあ、難し過ぎて戦士のアタマじゃ、追いつけないよ」
「いえいえ。いいカンジの軽口だと思います。そういう距離感で、女性に接していきなさいな」
「……んなことより、戦について学びたいよ」
―――その職業的なマジメさも、けっして悪いものじゃない。
ボクやロロカは、そんな判断をしている。
マジメな男は意外と少ないから、貴重で価値の高いものさ。
ロマンチストなボクとロロカは、アーベルのマジメさに惚れる恋人を妄想した……。
『アーベルの恋人とか、すごく楽しみだね。どんな女性かな?……ハーフ・エルフとかかもしれないし、もしかすると、どこかの『女神』さまかも』
―――ロロカの『水晶の角』に、反応があったそうだ。
故郷のバロー・ガーウィックで、悪神に操られた経験があるからね。
その屈辱の経験を、ロロカらしく『次』に活かそうと修行していたわけだ。
だから、『何か近くに神さまがいる気がした』そうだよ……。
『すごいね。ロロカ・シャーネル先生、私にちょっとだけ、気づきかけている。仲良くなりたいな。もっと、アーベルの人生相談をしてみたいというか。でも、分かってる。あまり神さまは世の中に関わり過ぎたら、ダメなんだよね。見守る距離で、いるべきなの。さっきも、アーベルを甘やかしすぎてしまったし……』
「どうか、したのか?」
「……ええ。不穏な気配を、わずかに感じたのです」
「まだ、帝国軍の工作兵が紛れ込んでると?」
「いいえ。そんな雑魚よりも……でも、まあ、貴方の近くから感じたので、問題ないでしょう」
「オレの、近く?」
「『ゼルアガ/侵略神』に似た気配ですよ。でも、思っていたよりは、悪しきものじゃない。多分、貴方の姉上でしょうね」
「……アリーチェが、近くにいると?」
「ええ。『オルテガ』にも、介入していたみたいですよ。不確かですが、ソルジェさんとゼファーの直感なので、おそらく真実でしょう」
「ソルジェ・ストラウスに、憑りついてるんだな」
「『ゼルアガ/侵略神』にも似た力の持ち主なので、時間や空間、『数』さえも、もしかしたら超越しているかもしれません。つまり、いつどこにもで、誰にでも、憑りつけるかもしれません」
「マジかよ、姉上がそこらに?」
「はい。ありえると思います。私の直感も、外れることは稀なんですよ」




