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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百五十八


―――必死な祈りのすべてが、叶えられるほど理想的な世の中ではないけれど。


『彼』の祈りは通じていたよ、空にぶん投げられてしまったフリジアを追いかけて。


ソルジェは『ゴルメゾア』に背中を見せて、飛んでいく。


あまりにも無防備にね、読み合いをしているのはお互い様だよ……。




―――命を狙うこともやれるほどの無防備さを、猟兵が晒すことはメッセージでもある。


『彼』がフリジアの救助を、妨害するはずがないと信じていた。


無数の目玉の半分が、ソルジェの背中を見ていたよ。


青く透き通った夏の空に、赤毛はまるで血のように映える……。




『助けて、やってくれ……っ』




―――自分で投げ捨てておいて、こんな言葉を使うなんてあまりにも無責任だ。


フリジアを痛めつけておいて、空に捨てておいて。


心苦しさで、胸が張り裂けそうになる。


面影に過ぎない『彼』だからこその、純粋さもあったかもしれない……。




―――信仰心がくれるはずの、強くて堅固な理論武装は行方不明だ。


あらゆる罪科に、女神イースの赦しが与えられるはずなのに。


かつてのレナス・アップルならば、もっと怒りですべてを操れたはずなのに。


理論武装の考えなんて出なくて、あふれてぐちゃぐちゃに感情は混じるだけ……。




『死なないで、フリジア……っ』




―――言い訳なんて、浮かばない。


だから、率直な言葉だけを使おう。


『ゴルメゾア』の目玉に、涙を流す機能があったとすれば。


きっと、空に向かってボロボロと泣いたはずだった……。




―――これは、戦いのために創られた守護者だから。


無数の目玉たちは、フリジアとソルジェだけを見つめているだけじゃない。


目玉たちの半数が、より高い場所をにらみつける。


そこにあるのは『もうひとつのオルテガ』と、女神イースだ……。




―――千年の祈りを託されたから、『彼』は戦いに赴く。


どんな罪深いことをして、どんな裏切りをしたとしても。


千年の祈りを託されたからだけじゃなく、自分で選んだ道でもあった。


どんな苦しみにも耐えて、どんな痛みにもひるまずに突き進む……。




―――フリジアを見つめながらも、戦いのために天を目指した。


ゼファーは『ゴルメゾア』を追いかけたくもなるが、落ちていくふたりを選ぶ。


『ドージェ』とふたりでなければ、フリジアを助けられないから。


金色の瞳は、敵よりも大切な者たちを選ぶ……。




『ふたりを、たすけるから!!……あとで、おぼえてろ!!』




―――地上に向けて落ちていくフリジアに、ソルジェが抱き着いた。


痛そうなうめきが、彼女のちいさな口から鋭く飛び出していたよ。


それを聞くと、ソルジェはニヤリと笑う。


もっと酷く痛めつけられるかもと、アタマの片隅で考えていたのさ……。




「いいヤツだなあ。本当に、『カール・メアー』め。命を奪う気が、全然ない」


「そ、そうだ……あいつは……いいヤツだよ。本当に、優等生だ……ッ」




―――空を見ていた、上昇していく『ゴルメゾア』の赤い姿を。


フリジアにも理解できる点は、多々ある。


『彼』こそが、誰よりも純粋な『カール・メアー』の巫女戦士だった。


その事実に、どんな感情を抱けばいいのかは分からない……。




「バカ野郎……っ。私も、連れて行けばいいのに……っ」




―――数日前のフリジアなら、悔しさだけでそう言ったかもしれない。


でも、今はぜんぜん違う。


もっと複雑で、もっと説明しにくい。


ぐちゃぐちゃに融け合う感情があり、それらは涙になってあふれた……。




―――熱い涙で視界は揺らいで、レナス・アップルは遠ざかっていく。


そばにいてやるべきだと、選んだはずだったのに。


罪滅ぼしかもしれないし、同情かもしれない。


友情だとも思うし、信仰心でもあるはずだった……。




「届かなかった、よう……ッ」


「いいや。多分、届いている」


「そう、だろうか……」


「すごいヤツさ。お前も、偉大なヤツだ……だが、今は……生き残ることに集中しろ!!」




―――ゼファーが空を旋回しながら、落ちていくふたりのそばに到着する。


ソルジェは右腕でフリジアを抱えたまま、左腕を伸ばした。


握力一つで、ゼファーの背中に取りついたよ。


そのまま密着していけば、ゼファーに任せればいい……。




『おちないでね!!しっかり、つかまっててね!!』




―――地上が迫るギリギリの高さで、ゼファーの漆黒の身が踊った。


羽ばたきに大きく揺れる背中は、急に角度が変わっていく。


フリジアは天と地が、それぞれどちらにあるのかも分からなくなった。


だが、それも一瞬のことに過ぎない……。




―――ゼファーは安定した軌道で、飛行してくれている。


戦いでボロボロになった『オルテガ』の街並みの上空を、ゆっくりと飛んだ。


フリジアは重力の方向を思い出したみたいで、安心した。


すぐに空を探したけれど、『ゴルメゾア』を見つけられない……。




「行って、しまったんだな」


「そうだ。オレとゼファーも、すぐに向かう」


「私も!!私も、連れて……うぐうっ!?」


「無理だな。あちこち、骨にヒビが入っている。まともに動けやしない」




「あ、足手まといになるとでも……ッ」


「ああ。そうだ。それに、死なせるわけにはいかん。フリジア、お前は地上に置いていく」


「い、いやだ!!」


「知ってる。でも、お前はもう戦場に行かなくていい」




「……私は、役立たずだ……」


「そう考えているとすれば、やはりアホな子だ」


「ん。どういう意味だ……?」


「よくやったと、褒めている。お前は、自分も周りも、敵も変えちまっているぜ」




「そんな実感など、ない……」


「なくてもいい。事実は変わらん。お前は、役目を十分に果たした。あとは……」


「あとは、どうすればいい?」


「祈って待っていればいい。あとは、オレたち『パンジャール猟兵団』の仕事だ」





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