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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百五十六


―――シモンは武器も捨てて、ただもがいていたよ。


泣きじゃくりながら、必死にこの戦いの場から逃げ出そうとする。


戦いそのものも怖かっただろうし、自らの犯した罪科についてもだった。


ビビアナを殺そうとしたときの、おぞましい衝動を体から振り払いたい……。




「あれは、違うんだ。本当の私なんかじゃない!!」


「何を、言っているんですか!?興奮しないで、暴れるな!!」




―――無理やりに押さえつけるしかない、パロムはマジメだったからね。


『本当の私なんかじゃない』という言葉を、深読みしてしまう。


もしかすると、女神イースに操られていたのかもしれない。


そういう可能性を否定するための材料は、パロムにはなかったから……。




―――つまり、ぶん殴って気絶させるという最良の選択をしなかったんだ。


乱暴だろうけれど、このあまりにも奇妙な状況ではそれが最善だった。


まだ若い戦士だから、しょうがない。


誰に聞いても最良のアドバイスなんて、与えてやれなかっただろうから……。




―――すべての情報をパロムが知っていれば、容赦なくぶん殴っていただろうに。


あるいは、この結果的にトラブルメーカーとなった小市民を処刑したかもしれない。


彼は追い詰められていたとはいえ、ビビアナを殺そうとしてしまったのだから。


戦場の熱量に狂わされたという理由は、生粋の戦士であるディアロスには通じない……。




―――パロムが、シモンの対応に手を焼いているとき。


ソルジェとゼファーは、順調な戦いをしていた。


『ゴルメゾア』の体当たりを回避するか、あるいは組み伏せるゼファー。


それらに連携して、竜太刀で傷を与えていくソルジェ……。




「このまま、勝たせてもらうぞ。オレたちに必要なものは、メダルドの融けた部分だけだからな」


『見えて、いるとでも!?』


「ああ。見えている。魔眼の調子が、いつになくいい。『氷』も感じ取れそうだからだ」


『何を言っているのか!!この、怪物め!!』




「大魔王と、呼んでくれて構わんぞ」


『誰が、呼ぶか!!』


「その気の強さは、嫌いじゃない」


『こっちは、心の底から大嫌いだよッッッ!!!』




―――圧倒的な余裕があり、魔眼の分析は深みを増していく。


『ゴルメゾア』の、メダルドを含まない部分を選ぶように斬りつけられるほどに。


ゼファーも魔眼で共有する知覚を頼ることで、ソルジェの意図に沿えた。


ふたりともメダルドを傷つけることなく、『ゴルメゾア』だけを殺せると確信する……。




―――たとえ『ゴルメゾア』が、俊敏に跳ね回ったところで。


いかなるフェイントも、ソルジェとゼファーには通じない。


『カール・メアー』の武術に、『ゴルメゾア』の動きは固執していたからだ。


とっくの昔に、その動きをふたりは読み切ってしまっているのに……。




『なんで、こうも……容易く……ッ』


「『カール・メアー』が好きなんだな、お前」


『あたり、まえだ!!救ってくれた……救ってくれたんだ!!』


「だから、女神イースのために戦うか」




―――ソルジェは、その忠誠心を気に入っている。


酒でも酌み交わしてみたいとでも、思うほどに。


だが、猟兵の長だからね。


気に入った相手であっても、ちゃんと殺せるよ……。




―――『ゴルメゾア』のやぶれかぶれの突撃を、ゼファーが回避した。


それと同時に、ソルジェは『ゴルメゾア』の背中に飛び乗った。


竜太刀を深々と突き立てて、この女神の守護者を仕留めにかかる。


悲鳴と返り血を浴びながらも、容赦はしない……。




「長く苦しめるつもりは、ない」




―――猟兵にとっての、職業倫理だ。


戦場で無駄な苦痛を敵に与えることは、許しがたい罪だからね。


魔力の流れをより見抜ける今のソルジェなら、外科手術のような精密さを使える。


『ゴルメゾア』を『殺せそうな部位』さえも、見抜けていたんだ……。




―――その『急所』に、竜太刀の先端が触れたとき。


『彼』の感情が、あふれていた。


死の感覚を、『思い出している』。


レナス・アップルは朝に殺されたばかりだから、そのときの感覚が残っていたのかも……。




『い、いやだ!!し、死にたくない!!女神イースの、役に立てないまま……ッ。そ、そんな終わりは、嫌だあああッ!!』




―――強烈な自己嫌悪を抱えた者は、誰かのために生きたがるものだよ。


レナス・アップルも、そんな悲しい衝動の囚われだった。


最高の聖歌の歌い手だとしても、もはや自分に価値は見つけられない。


だから、女神イースにすべてを捧げたかったはずなのに……。




「お前は、よくやっているぞ」


『お前なんかから、ほめられたくない……ッ!!』


「だとしも、終わりだ。もう苦しむな」


『い、いやだ……ッ』




―――その勝負が、つきそうだったとき。


ビビアナの視界は、フリジアを見つける。


彼女は『ゴルメゾア』に向かい、走っていた。


叫んで腕を伸ばすが、その指は親友を捕まえることが出来なかったんだ……。




―――パロムも、フリジアの突発的な行動を見逃してしまっていた。


シモンなんかに、意識を注ぎすぎた結果だ。


大きな失態だと気づき、それと同時に不安に押しつぶされそうになる。


フリジアの動きは、ついさっき見たビビアナの気迫と同じだったから……。




「し、死ぬ気ですか!?」




「レナス!!レナスっ!!」




―――フリジアは、約束を果たそうとしていた。


せめていっしょにいてやるために、『ゴルメゾア』のそばへと向かう。


ゼファーがあわてて、フリジアを止めようとしっぽを動かしたけど。


彼女は、素晴らしい俊敏さでそれを飛び越えてしまった……。




―――血まみれの『ゴルメゾア』に、フリジアが飛びついた。


目玉のひとつが、すぐそばにいるフリジアを見つめる。


レナス・アップルにとっては、家族を失って以来。


おそらく、初めて得られた友情めいたものだろう……。




「ひとりには、しないぞ……ッ。怖がるな……私は、ここにいるんだ」




―――いいヤツだと、思えてしまう。


『彼』にとって、リュドミナはあくまで師だから。


友人という立場には、なれないだろう。


本当に『なりたい関係』は、そもそもそれじゃなかっただろうしね……。




―――歴史に、もしもなんてないけれど。


想像力は、もしもを許容する。


『彼』はフリジアと、友情を築けたかもしれない。


もしも、そうだとすれば……。




―――ああ、夢のような『もしも』を楽しめる。


リュドミナのもとで、友人までいる日々。


それは、魔法のように幸せな日々になれたかもしれない。


フリジアはガンコなところもあるけれど、敬虔なイース教徒ではある……。




―――何より、友人のためなら死をも厭わない心の持ち主だ。


そんな彼女が、となりにいてくれたなら。


何かが大きく、変わっていたような気がする。


その可能性をくれたフリジアに、このとき『彼』は感謝した……。




『ありがとう、フリジア……』




―――歌えたような、気がした。


まだ未練がある、歌について。


使命のために歌うだけじゃなく、ただ心のままに。


だから『彼』の宿った眼玉は、涙とともに……。




『ごめん。利用させて、もらうぞ!!!』




―――理解していたことがある、フリジアの行動で動揺した者の存在だ。


フリジアが抱き着いたとき、竜太刀が止まっていたのさ。


ソルジェも人の子だからね、心が行いに反映されてしまうものだ。


不覚にも、悟られてしまっていた……。




『ソルジェ・ストラウスは、お前を評価しているらしい!!!だから、お前を『人質』に使えるんだよ!!!』




―――密偵だとか、暗殺者なんて生き方をしていると。


自然に磨かれていく感覚が、いくつかある。


ヒトの弱点を見抜き、それを反射的に利用するようになるんだ。


困ったことに、レナス・アップルは才能豊かな巫女戦士だった……。





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