表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4098/5095

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五十


 幻覚の一種なのは、アタマで分かっている。


 当然だ。


 いくらガルーナの野蛮人でも、過去と現在を間違えることはない。これは、『ギルガレア』の罠でしかないのだから。


 それでも。


 セシルを殴る影がいた。七歳のセシルを殴るバルモアの兵士どもが……お袋の姿も見えた。敵どもをにらみつけていた。殴られて、斬られて。血まみれになっても、怒りに燃える真っ直ぐな、おふくろらしい目だったよ。


 炎のなかに。


 みんながいた。


 ストラウス家と共に生きてくれた、村の……みんなが。


 焼けていく。


 断末魔の叫びさえも、黒く焦げていく。


 女子供と年寄りしかいなかったのに。若い男たちや、戦士は、バルモアと戦うために出撃していたのに。残酷に、痛めつけた。とんでもない憎しみが、バルモアどもにはあった。オレたちのせいだろう。


 ストラウスの竜騎士は、親父と兄貴たちと……竜と、オレとアーレスは。大勢の敵を殺したから。それが、悪かったとは思わん。


 戦士とは、敵を殺し、奪い、守るのが仕事だ。


 目の前ではない―――ただの記憶に過ぎない。アーレスの魔眼が見せてくれた、真実だが、過去のものだ。


 届くはずがない。


 あのときも、届かなったじゃないか……。


 記憶は、いくら鋼で斬りかかっても。ストラウスに伝わる竜太刀をもってしても、絶対に届くことがないのだから。


「あにさま!!あつい!!あついよう!!」


 ―――ああ。知っている。


 罠だ。こいつは、『ギルガレア』の罠だってことは、アタマで理解しているんだよ。教え込もうとしているに違いない。過去を、救う方法を……それは、本物でなかったとしても。このとてつもない心の痛みを、セシルがいない空虚を、みんなを助けられなかった苦しみを。


 孤独を、埋めてくれるのだ。


 ありえなかったことをする。


 現実ではないが、まるで現実のように、竜教会のなかは熱くて。血と命と叫びが焦げていくにおいに満ちていて。


 それでも。


 走れる。


 『今』は、ここを駆け抜けられた。


 あのときは間に合わなかったが、今は、今日は……間に合っていた!!


 竜太刀を振るう!!


 『ストラウスの嵐』を叩き込み!!片っ端から、バルモアどもを殺す―――どいつもこいつも、今のオレとアーレスならば、敵ですらないのだからな!!


 敵どもを斬り裂いて……。


 泣きじゃくりながらも、喜んでいるセシルを見た。


「あにさま!!やっぱり、来てくれた!!」


 殴られて腫れた顔で、セシルは笑ってくれるのだ。


 9年もかかった復讐よりも。


 復讐の果てに得た、記憶のなかに感じられた笑顔よりも。


 ……このときに間に合った方が、笑顔は大きくて。強くて、深くて。かがやいている。


「セシル!!」


 大切な名前を呼んだ。もう記憶にしかいないはずのセシルが、抱き着いてくれる。オレと同じ赤い髪。オレの妹。オレが絶対に守るべき命。いつか、『未来』で、ストラウスの赤い髪を持った、新しい竜騎士の母親になるべき少女だ!!


 間に合っていた。


 間に合ってしまっていた。


 抱きしめて、世界でいちばん幸福な顔で、泣きじゃくりながら。赤い髪に、あにさまは鼻を埋める。


 セシルのにおいがした。セシルのあたたかさがあった。セシルが、いた。


 ……間に合えていたら。


 運命を変えることが出来ていたら。


 こんな幸せを、腕のなかに……迎えて、いられたんだな――――――。


「あにさま!!あつい!!あついよう!!」


 叫びが。


 叫びとね、炎がね。オレの腕のなかで、暴れていた。もがいていた。必死に、叫ぶ。オレが間に合ってくれるはずだと、期待して、信じているセシルが……現実のセシルが、そこにいた。


「セシル!!セシル!?セシルッッッ!!!」


 抱きしめて、火を消そうとしているのに。あにさまは、必死に、お前の体を炎から助けようとしているのに。炎が、消えてくれない。


 ああ。


 遠ざかるんだ。


 遠ざかってしまう。


 遠くに、遠くに……セシルが。


 間に合わなかったという、現実に。引きずり戻されてしまう。


 壊れそうになった。


 いや、壊れていたかもしれん。


 それは、そうだろう。オレは、助けられていたはずのセシルを、また、失ったのだ。助けられていたんだぞ!!あの9年間を遡って、セシルのところに戻れたはずなのに!!バルモアの悪人どもを、八つ裂きにして、助けられたはずだったんだぞ!!


 それなのに!!


 ただ繰り返すだけじゃなく、助けられたはずのセシルを、焼きやがって―――。


 ああ。


 怒りで、血が沸騰しそうになる。


 とんでもなく大きな声で、叫んでいた。


 遠ざかる。ガルーナが、セシルが、おふくろが……オレが間に合っていたら、してやれた奇跡が!!何よりも、嬉しいことが!!


 泣く声に、悲鳴に、焦げた死のにおいに。


 戻っていくんだ。


 赤く燃える、あの小さな骨に。


 全てが、成り果てていく。元に、戻ってしまっていく。オレの腕から、全てがこぼれおちて―――。


「……悪神め!!お前は、お前は、やはり『侵略神/ゼルアガ』だぞ!!『ギルガレア』ああああああああ……ッ!!許さん!!許さん!!オレを、オレを……ッ。こ、こんな目に、遭わせやがってえええええええええええええッッッ!!!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ