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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四十八


 ―――世界が融けて、とろけて、ぐねぐねとうねった。


 古い街並みある。まだ、それほど複雑ではないが……地形で分かったよ。『オルテガ』が作られようとしている。


 千年前か。


 『蟲の教団』たちの姿だろうか……迷宮都市に、まだなりかけの『オルテガ』に向けて、傷ついてボロボロの姿のエルフたちと、他の種族の者たちが手を取り合って進んでいる。誰もが貧相で、誰もが不幸を抱えている表情をしていた。


 戦いがあったのだろう。


 『古王朝』が滅びてから、それほど時代が移り変わっていない頃だからか。中海の周辺地域での戦も頻発していたのかもしれん。大国が消えるということは、そうなる。誰かの権力が弱まれば、土地に付け入るための隙が生まれてしまうからだ。


 困ったことに。


 人は権力を行使したがる。


 心地良いからだよ。それを『権利』だと認識して、振りかざさずにはいられなくなる。誰だって、そうだ。少なくとも、歴史上の権力者だった連中の大半はそうだ。


 ガルフが教えてくれた通り。


 権力と、金のため。その二つの理由以外に、争いは起きない。『古王朝』が消え去ったことで、交易の拠点でもある『オルテガ』の周辺には戦がやって来た。


 『蟲の教団』が生まれたのは、そんな時代だったらしい。


 戦いが、あまりにも多く続き、南のエルフたちにも戦禍は及んだ。


 戦いは、残酷でもあるからね。オレがセシルを失ったように、おふくろを失ったように、ガルーナそのものを失ったように……多くを、誰もが失い続ける時代に、森のエルフの一部は嘆き、不安に陥り、多くの者が、真の孤独を味わった。


 雨の降るなかを一人。


 ガルーナの土を幽鬼のような弱さで踏みながら、さ迷い続けた男がいるように。


 旧い時代のこいつらも、『オルテガ』を目指して歩いていた。


「私たちを、認めてくれとは言わない……罰してくれてもいい。神々の一人の半身を、私たちは連れ去ったようなものだから」


 エルフの指導者は、目の周りをくぼませていた。長い不眠でも抱えているのかもしれないし、心の奥底に巣食った孤独が、あまりにも大きいのかもしれない。


 震える腕には、多くの入れ墨があった。勇ましい伝説を刻むことも多いが、彼の日焼けした痩せ腕に刻まれているのは、名前たち。墨のにじみが同じだったから、おそらく、同じ時期に失ったのだろう。


 女の名前もあった。


 男の名前もあった。


 戦いに巻き込まれて、全員が同時に死んだのだろう。葬送のための入れ墨だった。死者の名前たちを、長旅に疲れ果て、乾いた腕が撫でる。


 大切そうに名前を呼んでいた。目の奥の闇は、どこまでも深くてね。孤独の大きさが、彼に狂人のような笑顔を与えるのだ。


 震えるのどが。


 しわがれた声が。


 ……『オルテガ』に向かいながら、歩く。


 ……男の目の前に、小さな少女が転がっていた。


 セシルのような年齢で、彼女は痩せこけて、背に矢を浴びている。ドワーフの少女だ。細くなって、今にも死にそうだ。


 男は、誰かの名前を呼んでいた。歩く、走る、こけて、這いずり、また立って、自分の娘じゃないのに、飛びつくように抱き着いた。


「ああ、ああ……かわいそうに……かわいそうに……戦に巻き込まれて、矢を撃たれたか。『オルテガ』でも、長らく戦が続いていたのか……ここならば、我々を、受け入れてくれると思っていたが……」


 死にそうな少女に、男は必死の手当をする。周りにも、頼った。


「手助けを、してくれないか……っ」


 皆が、とっくの昔に限界だから。強いるような願いを、指導者である男もすることが出来なかった。


 泣きそうになる。


 見捨てる者たちも、そうだ。見捨てられる者たちも、そうだ。


 歩いていく。乾いた足音が、弱り切っている少女を……見捨てることが合理的だと、その場の全ての者に語っていた。


 それでも。


 やさしさというものは、予想外のことを差し出してくれる。一切れのパンと、薬液の入った瓶だ。中年の女が、細めた瞳をしながら、男に手渡していた。


 うなずいて。


 受け取る。


「ありがとう。すまない……君も、苦しいだろうに」


「……ええ。そうですよ、教主さま……でも……でも……」


 泣きじゃくり始める。


 記憶のせいで、泣かされることはあるものだ。彼女の腕には入れ墨の葬列はないけれど、大なり小なり、失っているのだろう。


 この集団は、そもそも、失っているから『ギルガレア』に頼ろうとしたのだ。神々のなかから、たった一人の神さまを選んで。


 孤独を、癒してくれる神さまを探して、頼ろうとした。


 願いも、祈りも。


 痛みと苦しみの奥底から、生まれるものだ。


 必死に治療をしたが、ドワーフの少女は助からなかった。一口だけでも、飢えた口がパンを噛めたのは、良いことだったのだろうか。


 泣いていた。


 男が、泣きながらも穴を掘り、少女をそこに埋めたあとで。


 思い切り空に叫ぶ。


「……こんな、こんなことばかり起こる世界から!!我々を、救い出してください!!『ギルガレア』さま!!どれだけ、失えばいいんだ!!どれだけ、どれだけ……ッ」


 名前を呼んだ。


 あまりにも、多くの名前を呼びながら。


 弔いのために泥だらけになった腕を、太陽を殴りつけるようにぶん回した。




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