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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その十


『ぐ、ふうう!?』


 ミアの蹴りは速さと鋭さの威力をまとっている。力の押し合いみたいなものには向かないがね、この瞬間的な威力に、お兄ちゃんは合わせられるから強いんだよ。『攻撃』は、有効打を積み重ねてこそのものだからな!!


 竜爪とナイフに技巧を通わせる!!


 ゼベダイ・ジスの拳を裂きながら、ヤツの懐へと飛び込んだ!!


 巨体の弱点は少ないが、これはその代表的なものとも言える。リーチの内側に飛び込まれると、対応が遅くなってしまうのさ!!


 竜爪とナイフの乱突きを浴びせてやるんだよ。ストラウス家に伝わる技巧じゃないが、ガルフ・コルテスを始め、お節介な傭兵たちが好んで多くの技巧を授けてくれたりするほど、多くの流派に愛されているのがナイフ術だ。


 短い間合い。


 低い威力。


 だからこそ、より精密に、より戦術的に、この戦い方は研がれている。分かりやすく言えば、『相手に見せるための武術』でもあるのさ。ケンカや威嚇、脅しに拷問。短い刃たちは、白々しい冷たさで襲われた者の心こそを傷つけた。


 もはや。


 虫けらどもに心も体も置換され過ぎて、本物のゼベダイ・ジスではとっくになくなってはいるのだろうが―――この虫けらどもに『蟲の教団』が期待していた『兵器』としての記憶には有効なんじゃないかね。


 ナイフを扱ったことのないような戦士の記憶では、どれほどの戦士になれるものか。ゼベダイ・ジスは、とっくの昔にナイフなど無視して良いはずの体となっているはずなのに、こちらの読み通り、ちゃんとナイフに対応しようなどと動いた。


 当然ながら……無視されるのは、嫌いなんでね。


 意識し直させてやったんだよ。


 ミアがヤツの顔面を踏みつけながら飛び去り、ゼベダイ・ジスの血走った眼玉が、『ギルガレア』からようやく離れてくれていた。満足だよ。オレを見てくれるなんてね。そのおかげで、貴様は、レイチェルの強烈な一撃を浴びることになる!


 ゼベダイ・ジスの顔面に、『諸刃の戦輪』がぶち込まれていた!!


 『人魚』の力と、呪いの鋼の合わせ技だからな。まともなアタマをしていたら、一瞬で断ち斬られたはずなのだが……虫けらどもが、それをさせないか。呪いの鋼に噛みついているのか、脚でも絡ませているのか、止めやがる。


 問題はない。断てなくとも、次に移ればいいだけのこと。レイチェルは、この攻めにこだわらずに、鋼を引いていた。


 我々は、チームで『攻撃』の最中にいるからな。ナイフで目立たせたオレと、何もしなくても目立つレイチェル・ミルラ。それぞれが、ゼベダイ・ジスの左右を取りに動いた。


 戦術を感じるだろう。


 賢いからな。


 ガンダラだって、そういうタイプの猟兵でね。その戦術への嗅覚の鋭さやら、頭の回転の良さゆえの思考というものは武器になる。それを極めた『最強』の形というのもあるわけだが、今このときに関しては、わずかな思考が命取りだぞ。


 ミアも、気配を隠さずに、わざと目立っている。気づいていると思うぜ。賢く、有能だからね。


 だからこそ。ほとんど理解して、予想していたはずなのに、遅れを取ってしまうわけだよ。


 貴様の巨体にも負けない身体能力の持ち主が、目の前にいるのにな。


 戦いというものは、不思議なものだ。悪癖は、集中し過ぎるほどに浮上して、ミスを誘発してしまう。


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』


 隙を突かれていたはずの『ギルガレア』が、正拳の猛打を振り落とした!!


 ゼベダイ・ジスの顔面に命中し、その巨体を弾き飛ばしやがる!!


 床板が軋んで爆ぜて、床の奥底を目掛け、ゼベダイ・ジスの巨体は吸い込まれるようにして落ちて行った。


「いい連携だったよ、『ギルガレア』のおっちゃん!」


『……ふん』


 多少の不満があるらしい。オレたちとつるむことに抵抗があるのかもしれないが、もちろん、それだけでもなかった。


『ヤツめ、身をわずかに反らせたぞ』


「ああ。そのようだ。普通の技巧ではない」


『ヤツを構成している蟲どもを、おそらく己の意志で操作していた』


「虫けらどもに寄生されているからこそ可能な、『新しい武術』と言ったところか」


「武術に長けた者が、虫けらを制御すれば、そういった特殊な動きまでするようになれるわけですわね。器用なことです」


 骨や筋肉、関節にも頼らないトリッキーな動きだ。見事なものだよ。


 だが。その程度では、我々のチームには勝てんのも事実だ。


 床に開いた大穴の奥、ワイン蔵も兼ねていたその地下空間の床に、割れたワインをうらやましいほどに浴びて倒れるゼベダイ・ジスがいた。露骨なまでに誘っているおかげで、短気な『ギルガレア』さえも飛び掛かれていなかった。


 それもまた、駆け引きだったのかもしれないがね。ヤツは、ダメージを抜くために、一秒でも多くの時間を稼ごうとしているのかもしれん。


 賢いヤツに時間を与えるべきじゃないのだが、こうしてヤツはそれに成功していた。


 折れた歯も、『生え変わった』のかもしれない。静かで、ゆっくりとだが、野太い軍人の声が動き出す。


『……『ギルガレア』よ。お前だけが、多くの者を救えるというのに。それを、放棄しようというのか?そこから、私たちを見下ろしているだけか?聞こえないとは、言わせない。この『オルテガ』の地下に、さんざん注ぎ込まれた悲しい祈りを、お前は今こそ知るべきだ』




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