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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その七十一


「じゃあ。私が先行するね!接近戦してないから、いちばん疲れていないもん!」


「いい子だ。頼むぜ、ミア」


「うん!みんな、続いてね!!」


 健気なものだよ。おかげで、笑顔になれる。こういう感情が、力をくれる。走り始めたミアを追いかけて、道を引き返しにかかった。


 リヒトホーフェンの足取りは、明白ではある。ヤツの残した足跡は、あわてているからな。大急ぎで逃げていると、足跡にもそれが残る。こんな暗くて狭い道を、背後を気にしながら急げば、露骨に揺れる足跡を残してしまうものだよ。


 恐怖を刻み付けられている。オレたちから離れるときは、おしゃべりになっていたことでも分かるぜ。どれだけ嬉しかったのか。


 戦えば必ず敗北する相手から、逃げられるおかげで歓喜が心にあふれたのだろう。本能みたいなものだから、なかなか自分では制御することが困難だ。


 喜んで逃げ出したが、恐怖はいつものように想像力を悪い方向へと導いたようだな。何度も、振り返ることを余儀なくされてしまう。背後を探り、警戒しなければならなくなった。立ち止まることさえ、あったらしい。


 空想の敵に、怯えだすと、ちょっとした風の流れにも過敏になってしまうものだし、下手すれば存在しない感覚にさえ反応するようにもなる。


 恐怖と想像力は、貴様を捕らえて離さなかったな、エールマン・リヒトホーフェン。追い詰められようとしているのだから、しょうがない。貴様も、力を失っている。戦闘での消耗もあるだろうし……『群れ成す邪教徒/イビル・レギオン』と『呪いの赤い糸』が切れたことも大きいはずだ。


 あれは、貴様に力を注いでくれていたものだからな。『蟲の教団』など、さほど大切でもないのだろうが、『蟲の教団』の力そのものは愛好している。必要なのだ。エスリンとやらを、蘇らせるために……。


 ……どいつも、こいつも


 妹の、背を見る。


 健気に先導してくれているミア・マルー・ストラウスの背中をね。大切な者が、死んだとき。取り戻そうと必死になるのは分かる。


 だが。虫けらで編まれたものに、大切な者の真似事をさせたところで、何が得られるのか?そんなニセモノに愛情を注ぐことの愚かさも、本物への裏切りを……それを、分からんのか、エールマン・リヒトホーフェンよ。


 ……それとも。


 生贄を捧げれば、ある程度、応えてくれる『ゼルアガ』の……『ギルガレア』ならば、違う蘇生が叶うとでもいうのか?……だとすれば……だとしても…………。


「気配が、近いよ。お兄ちゃん」


「……おう。仕留めるぞ」


 ……迷う必要もない。邪悪な敵は滅ぼす。邪悪な呪術もな。それこそが、戦士の職業倫理であり、ヒトが選ぶべき道であり、竜騎士ストラウス家の生きざまに他ならん。ミアが、教えてくれたよ。あにさまらしい道を。


 セシルよ。


 オレが成し遂げるべきことの全てを行ったあとで、また遊ぼう。お前のことを、肩に乗せて。どこまでも、いつまでも。


 だから。この気配に、感謝する。敵がいた。逃げようとするが、体力が追いつかないようだ。与えられていた力が消え去って今となっては、ジャンの突撃さえも止めた身体能力は消え去っているらしい。


 追いつくぞ。


 邪悪な虫けらで、生者や死者を苦しめた極悪人め。真なる『ギルガレア』に代わり、罰を与えてやろう。『蟲の教団』も、貴様も……今から終わるのだ。


「見つけた!逃げるなー、リヒトホーフェン!」


「……く。蛮族どもめ。脚だけは、早い―――ぐはあああ!?」


 ミアのスリングショットが通路の果てにいた男の右膝を背後から撃ち抜いた。リヒトホーフェンは、その場に倒れることはなかったが、撃たれた片足を引きずりながら歩くことになる。


「虫けらどもが、助けてくれないか!!そうだろうな!!『ゴルゴホの蟲使い』でさえも、そうだった!!宿主の魔力が尽きれば、虫けらを自在に操ることなど出来なくなる!!貴様は、もう大神官ゾーンどもから力をもらってもいない!!」


「だからといって……あきらめるか。外は、もうすぐ……外は……外に……見届けるのだ。うう、エスリン……エスリン……ぐはあ!?」


 左膝も撃ち抜かれると、そのままリヒトホーフェンは階段へと倒れ込む。地上は、もうすぐそこだった。


「おの、れ……うう……はあ……はあ……っ」


 猟兵たちは、こうして狩るべき者に追いついた。ヤツは、それでもサーベルをこちらに差し向けようとしたから、竜太刀を使い。サーベルを握り締めた右腕ごと叩き斬る。


「ぐふうう!?……く……そ……ッ」


 落ちた右腕は、虫けらへと変化していきながら、赤黒い泡立ちへと成り果てて、空気に融ける。切断面からも、無数の虫けらどものうごめきが見えるが、それらも泡立ちながら煙を上げていた。


「追い詰めましたわね。あとは、煮るなり焼くなり、こちらの好き放題」


「そうだな」


「……取引を、しないか。ソルジェ・ストラウス」


「貴様に何の取引材料があるという?」


「……私ならば、『聖餐』の契約内容に、変化を加えられる。失った者を、考えたのではないか?……ここは、そういう場所だ。内臓にも似ているな。ここが血と呪詛を受け入れる深淵でもあるがゆえではあるが……それだけではない。母親の胎内を目指した形だ。ここは、ここはな、命が生まれ、命が死にゆく場所……世界の何処よりも命を考えられる場所だ」


「そうか。知ったことではない。大切な者は、その死まで、大切なのだ。命は、戻らない。だが、愛は永遠だ。その重みを背負い、ヒトは人生を全うする」




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