第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その四十五
ちょっとした広場に帝国兵どもの死体の山が作られている、通行の邪魔にならないように、戦士たちが積みあげてくれていたのだ。
「剣も槍もある。得意なものを選ぶといい!」
「お、おう……マジで、帝国兵を片付けちまったんだな?……あ、あっという間だったぜ」
「おしゃべりしている暇はありませんわ。さっさと、鋼を手に取りなさい」
「は、はいっ!!みんな、好きな武器を帝国兵どもから奪うぞ!!」
「人数分以上にあります。訓練したことのあるものを選びなさい。訓練したことがないのであれば、リーチの長い槍などを。並んで構えているだけでも、敵の侵入を防ぐ壁となれます!」
レイチェルの良く響く声は、細身の少年もいる市民たちの集団に最良のアドバイスを告げていたな。敵を打ち破るほどの力が無かったとしても、戦場では役に立てるものだ。槍衾を形成するのに、知恵も腕力も必要ではない。
壁。
この狭い通路で構成された迷宮都市の内部での戦いでは、それを作るだけでも大きな意味がある。
市民たちは敵の血にまみれた鋼を手に取り、またたく間に武装を完了させた。そして、この市民たちには戦闘能力以上に、大きな力がある。この街の地理に詳しいのだ。
「このまま、西に進みたい。戦力となってくれそうな市民がいる場所を、知らないかな?」
「西っすか。はい。心当たりは、いろいろとあります。血の気の荒そうな職人街の連中たちも、きっと、帝国軍を追い払いたくて、うずうずしているはずだよ!」
「そうか。そいつは頼りになりそうだ。ここから近いのか?」
「400メートルってところです」
「すぐですわね。向かうべきです」
「ああ。案内してくれるか。オレの背後で、指示を出してくれ。そうすれば、安全だ」
「わ、わかりました。高名な竜騎士、ストラウス卿とご一緒できるとか、マジで感動もんっすよう……ッ」
お調子者らしいが、案内役にはちょうどいい。緊張も少なく、聞かれたことにスムーズに答えてくれそうだ。顔も広いかもしれん。
「あっちです!一番、右側の通路から向かうと早いっすよ!!」
「わかった。あまり前には飛び出すないようにしておくといい。敵も、物陰に潜むことがあるからな」
「は、はいですっ!?」
いい案内人を手に入れたよ。
再び、壁の上に上ったレイチェルに護衛されながら、職人街を目指して移動が始まる。
「職人街と言ったが、どういう者たちなのだ?」
「『オルテガ・ガラス』の職人たちですよ。割りと有名なんすよねえ」
「ガラス職人か」
「大量の砂を使うし、薪も使いまくりなんで、ガタイだけなら帝国兵どもにも負けちゃいませんよ」
「ほう。それは、頼りになりそうだ」
「ああ。自分で言うのもアレっすけど、オレたちみたいなノリだけで考えなしに武装蜂起しちまったガキたちよりも、絶対に腕っぷしでは頼りになるっすね!」
「故郷を奪い返そうとする若い意志は、とても貴重なものだ」
「へへ。ほめられた!」
自尊心を満たされたのか、握り締めた槍をニンマリとした笑顔で見つめていたよ。どこか抜けているところもありそうだが、こうして行動力を発揮してくれたことはありがたい。
「リングマスター!来ます!」
「了解だ!下がっていろ!」
「は、はいっ!!」
帝国兵どもが押し寄せる!体格の良い『ルファード』軍の戦士たちと共に、横一線に並ぶと、融け合うように敵へと向かい、鋼の撃ち合いを作る!!
交差する鋼が歌い、竜太刀の威力に圧された敵兵が転倒した。そのまま竜太刀を突き立てて、絶命の叫びをあげさせる。両隣は敵兵に苦戦しているからな、援護もするさ。右のヤツは顔面を殴りつけて失神させて、左のヤツは脚を引っかけて転倒させる。
バランスを崩した敵兵に戦士たちが襲い掛かり、仕留めてみせた。
「援護、感謝いたします、ストラウス卿!!」
「もっと、強くなれるように努力します!!」
「悪くはない気迫だった。強兵が相手だろうとも、押し負けるな。もしものときは、『仲間』を頼れ。腕の力を使い過ぎているのならば、交代すればいい。体力が回復すれば、また前に出てくればいいだけのことだ」
「了解です!!」
「では、オレたちがその二人と代わります。彼らは、体力を使い過ぎていますので」
「そうするがいい。君らは十分に強い。少し休めば、鮮度のある斬撃を放てるようになる。それがあれば、強兵相手にも負けんのだ」
「は、はい!」
「しばらく、休憩させてもらいます!」
この細い道での戦い方は、これがベストとは言わないが、我々には適している。
「呼吸を安らかにして、体から過度な緊張を抜いておけ。鋼を握る腕の血が巡るように、脱力しておいてやるのだ。戦場であっても、常に集中しておく必要はない。休める瞬間を見つけて、可能な限り休め。より効率よく戦うためにな」
歩きながらもそう告げる。戦士たちも、戦いの連続で疲弊しているからな。若者たちの合流は、ありがたいことだよ。戦力として弱くても、支えになる。群れを作るということで、警戒のための労力を分散することもやれる。
体力を使い切らずに、上手く運用するためにも、やはり群れることは優れていた。
「ストラウス卿。もうすぐ、職人街っす」
「そうか。職人たちを、合流させるぞ。彼らを説得するためにも、力を貸してくれ」
「もちろんっす!昔からの顔見知りも多いっすからね!任せてくださいよ!」




