第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その四十二
夫への愛情が深くてね、いつだって彼女は芸術的に殺すんだよ。敵を殺すことは、夫への手向けの花なんだろうさ。サーカスの技巧を使うことも、美しい舞踏の技巧を使うことも、レイチェルなりのこだわりというものだろうか。
見惚れてしまう美しさだ。残酷さというものは、きっと芸術と相性が良いのだろう。それが芸術に必須などとは思わないが、深くて、必死で、生き生きとしていて、戦士の心をレイチェルの舞いは捕らえて離さない。殺された敵だって、そうなんじゃないかな。
猟兵らしく、笑みを浮かべる。
燃え盛る見張り塔のてっぺんも熱さが過ぎるんでね、オレもレイチェルを真似て塔から飛び降りる。無謀な着地をしないよ。竜爪を使い、見張り塔の壁面をガリガリと削りながら減速しつつ降下していき、レイチェルが作った血の海へ到着した。
「さあ、参りましょう」
「おう―――」
返事が聞こえたのか否か、レイチェル・ミルラは神がかった反応速度で、オレを置き去りにして戦場を駆ける。迷宮都市の複雑過ぎる通路を走り、城塞を突破して侵入を果たした戦士たちと、帝国兵どもが戦闘する領域を目指した。
戦いの音がする。
剣戟の歌は、何とも端的に戦況を示してくれるものだからね。音は、いつだって嘘をつけない。それを追いかければ、アタマのなかに迷宮都市の地図がないはずのレイチェルだって、迷うことなく行くべき場所へと導かれる。
とはいえ。
置き去りにされては、たまらない。オレも活躍したいんだよ。戦士としての本能が、敵を殺したいと訴えている!!
全力で追いかけた。レイチェルは、遭遇する敵兵どもを次から次に『諸刃の戦輪』を叩き込むことで死に至らしめていく。敵兵の首が飛び、血が夜空を赤く染めて、悲鳴が敵を呼び寄せる。
今このときにおいては、敵に悲鳴を上げさせることは大いに正しくもあった。これは守るための戦いであるわけだからね。レイチェルは、『ルファード』軍の『仲間』たちの囮となり盾となり、守るためにあえて悲鳴を上げさせていた。
「ひいいいい!?」
「ぎゃああああ……ッ!!」
「た、助けて!!だ、誰か、誰か来てくれええええええ!!」
敵が増えるのは、構わん。レイチェルが敵を刻んだ場所に、帝国兵どもが殺到する。実に好都合だ。レイチェルにとっては、これもまた演出に過ぎんのだろうな。オレみたいな『人魚』ほど足が速くない男にも、活躍すべき場所を与えてくれているのだ。
ありがたい。
レイチェル目掛けて隊伍を組もうとしている帝国兵どもに、死の罰を与えるなど!!騎士道冥利にも尽きるというものだよ!!
「はあああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」
伝統を身に躍らせる。『ストラウスの嵐』だ。四連続の鋼の嵐で、隊伍を組んだ帝国兵どもを、まとめて斬って裂いてやる!!
血と脂が迷宮都市の狭い通路にぶちまけられて、血霧を突破し、新たな獲物へと大上段から竜太刀を振り落とす!!
一刀両断した帝国兵が、左右に分かれながら倒れて行った。
そいつを踏み越えて、敵の斬撃を華麗に躱し続けるレイチェルに追いつき、彼女を狙う敵の腹を裂く!!
「ぐひゃああう!?」
「レディーには、やさしく接するべきだ。来世があれば、それを徹底してみることだな」
「ウフフ。リングマスターは、いつも私にやさしいから、大好きですわ」
「ああ。当然だよ、オレのレイチェル・ミルラよ」
「口説かれるの、好きですよ。さてと。どんどん、殺しましょう。向かうべきは、こちらです。ついて来てくださいまし」
壁を駆け上り、我らの『人魚』は迷路じみた通路を形成する壁の上を走り始める。先導してくれるらしい。というか、役割分担でもある。レイチェルが、宙返りしながら『諸刃の戦輪』を投げた。壁の裏側にいる敵兵を、殺しにかかったわけだよ。
あの間合いで戦うためには、迷路のなかよりも、あそこを走った方が効率的だな。オレは、ガルーナの野蛮人らしく、地上を駆け抜けながら敵の群れを突破する泥臭い係というわけだよ。
レイチェルみたいに、芸術的な動きで敵を殺すなんて真似は無理だ。とにかく多く、とにかく速く、とにかく力で圧倒し……乱暴な殺戮で、帝国兵どもを竜太刀で斬って裂いた。
「皆さん、こちらですよ!!リングマスターは……ソルジェ・ストラウスはここにいます!!」
ありがたいことさ。『仲間』を呼んでくれてもいるし、『仲間』に向かおうとしていた敵まで呼び寄せてくれる。敵を探して迷路を走り回るよりも、敵が群れを成しているところと遭遇する方が、楽でいい。襲ってくれるのならば、体力の消耗も少なくて済む。
「大将首だあああああああああああああああああああああ!!」
「連携で殺せええええええええええええええええええええ!!」
連携で殺す。その理想的な言葉は、オレとレイチェルが体現することで発言者に襲い掛かる。レイチェルは、とてもやさしい女性だからね。オレだけを矢面に立たせるはずもない。上空から戦輪と共に襲い掛かり、敵の隊伍を乱してくれる。
とても、リズミカルな連携を、彼女が作ってくれたよ。崩れた隊伍は、複数対一ではなく、オレ相手に弱兵どもが一対一という憐れむべき状況をくれる。容赦などなく、片っ端から、力の差を見せつけて、死体の山を作っていった。
「ストラウス卿だ!!」
「お、おお!!さすがです、短時間に、これだけの敵を殺すなんて……何ていう強さなんだ……っ!!」
おかげでね、『仲間』たちとの合流も早かった。これで、迷宮都市のより深くまで侵攻し、敵を分断するという大きな目標が叶えられるだろう。




