第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その四十一
「リングマスター、そろそろ敵のふところに飛び込むべき頃合いですわ」
レイチェルが背後から攻撃的な言葉を使った。たしかに、同意すべきタイミングではある。敵戦力は混乱し始め、こちらは追い詰めつつあった。城塞周辺にいる敵戦力を弓で掃除していくよりも、内部に入り白兵戦で帝国兵どもを始末し続けるべきタイミングになっている。
正直なところ、オレも……。
「血が騒いでおられるでしょう?そういった衝動には従うのが吉ですわ」
「お兄ちゃん、行っても大丈夫だよ。ゼファーと私が、空中からの援護を続けるし、『囮』にもなるから」
『うんうん。ぼくがね、てきのちゅういをひきつけておくね!みあも、たくさんうちころすし!『どーじぇ』は、てきのちゅうしんをつらぬいてきたらいいとおもう!!』
「ククク!……そうだな。そうさせてもらうとしようか!」
城塞攻略の王道は、やはり白兵戦でもある。こちらの戦士たちの侵攻を早めるためにも、オレやレイチェルのような白兵戦に向いた猟兵が参加すべき時間帯となっていた。
「ゼベダイ・ジスの動向は気になるが、現場最優先だ!!レイチェル、行くぞ!!」
「ええ。それでは、ミア、ゼファー、後ほど」
「いってらっしゃーい!」
『おおあばれしてきてねー!きょうそうだよー!』
「おう!!」
猟兵二人が竜の背から空へと踊る!!
肌にまとわりつこうとする夏の夜風を貫きながら、自由落下の感覚を楽しむ!!敵はオレとレイチェルの襲来に気づかない!!竜の飛ぶ高さから、飛び降りて来る者がいるなどと、想像するはずもないからな!!
このまま地上に落ちれば、もちろんオレたちだって即死してしまうが……そこは猟兵というわけだ!!
跳躍で作り上げた軌道が狙っているのは、迷宮都市の見張り塔の一つだよ。城塞から突き出した高さのあるそれを目掛けて、オレたちは飛び……その最上部に陣取る帝国兵どもに背後から襲い掛かる!!
竜太刀を両手持ちにして振りかぶり、そのまま敵兵を背後から串刺しにしながら、落下のエネルギーをその獲物の肉体に肩代わりさせる。ガルーナの竜騎士が伝統的に得意とする竜からの落下襲撃の技巧だ。槍でやるべきと教わるが、ベテラン竜騎士は竜太刀でもやれる。
今のオレのようにな!!
「え……え、ええええ!?ど、どこから来やが―――」
敵兵に深々と突き刺さった竜太刀を抜いている間もないんでね。柄から手を離すと、混乱する帝国兵目掛けて飛び掛かる。『竜爪の篭手』から爪を生やすと、そのまま敵の喉元を裂いて血をあふれせせた!
「ち、ちくしょう!?バケモノめ―――ぎゃふうう!?」
レイチェルが到着したよ。敵兵の首を蹴りで殺しながら、頚椎を破壊した反動を使い空中で回転した。見張り塔の淵に降り立つと、次の瞬間には電光石火の早業で弓を持った帝国兵に飛び掛かり、『諸刃の戦輪』で首を切断してしまう。
見張り塔の上部にいるのは、当たり前だが弓兵ばかりだからね。接近戦でオレたちと戦えるような装備ではない。接近戦用の装備であったところで、止められるはずもないが。
戦場の熱気に燃えるストラウスの剣鬼と『人魚』の血は、衝動のまま見張り塔の最上部で暴れたよ。塔内にいた連中も大慌てで駆けつけるが、次から次に我々の斬撃の犠牲となるだけだった。
二分もかからずに、見張り塔の一つを占拠してみせたよ。敵兵から竜太刀を抜き取り、さらなる襲撃の準備は完了だった。
「あら。リングマスター、こちらに良いものがありますわ」
「なんだ?……矢筒と……ああ、こいつは、確かに良いものだな、レイチェル」
「派手に参りましょう」
ニコリと笑った『人魚』が、しなやかな蹴りを放った。松明のために用意されていた松脂の入った壺が二つ、一瞬で割られて中身をぶちまけてしまったよ。その直後に、団長サンは猟兵の行いに連携して、『炎』の魔術で小さな火種を呼び寄せた。
炎はまたたく間に燃え盛り、戦場の夜空を明るく照らす場所が作られる。敵兵はあわてて、『ルファード』軍の戦士たちは歓声を上げていた。
「見張り塔を一つ、占拠したぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「これで、あそこから矢を撃たれることもねえ!!」
「どんどん、攻めろ!!帝国兵どもを皆殺しにするぞおおおおおお!!」
レイチェルは本能的な戦術理解をしてくれるというか、アーティストとして目立ち方を心得ているというか、いつもながら良い発想でオレを助けてくれているよ。目立つことで、敵を自らに引き付けて、『仲間』を守るという愛情深いところも素敵だね。
「ウフフ。これで、良い流れがまた一つ。それでは、リングマスター、もっと殺しにまいりましょう。私、体力があり余っていますので。帝国兵どもを血祭にしてやりたくて、うずうずしているのです」
「ああ。オレもだよ」
「では、お先に失礼いたしますね」
見張り塔から飛び降りるレイチェルがいた。もちろん、そのまま落下するわけじゃない。『諸刃の戦輪』で塔の壁面をガリガリと削りながら減速していき、塔の途中まで降りると、壁を蹴って跳躍し、混乱する帝国兵どもの群れに飛び込んだ。
戦輪と共に踊る『人魚』は美しく、そして速かった。敵兵の断末魔の叫びさえも斬って裂き、あふれる血の赤が作る舞台の上で、レイチェル・ミルラは妖艶に舞った。




