第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その二十四
『カール・メアー』での訓練は、伊達ではなかったな。手際よく縫合で、腎臓にまで達していた傷は縫われていく。包帯も丁寧に巻いていたし、圧のかけ方も理想的なものであった。
慣れも感じる。
「どこかの医療現場で、負傷兵を診ていたか」
「……『オルテガ』には、負傷兵が多かった。帝国に刃向かう者を鎮圧する任務の果てに、彼らは傷を負った……名誉ある傷だ……『カール・メアー』は、帝国軍と、協力関係に……ある、はず……だったのに……ッ」
「裏切られたか」
「……帝国兵が、いきなり教会を襲ったのだ。一方的な殺戮となった……私も、戦ったのだが……このありさまだ。同胞や、『カール・メアー』に協力してくれていた彼女たちを、守ってやれなかった……ッ」
「奇襲を受ければ、そうなる。守り切れるような状況ではなかった。君が、使命を果たそうとしていたことは、傷だらけのその体で分かる。治療を、してやりたいが……」
「……帝国の敵だ……それに……お前は……『カール・メアー』の敵……治療など、いらない」
「せっかく助けたのに、死なれても困る。ミア、『血止めの秘薬』と『造血の秘薬』を、渡してやれ」
「うん。お姉さんたちも、使うといいよ。リエル特製の傷薬だから。こっちは塗って、こっちは、飲むの」
「……ケットシー……の、子供?」
「オレの妹だ」
「お兄ちゃんの妹、ミア・マルー・ストラウスだよ」
「……亜人種を……妹?」
「君の世界観には合わんだろうが、これが現実だ。オレとミアは真の兄妹さ」
「うんうん。ストラウス兄妹なのだー!」
『なのだー!』
「……意味、分からないわ。でも……死ぬのは、ダメだ。リヒトホーフェン伯爵の暴挙を、お山に報告しなければ……私たちは、皇帝陛下の命令で、庇護されているし……『血狩り』の任務を遂行する、軍への協力者なのに……」
「とにかく、お姉さんたち傷の手当を。あ。お兄ちゃん、ジャン!あっち向いてて!」
「おう」
「は、はいっ!!」
のぞくつもりはないが、若い尼僧の肌をジロジロと見てしまうことは罪深いことだからね。夏の夜空を見てみる。ゼファーも、紳士な竜だから、一緒に星を見ていたよ。
ミアは、彼女たちの治療を手伝っていた。
「フリジアの仲間なら、死なせられないもんね」
「……フリジア・ノーベルを、知っていると?」
「うん。友達だよ。元々は、お兄ちゃんが地下で捕まえて来た捕虜だけど」
「……何をしているのか、あの娘は……」
「ドジなところもあるよね」
「……ドジが過ぎる……あまつさえ、敵に、感化されたというのか……?未熟者め」
「そうかな?」
「……そうなのだ。教義は、絶対である」
「でもね、フリジアは前より強いよ。本心と、したいことが一致したんだね」
「……俗世に触れると、こうなるものだ……俗世は、混沌とし過ぎている。帝国軍でさえ、帝国貴族でさえも……ここまで、悪に墜ちる……っ」
「お姉さん、がんばったんだね。敵から仲間を守ろうとして、いっぱい傷つけられた」
「守れなかった……修行不足だ」
「運が悪かっただけ。誰も悪いことじゃないよ。お姉さんは、納得しないかもしれないけれど、がんばっても救えないこともある」
「……知っているさ。思い知らされている」
「あ。あとね。フリジアのこと、悪く言わないでね。フリジアが、私と友だちになってくれたから、お姉さんたちのこと、命懸けで助けようと思えたんだ」
「……ケットシーと……友人になっただと……」
「フリジアの見えている世界はね、きっと、『カール・メアー』より大きくなったんだよ。だから、あなたよりも多く助けられるのかもね」
「……ッ」
「『血狩り』とか、大嫌いだけど。それでも、殺したりしないよ。フリジアの仲間なら。フリジアは、あなたのことを、守ってくれているんだね。はい、手当は終了!」
「…………フリジアに、守られるか……何たる、屈辱か」
あまり優等生という評価を、我らがフリジア・ノーベルは受けていないのかもしれないな。まあ、何であれ……手当が終わったというのであれば、質問の時間だよ。
「君らは、どうしてリヒトホーフェンに襲われたのか、心当たりがあるか?」
「尋問か」
「いいや、最も友好的なものだよ。質問ってやつだ、君らは捕虜にしない。情報を知りたいだけだし、こちらのリヒトホーフェンにまつわる邪悪な『異教活動』について報告してやることも可能だ」
「……どうして、協力する?」
「リヒトホーフェンを殺したいからだし、勝利したいからだ。リヒトホーフェンの排除については、君らも望むのではないか?……ヤツは、古い邪教の力を我が物にしている」
「……『蟲の教団』か」
「ほう。名前を知っていたか。フリジアは知らなかったようだが……」
「知らんだろう。アホだぞ、あいつは……偵察能力と戦闘能力はあるが、情報を分析することなど、向いてはいない……アホなんだ。少なくとも、我々も『蟲の教団』についての情報を得たのは三日前で、あいつとは共有していない。口をすべらせそうなドジ娘だから」
散々な言われっぷりだが、フリジアらしい評価だとも納得した。少なくとも、偵察と戦闘についての評価はされているところが、らしかったぜ。その二点においては、そこらの戦士をはるかに超える水準であるのは確かだ。
この尼僧剣士も、適切な評価をしてはいる。
そして、情報を多く有しているようだ。
「情報交換をしようぜ。リヒトホーフェンは止めねばならん。暴走著しいのは、君の方が理解しているだろう。ヤツは、世界の多くの者にとって危険でしかない。おそらく、『カール・メアー』にとっても、帝国にとってもな」




