第二話 『無償の罪に、この手は穢れ』 その百九十三
『ぎゃぎぎぎいいいいいいいいいいいいい!!』
『ぎいいいいいいいいいいいいいいいいい!!』
『赤黒い死者兵/レッド・デッド』どもが、次から次に縦穴から這い上がる。帝国兵というか、人間族のサイズもあれば、ドワーフのサイズもいた。皮膚が焼け焦げたかのように落ちてしまっていて、背中からはうねる触手を生やす異形になってはいたが、区別がつく。
「実験台にされた、ドワーフたち……ッ!?」
「ちゃんと、死なせてあげよう」
「……っ!!そうだ、そうだよ!!それも、また……戦士がこの場で果たすべき役目なんだ!!」
ルチアがその矢を放つ。矢じりの『ブランガ』の毒をたっぷりとつけものであるし、そのうえ『風』の魔力を注いだものでもある。『赤黒い死者兵/レッド・デッド』の腹に、矢が突き立てられた。
『ぎゃがが、がうううう!?』
『ブランガ』の毒も有効だった。敵の体から血が吹き上がる。『風』の魔力が、毒の循環に拍車をかけているようにも見えたな。
「あの呪毒が帯びていた属性を、選んだわけだ。良いセンスだぞ。正解だったらしい」
「私も、考えてるんだ。ちょっとは、成長しなくちゃね」
有効な対策が、さらに判明した。『風』の属性にも弱い。つまり、あの呪毒は、ドワーフたちを殺すためだけでなく、体内にいたかもしれない『寄生虫』をも殺して処分する方法だった。
諸々の理解が深まる、良い選択だったというわけだ。ニヤリと笑う。若者の成長を見せつけられた気になるぜ。元々、良い戦士ではあるが、賢さも判断力も磨かれている。
「若い戦士は、最前線に連れて行くべきだな!!ゼファー、迎撃に向かうぞ!!」
『らじゃー!!ばしゃには、ちかづかせない!!』
地上チームと連携する。
次から次にハリートビー廃鉱から『赤黒い死者兵/レッド・デッド』どもが現れているからな、地上での突撃と斬撃、上空からの狙撃で連携を組む必要があった。
「かなりの数だ!!」
「でも、さばけない数じゃない。馬車も、遠ざかりつつあるもん」
「ええ。このまま、壁になっておけば……」
「……しかし、注意も必要だぞ」
「え?」
「敵には、知性がある。戦術を、使おうとしているはずだ。さっきから、同じような場所から、敵を出し過ぎているように思える」
「もしかして、『囮』かもしれないね」
「……そうか、敵は、魔物じゃない。あいつらは、誰かに制御されて、操られている。つまり……」
「マルド・メロ、レイチェルに三枚おろしにされたのに、まだ生きているのかもね」
「さ、三枚おろし?」
適切ではある言い方だったな。魚で例えるのであれば、まさにその状況であったのだから。それでも、死なんか。セザル・メロの例がある。驚くべきことでもないか。
ともかく。
「レイチェル!ジャン!『囮』を使われている可能性がある!!ドワーフたちの馬車隊から、離され過ぎないようにしてくれ!!この敵は、性格があまり良くない!!正攻法ばかりを使うような相手には思えんのだ!!」
「了解ですわ、リングマスター!」
『は、はい!!ば、馬車の方に、向かいます……っ!!』
嫌な予感は、どうせ当たるものだ。性格の悪そうな敵と戦うときは、いつもそうなる。敵の困ることを仕掛けるという行いに、快楽を覚えるヤツは少なからずいるのだから。
「足止めでもいい、追いつけられなければ、問題はない!!」
「ラジャー!足狙いだ!!」
「白状するけど、そんな細かな技巧まではやれそうにないから……私は、全力で撃つ!!」
「十分だ!!」
射撃で『赤黒い死者兵/レッド・デッド』どもを牽制していく。馬車を守ることに集中した。敵を屠ることよりも、移動だ。ちょっとでも、安全な場所まで、馬車が移動するまでの時間を稼ぎたい。
一秒一秒、馬車が逃げてくれる。『赤黒い死者兵/レッド・デッド』どもが、廃鉱から『出撃』してくるペースが緩んだ。
直感が、安堵しそうになる。
だからこそ、自分を叱りつけていた。
戦術が、罠が、狙うのは……いつだって、相手の想像力である。
反射的に、叫んでいたぜ。
「緩むな!!来るぞ!!」
猟兵たちにも、馬車にいるドワーフたちにもだ。
やはり、ガルフ・コルテスは戦場の霊長。猟兵の祖だったな。鍛えられた通り、猟兵の勘は機能する。馬車隊の先頭からほど近く、右手に三十メートルほどの地面が、爆裂しながら崩壊していた。
馬が驚く。
ドワーフたちも驚いていた。
だがね。猟兵は驚かなかった。赤い廃鉱の地面を貫いて、空に向けて塔のように巨大な赤黒い触手が突き出したところで……その赤黒い触手の魔塔の表面に、十数体の『赤黒い死者兵/レッド・デッド』どもがまとわりついていたところでな。
驚くこともなく、備えることがやれたよ。ありがとうな、ガルフ。教えの通り、戦場は露骨なまでの悪意でデザインされていた。
『ぎいいいいいいいいいいいいいいいいい!!』
『ぎゃぎぎぎいいいいいいいいいいいいい!!』
無数の『赤黒い死者兵/レッド・デッド』どもが合唱するように吠えたところで、成すべきことは変わらん。デカブツどもからあの死者どもが解き放たれるよりも先に、魔眼を使うのだ。
金色の呪印を刻みつける。『ターゲティング』をな。
威力に頼るのさ。巨大な敵を倒すには、竜の『火球』こそが相応しい。




