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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第二話    『無償の罪に、この手は穢れ』    その百九十


 帝国兵どもの背後で手短に作戦会議を済ませると、すぐに作戦開始だ。役割分担は明確でね。窓を閉じるのは、ミアとレイチェルに任せる。


 男子チームのすることの一つは、この空間を閉鎖することだった。南のエルフの土地で採取が予想される薬草の種類について、異常なまでに細かな指示を熱弁するマルド・メロの背後で足音を消して動き、ジャンの嗅覚が見つけた松脂をため込んだ木箱へと向かう。


 地下の大きな空間だ。灯りのための燃料も保管されているというわけだよ。大量の松脂を通路に塗りたくり、オレが『魔術地雷』を仕掛ければ閉鎖の完了となる。帝国兵がこの場に踏み込めば、『魔術地雷』が爆発して松脂に引火し、猛火がしばらくこの道を閉ざす。


 この空間につながる通路の全てに、それらの処置を仕掛けていった。


 女子チームはオレたちの泥臭い作業の裏側で、この空間の上層へと向かう。驚異的な身軽さを発揮して内壁をよじ登ると、見張りとしてうろつく帝国兵どもを殺した。


 上部に開いた窓を、一つずつ閉ざしていく。さっきオレがしたのと同じ構造だったな。錆び付いたハンドルを回すことで、ゆっくりと窓が一つずつ閉じていったよ。よほど南のエルフの土地で植物を採取したいのだろう、熱弁を振るうマルド・メロは気づかない。


 軍隊の力とは、たしかに忠誠心がモノを言うわけではあるが……。


 ここまで盲目的な忠誠心を兵士に発揮させてしまっていれば、あらゆることへの感度が下がってしまう。『攻撃』の戦術には、もしかしたら向く部分もあるかもしれないが、自己判断と応用性が必要な『守備』に関しては、この通り、無様なまでの弱さを発揮したな。


 ……オレたちは、松脂の木箱のなかに、くだんの呪毒の入った薬瓶を詰め込んでいった。それを、帝国兵どもの隊列の背後に運ぶことで、下準備は完了したよ。


「―――ありとあらゆる植物を、適切な方法で管理するように!それは、君たちに与えられた大きな使命であることを心に刻みたまえ!どんな場所で、どんな風に生息していたのか、採取したときの色彩を、花弁と葉と茎と根、それら全ての部位について書き記すんだ!その具体例について、無学な君たちのために今から教えておくが―――」


 学問に対しての熱意そのものは、人類にとって必要な才能なのだとは思う。こういう研究熱心な者がいることで、多くの発見を自然から得られるのだろうし、それらのおかげで人命を救う薬草を発見したり、暮らしを改善したりもするのだろう。


 だが。


 それでも。


 錬金術師として持つべき職業倫理というものが、あるはずだった。


 この地下空間に作られた『研究施設』において、どれだけの数のドワーフを実験で殺したのか……あるいは、この場にいる異常なまでに熱心な集中力を発揮している帝国兵どものように、『寄生虫』や呪術を用いて洗脳をしたのか……。


 ……見つけちゃいないが、ここにも『巣箱』があるのだろう。ドワーフたちの死者で作られているのか、帝国兵どもの戦死者でも作っているのかは知らん。いずれにしろ、それがあるのだろう。


 おぞましいことであり、大きすぎる罪だった。錬金術師として有能であり、この薬草マニアの男にも、何かしらの考えがあるのかもしれないが……知ったことかよ。


 消し去るべき、邪悪があった。


 全ての準備を終えたあとで、上空を見る。ミアとレイチェルが暗殺の体勢を作り上げていた。マルド・メロに対して、狙撃するのさ。『ブランガ』の毒をたっぷりと塗った弾丸と、『諸刃の戦輪』を使うことでね。


 ヤツの体内にも、『寄生虫』がいるだろうからな。セザル・メロは、真っ二つになっても即死しなかったことを忘れちゃいない。『ブランガ』ならば、『寄生虫』を弱めると判断した。


 オレの命令を待つ二人に対して、指でサインを送る。待ちきれなかったというばかりに、二人は即座に反応してくれた。


「このように、薬草の記述は常に明晰かつ規則に従った記述を―――」


 ミアの放ったスリングショットの弾丸が、ヤツの背中に命中した。体内の深くにまで入るが、肉からは抜けない角度を選んでな。


 そうすることで『ブランガ』の毒が、より多くヤツの体内に残ることになる。背中を狙ったのは、言うまでもない。『寄生虫』どもが、背部を好むからだ。ちょっとでも近くに、毒が回ることを計算している。


 暗殺のためのデザインは、最適の形で働いた。


「ぐう!?……な、なんだ!?……誰か、いる……っ!?て、敵――――」


 空中を走った呪いの鋼が、銀色の罰の軌跡を描く。『諸刃の戦輪』が、マルド・メロの黒いローブをまとった体を裂きにかかった。首の付け根の左右に、二つの戦輪が突き立てられて、腹の近くまで深々と裂く。


「がはああ!?」


 壇上で、鮮血が吹き上がった。極悪人の錬金術師の血も、常人のそれと変わらぬ色をしていたな。


「ま、マルド・メロさまああああああああああああああああああ!!?」


「そ、そんなあああああああああああああああああああああああ!!?」


「し、死なないでくださいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!?」


 忠誠心が爆発していたよ。帝国兵どもが壇上に駆け上り、瀕死の重傷を負ったマルド・メロに群がった。止血を始め、周囲を肉体の壁で守る。


「ぞ、賊を、探せええええええ!!」


「敵が、侵入しているぞ!!絶対に逃がすんじゃない!!」


「な、なんだ、この戦輪……う、動いて、ぎゃひいいいい!?」


 『諸刃の戦輪』が呪いに従い、レイチェルを目指して飛び立っていた。近くにいた帝国兵を一人、巻き添えにしてな。驚異的な身体能力で、『パンジャール猟兵団』の踊り子は壁を走って降りていたよ。


 そのまま、壁を蹴ると空中に飛び、華麗に身をひねる。レイチェルは自分のことを殺すような勢いで戻って来ていた『諸刃の戦輪』に腕を伸ばし、抱きしめるようなやわらかさで楽々と掴み取っていた。


「レイチェル、すごーい!」


 ミアはチェーンシューターを使い、地上へと降り立つ。すぐとなりに着地した美しいサーカス・アーティストのことを褒めながら。


「あ、あそこに敵がいるぞおおおおおおお!!」


「女どもを、殺せえええええ――――ぎゃがふううう!?」


 ヒトの姿に戻っていたジャンが、その圧倒的なまでの腕力を使っていた。暴言を吐いた帝国兵ども目掛けて、紳士な一投が襲い掛かる。松脂と呪毒の瓶が詰まった木箱を投げつけていたんだよ。そこら中に、松脂が飛び散って、呪毒の瓶もその衝撃で割れていた。


 オレだって、もちろん仕事をする。


 その砕けて飛び散った呪毒と松脂のかたまり目掛けて、『ファイヤー・ボール』を撃ち放つのさ。




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