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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第二話    『無償の罪に、この手は穢れ』    その百八十八


 帝国兵は無言となる。蒸し暑い地下であるにも関わらず、その顔面はすっかりと青ざめてしまっていた。


「戦場においては悪意が使われるのは敵にだが、日常において存在する悪意が向かうのは常に味方に対してだ」


「…………マルド・メロさま……」


「素直に情報を吐いてくれたからな。貴様の呪術は、解いておいてやる。マルド・メロに貴族の真似事をされたか。剣を、左肩に当てられて、叙勲の真似事でも受けたのかもしれん。そのとき、呪われた」


 『束縛の金糸/バインド』を使い、帝国兵の肩で暴れる『呪いの赤い糸』を封じてやる。『寄生虫』がこいつから這い出すことは、これで妨げられるだろう。それ以上のサービスをしてやれるほど、ドワーフたちから死者を出した敵に友好的にはなれなかった。


「そいつを拘束しておけ」


「おう。任せろ。ガチガチに、縛り付けてやるぜ」


 ドワーフたちに作業を任せて、オレたちは呪毒のストックがあるという部屋へと向かう。ルチアが動き、念願の鍵開けを試みた。手際は良く、二秒もかからずに開錠してみせる。


「さすがだな」


「まあ、こんなものよ。潜入の技巧も、それなりにはある。こういう技巧も、もっと鍛えておかないと……いい戦士になれない」


 向上への意欲を感じさせる発言だったよ。ルチアたち若い戦士には、より強くたくましい戦士に成長して欲しくもある。ルチアは警戒と集中を全身に張り巡らせて、罠を警戒しつつドアを肩で押し開いた。


「罠はない……中は、大して広くない」


 棚に並ぶのは、一種類の薬瓶だけだった。十数本の呪毒の詰まった紺碧色の大瓶だけ。迷うこともやれないのは、作業がスムーズに進むという点では良かった。何百人も殺せるような呪毒を備蓄している点については、気分が悪くなったがね。


「悪意が大きい」


「マルド・メロは、やっぱり帝国兵どもにも実験をしていると思う?」


「確信を得ている最中だ。『魔銀の首枷』を、多くのドワーフたちはつけていた。起動させれば、それだけで全員を殺すこともやれたのに。わざわざ、呪毒を使わせる」


「実験の、ため?」


「そうだろうな。この呪毒も、『寄生虫』の研究に関連があるのかもしれん。数本、持って行くとしよう」


「ルクちゃんに分析を頼むの?」


「それもいいが、ここの帝国兵どもに使えるかもしれん」


「いいアイデアかも。『寄生虫』を体内に入れられているとすれば、毒を使えば、抑止できるかもしれない。殺したあとでも、『寄生虫』に死体を操られて暴れるかもしれないから」


「あ。もしかして、この呪毒も、『ブランガ』みたいに『寄生虫』を弱めてくれるのかな?私がさっき殺した帝国兵からは、『寄生虫』が出て来てない。生きてる方の帝国兵も、私たちに情報を渡して『裏切った』けど、『寄生虫』が出ては来なかったよね」


 ミアの黒髪をお兄ちゃんの手がナデナデしてやる。賢い分析だった。確証こそは得られないものの、筋は通っているのだから。


「そうかもしれん。呪毒の煙を、多少、吸い込んでいるからな。ドワーフたちの死体からも、『寄生虫』は這い出してこなかった……」


「怪我の功名もあるかもしれないってこと?……その、この呪毒の煙を吸わされたことで、ドワーフたちの体内の『寄生虫』は除去できたとか?」


「そういう実験だったのかもな。『寄生虫』ごと死を与える実験だったのかもしれん」


「はあ。錬金術師って、とんでもなく邪悪だ」


「世の中の錬金術師の全員がそうではないがな。しかし、セザル・メロは邪悪だったし、『寄生虫』の証拠を消そうとする傾向が、ヤツにはあった。この施設のメロも、同じ命令をリヒトホーフェンから受けているのかもしれない」


 もしも、この予想が正しければ、幸運と不幸というものは表裏一体と言える。


「この呪毒を使えば、敵と敵の体内にいる『寄生虫』をどちらも仕留められるかもな」


「うん。それは、すごく魅力的だよ。だって、普通に殺しただけじゃ、『寄生虫』が死体を操って、『怪物』を作るかもしれないもん」


 朝に『骸群の巨蠅/ベルゼブブ』と戦ったばかりのオレたちからすれば、あの脅威がどれだけ厄介なものかは知り尽くしている。


「それに。『怪物』たちが暴れたら、『ギルガレア』と『火烏の軍勢』も出て来るかも。森が、大火事になっちゃうかもしれない」


「……はあ。帝国人め。邪教の遺産を、引きずり出して……」


「良いように考えるぞ。おかげで、今を生きるオレたちが、邪悪な遺産を消し去る機会を得たとも言える」


「前向き過ぎない?」


「モチベーションにはつながるだろう」


「まあ、そうかも。先祖たちの遺した災いを、始末する……か。がんばりたい。自分の罪だとは思わないけれど、やっぱり、不愉快なことだもん。『蟲の教団』の災い、私たちで終わらせよう!」


「その意気だ」


 猟兵らしく牙を剥いた笑顔で応えて、呪毒の大瓶と共に外へと出た。ちょうどいいタイミングだったよ。この奴隷たちの牢獄に、『狼』が駆け込んでくる。ドワーフの戦士たちは、驚き警戒したな。しょうがないことだ。


「狼!?」


「おい、棒を持ってこい!オレがぶん殴って追い払ってやるぞ!」


「石を投げよう!!」


『ま、まって!?誤解ですう!?』


「しゃべった!!?」


「なんだ、この狼は……ッ!!?」


「あわてるな。オレたちの『仲間』だ」


『そ、そうです!!そ、その、あの、驚かして、ごめんなさい。で、でも、ボク、悪い狼じゃありません。お、『狼男』なだけなんですう……っ』




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