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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第二話    『無償の罪に、この手は穢れ』    その百八十


 このメモがマルド・メロとやらのそれだとするのなら、書き手はまさに右利きそのものだった。正式な文章では、利き手を修正して書く地域もあるが……雑用指示の走り書きでは、わざわざ本性を隠す必要もあるまい。


 そして、マルド・メロへの怒りと憎しみを抱いているこの男が、意味のない嘘をこの場でつくとも思えん。となれば、素直に状況を推察するに、答えは一つだけ。


「別人だった可能性がある」


『せ、セザル・メロとは、別人の……もう一人の、め、メロがいた?』


「『ルファード』でセザル・メロは、それなりに多忙な生活を送っていた。『地下病院』で邪悪な実験をしていたし、『懲罰部隊』とも関わっていた。それをしながら、南の果てに移動して傭兵と会うなんてことは、どうにも現実的な仕事量ではないな」


 竜かユニコーンがいれば別だが、どんなに早馬を乗り継いだとしても、この膨大な距離を移動するだけでも、時間がかかり過ぎた。


「二人、いた」


 あるいは、それ以上の数が……その可能性については口にしないことを選ぶ。不確定なことだからな。


「セザル・メロは『ルファード』で活動し、マルド・メロという男は『ハリートビー廃鉱』に作らせた『研究施設』で、『寄生虫』の研究をしていたのかもしれん。どちらも錬金術師としての実力が似ていたとすれば、役割分担を与えるには良さそうだ」


「当たっていそうですわね」


「レイチェルにそう言ってもらえると、自信がつくよ」


「でも……厄介ね。セザル・メロの、兄弟だか、同族がいるってことで、そいつも同じように『寄生虫』の研究者……」


「厄介だけど、ターゲットが明確になったのは良いことだよね。ジャン!におい!覚えていてね!」


『う、うん!…………覚えました……な、何ていうか、土っぽいというか……ほこりっぽい臭いですね……っ』


「『ハリートビー廃鉱』のにおいかもしれんな」


『な、なるほど。廃鉱っぽいと言えば、その通りかもしれません』


「マルド・メロは、どこにいる?」


「ヤツは、アンタの言う通り、『ハリートビー廃鉱』にいるんじゃないかな。ドワーフを送り込むとき、あいつが同行することは多かったから……あいつ、そこで、皆の腹を喰い破ってた虫けらを、養殖でも、してんのかい?」


「増やしているぞ。虫けらも、虫けらから抽出できる薬も」


「邪悪な、ヤツだな……」


「すぐに殺してやるさ」


「……あ、ああ。その、頼むよ。うちの連中の仇は……あんた、だけど。その、騙されていた分を、思い知らせてやって欲しい。オレじゃ、そもそも無理そうだし……利き腕も、へし折られちまっているから」


「任せろ。傭兵稼業の同業者として、舐めた真似をしたクライアントを許せない気持ちは理解してやれるからな」


「うん……そ、それで。もう一つ、質問したいんだけど、いいかな?」


「もちろん。貴重な情報を提供してくれた。悪いようにはせん」


「そ、それって、苦しませずに殺すとかいう、殺される方からすれば全然うれしくない特典について語っているわけじゃないよね?」


「殺しはしない。帝国軍と合流しても構わんぞ。『寄生虫』のことを、連中に教えてやるのならな」


「や、やめとくよ……傭兵稼業はこりごりだ。戦場は、好きだったけれど。今は、しばらく、身を潜めておきたい……死んだことにして、新しい立場を得たいんだ」


「それを選ぶ『自由』を、許してやろう。どこへなりと立ち去るがいい」


「……ああ。そ、それじゃあ。マルド・メロのことは、任せたぜ。その……それと……これも、言っておきたい」


「何だ?」


「……『プレイレス』を、帝国軍から奪い返してくれたことには、マジで感謝している」


「帝国に雇われていたのにか?」


「それは、あれだよ。生きるために、しょうがなくだ。オレみたいに、大して強くなくて、意志も弱いヤツには、自分の本心に反した行動で生き抜くことしかやれないんだ。だから、マジで、感謝しているんだよ。『ぺイルカ』を、取り戻してくれた。ありがとう。オレが、もしも、あの日に『ぺイルカ』にいて、自由に振る舞える勇気があったら……あんたの軍の一員になっていたと思う」


「故郷のために戦いたいのなら、『プレイレス』に戻ればいい。出身地に戻りにくいのであれば、別の都市の軍にでも入ればいいだろう」


「……考えてみる」


 おそらく、この男が故郷に戻ることはないように感じた。故郷を離れられる男と、離れられない男というものがいて、こいつは間違いなく前者だ。


 可能性は、皆無だろう。


 それでも、皆無ながらにも可能性はあると信じてはやる。


「乱世で、命は儚い。せめて満足のいく死を迎えられるように、祈ってやるぞ」


「……英雄ってのは、言葉が重過ぎるな。カッコいいけどよ……」


「ではな。誰の敵となるか、選べ」


 沈黙したままの男を無視して、ゼファーの背に乗った。果たすべきことを、しなければならない。英雄と呼ばれた地位に立つのであれば、とても大きなことをな。


「ドワーフたちを救い出す。そのついでに、もう一人の、メロとやらを殺しに行くぞ」




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