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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第六話    『不帰の砂漠イルカルラ』    その七十六


 …………眠りに入るのは一瞬だった。


 ……なんだかんだで、オレは意外と繊細な感性の持ち主なのかもしれない。そう思う。オレは夢を見ていたよ。戦の直前だというのに、泥みたいに眠るんじゃなくな。


 海が見える。


 北海ではない。寒そうな黒い海ではなくて、温かく遠浅の海だった。おそらく、オレが見たことはないはずの海だ。空想だろうかな……?


 そうだといいいが。


 正直、オレが見る夢は左眼にアーレスが宿っているせいか、ときどきおかしなことになるもんだ。戦の直前に、おかしげな夢を見るのは嫌なんだがな。


 だが、少しばかり心当たりがある。『支配者の本』だな。ヒトの皮で作られた、『古王朝のカルト』の祭祀についてまとめられた本だ。メシ時に皆へと告げるハナシじゃないからなあ。黙っていたんだよ。


 忘れていたわけではないが……あまりにもグロいハナシだ。これから皆で戦の前の楽しい食事だというときに、呪われた人の皮膚で作られた本のことなど口走れるほど空気の読めない男ではないのだ。


 そんなハナシぐらいで戦士の胃袋は怯まない―――と胸を張って言いたいところではあるが、実際のところ引くときは引くもんだ。本能というものは理性より強いんだからな。ミアがガッカリするような顔しちゃ、お兄ちゃんは何のために生きているか分からなくなる。


 そうだ。この夢……目の前に広がっている、遠浅で穏やかな海。これは、きっと『内海』のどこかになるのだろう。


 『古王朝のカルト』の『古王朝』っていうのは、『内海』の沿岸部に広がっていた大昔の都市国家のことだ。どれぐらい昔だかは忘れたが、かなりの大昔に『古王朝』たちは栄えた。言葉も異なり、文化も……そして宗教も異なっている。


 異文明と言っても差し支えませんよねえ―――いつだったかな、オットー・ノーランがそう語っていたのを思い出す。男は歴史のハナシって、好きだからね。ときどき、男だけで酒を呑んでいるときは、オットーが大陸の古い歴史について教えてくれることがあるんだ。


 レイチェルやシアン・ヴァティと呑んでいるときは、そういう会話は出来ない。二人とも歴史とかに興味がないからな。伝統的な技巧については興味があるらしいが……オットーは古風な武術については詳しいが、レイチェルが喜ぶような芸術や踊りのハナシには疎い。


 とにかく。いつかオットーに聞いたのさ……『古王朝のカルト』の祭祀呪術の本よ。貴様のせいで、オレは『内海』を見ているんだろうな。


 ……北や大陸中央地帯とは、一風変わった場所だ。穏やかな風が吹く、暖かな海。そこには白い石で組まれた遺跡みたいな住居があったのさ。その千年経っても使えそうな原始的な住居は丘に並んでいた。そして、その丘から南を見下ろすと砂浜があり、丸木舟が並ぶ。


 北海のように荒れる海では、あんな小舟で沖に出るのは恐ろしいが……『古王朝』の連中はへっちゃらだったらしい。


 ……砂浜に人々がいる。種族は、人間族とエルフ族。そして、巨人族だった。彼らは集まり……邪悪なことをしていたよ。集まって、火をつけている。何にかと言えば、皮を剥がれた巨大な牛にだった。


 ヒトを燃やしていないだけマシかもしれない。だが、燃やされている牛は『化粧』を施されている。どういうことなのか?……分からんね。オレの嫌いなガラハド・ジュビアンという男は、死に化粧をいつでも顔にしていたことを思い出す。


 ―――死しても美しくあることが、戦士としての礼儀だろう?


 オレとは明らかに違う哲学を持っていた男ではあるが、そういった考え方も全く理解できないというわけでもない。死にざまの美学。そうだ。オレは、目の前にいる『化粧された牛』のことを、『生贄をより美しく飾る、神への礼儀』なのだと考えていた。


 合っているのかどうかについては、自信の持ちようもない。


 これが生贄なのか、それともただの変わったバーベキューの方法なのかも自信がない。『古王朝のカルト』の祭祀についての本が、いびきをかいているオレのすぐ隣に転がっていると考えているから、『生贄の儀式』の最中なのだろうと連想したに過ぎないしな。


 ……オレは、化粧されながら焼かれている牛を見ていた。夢だからだろうか?牛の大きな目玉が動いて、こっちを見ていた。不気味だな。だが、それぐらいで驚けるような人生を送ってはいない。


「しゃべれるのか?」


 訊いてみたよ。


『……我を恐れぬか。異邦の騎士よ』


「ククク!さすがは、夢の世界だな。夢の産物と話すとはバカげているが、一応、聞いておいてやるよ。お前は『何』だ?」


『我は……『イージュ・マカエル』。あらゆる人々の祖にして、契約の神』


「オレのご先祖様は化粧した牛かよ!」


 爆笑もんの事実だな。オレが嫌いなヤツに教えてやれば、大笑いしてくれそうな珍説だ。


『この肉は、生贄だ。それに宿っているだけのこと……』


「……『ゼルアガ』か?」


『異界からの神々と、我は異なる……』


「……人々の呪術が生み出した、呪術仕掛けの神か」


『……そのようなものだ』


「『ヴァルガロフ』で見たことがあるよ。そいつには、人格なんて無かったが。神さまを呪いの中から再現した……ヒトの心が壊れる呪いを集めて、それで組み上げたんだ」


『ヒトは今も昔も、同じようなことをする。我は、人の呪いの海より生まれた『神』だ』


「契約の神か……変なヤツもいるんだな」


『……そうだ。我は、狂気の産物でもある。純粋にして無垢。だからこそ、狂気の温床たりえるのだ……我と交信してしまった者よ』


「なんだい、『イージュ・マカエル』?」


『そなたは、やがて古い呪いと戦うことになる』


「お前とか」


『そうかもしれない。そうでないかもしれない。我は、必定でもある……我との関わりは戦士にとって試練の訪れを予期させるものだ……我々との遭遇に備えろ。そして、可能であるのなら……我々に滅びを与えてくれ、獣の魔力が染みついた、赤毛の戦士よ……』


「滅びを望む、古い神か……まったく、戦の前に見るにしても、変な夢だよ」




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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりにゼルアガ登場するかな? 楽しみです‼️
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