第六話 『不帰の砂漠イルカルラ』 その七十五
ククルのメルカ風ヨーグルト・ジュースは少女たちに大受けだったし、オレも好きだよ。ヨーグルト・ジュースの酸味とはちみつの甘味。つい忘れていたが、これほどに王道な味もないではないか……。
ガンダラぐらいだったな、この魔力の虜になっていないものは。フクロウで連絡をするための仕事がきっと心をメルカの魔法に対する抵抗とでもなっていたのだろう。
「……はふー!幸せだー!!」
「イエス。戦いへの気持ちが削がれるレベルであります」
「えええ!?だ、ダメですよ、そんなにたるんでは!?……は、はちみつの魔力の深さは、『メルカ・コルン』として誰よりも分かってはいますが……っ」
「大丈夫ですわよ、ククル」
「レイチェルさん?」
「猟兵は、戦いを忘れるような動物ではないのですわ」
「……っ!さ、さすがです!!」
オレたち『パンジャール猟兵団』の組織哲学を、レイチェル・ミルラは示してくれた。そうだよ。たとえ、このヨーグルト・ジュースの堕落へと誘うかのような濃密なる甘さと深いコクがあったとしても……。
オレたちは戦いを忘れはしない。
休む時は、全力で休むのさ……テントの外では、もうゼファーは眠っている。昼間に帝国兵士を食べたから、胃袋は十分に満たされているままだ。
「……いい宴であったが、そろそろ眠っちまうとしようぜ。お行儀は悪いが、全力で休むぞ。次に目が覚めたら……アルノア軍を壊滅させるまで戦い続けることになるんだからな」
「うむ!そうだな、奥のテントは女子部屋だ!!さあ、さっさと全員で移動するのだ!!団長命令が出ているのだからな!!」
そう言いながらも、リエルはメルカ・ヨーグルト・ジュースの入ったグラスを握っているから愛らしい。
「オッケー!全力で、ご飯食べたあとは……全力で、すーいーみーんッ!!」
そう語るミアは、座っているレイチェルの胸元にゆっくりとダイビングしていた。ミアの顔がレイチェルの露出の多い胸元に埋まる……。
「……むふー!幸せレベル、大の中だー!!」
『パンジャール猟兵団』巨乳ランキングでは、圧倒的一位であるロロカ先生の次に、おそらくレイチェルがナンバー2だろうからな。
ミアは何とも幸せそうなあくびをしながら、レイチェルの腕と体に全てを委ねていたよ。子持ちのレイチェルも、ミアのことを母性たっぷりに抱きしめている。ふむ……その表情は妖艶さではなく……慈愛そのものといったものだ。
絵描きがいれば、二人を見つめながら筆を走らせたくなったのではないか?……両親を亡くしたミアと、夫を亡くしたレイチェル。その二人の物語をオレが知っているからというだけではないさ。
二人を見ていると、なんとも微笑ましい気持ちが心に踊る。ミアは幸せなやわらかさに包まれながら、もう寝息を立て始めていたよ。
「こ、これが、全力で寝るという猟兵の哲学……っ!!」
オレの妹分ククルが、なんだか感銘を受けたというような表情でミアを見つめていた。真剣すぎるな。マジメなのはいいことだが、集中力がありすぎては、かえって眠りを妨げることになるかもしれん……。
そんなことを考えていると、キュレネイと目が合った。キュレネイは、オレの心を読んだのか?なんだか、頷いていたよ。そして、気配を消しつつククルの背後に回り込むと、その背中から抱きついていた。
「ククルを、ギューっとしてみるであります」
「うひゃあ!?な、なぜなに、どーして!?」
「……団長命令であります」
「えええ!?こ、これは、つまり……ソルジェ兄さんによる、遠隔的かつ間接的なセクハラ……っ!?」
「そうに違いないであります。私の指は、団長の指であります」
「ふええええ!?」
「誤解するなよ。緊張をほぐしてやろうという試みだ」
「ええ?ご、誤解なんですか……そ、そうですよね……リエルさんとカミラさんがいる場で、そういうのは、いくらソルジェ兄さんでも……」
二人のヨメさんたちがいないと、オレはククルにセクハラかます経営者という認識なのだろうか……?傷つきはしないが、日ごろの行いを反省しなければならないのかもしれないとも感じた一瞬だったよ。
「とにかく、さっさと寝ちまうとしようぜ。女性陣は、奥のテントに移動してくれ。魅力的な君たちが一緒では、眠気以外の気持ちもわいてしまうからね」
「ウフフ。当然ですわね。我々は、皆、若く美しいですから」
この場にいる女性陣で最年長者の言葉であるということは、オレの人生経験が唇を微笑ませることで防止する。いらない皮肉は使うべきではない。
空気を読めないギュスターブ・リコッドとは、オレは違うのだからな。
「では、ソルジェさま、そして男性陣の皆さん!ここに、毛布とシーツを敷きましたっすから。こちらのテントでお休みくださいっす」
家庭的で気が利くカミラが、オレたち男どものために、その気配りをまた発揮していた。いつの間にやら、シーツと毛布のメイキングは完璧じゃないか……さすがだな、カミラ。尽くすタイプの女子は違う。
「……さーてと、さっさと寝ようぜ、サー・ストラウスの命令だしな!」
権威主義的な側面の強いグラーセス王国の戦士は、群れのリーダーに対して従順な男だった。そして、ガサツだな……もう眠り始めている。ドワーフらしい下品ないびきを上げている。
「なかなかすみやかな就寝だ」
「グラーセスの戦士たちは、全員がこういう感じだったね……」
いびきで眠られない?……実際のところは、そうでもない。戦士はどういう環境でも眠れるものだよ。そうでなければ、戦争なんていう過酷な環境を生き延びられるはずもない。
ドワーフの大地の底から湧き上がるようないびごときではな……まったくもって、眠気が阻害されるなんてことはありえんね。
女子たちが去った場所で、オレたち男どもはカミラの用意してくれた寝床に雑魚寝するのさ。テントの外でも、人々は眠り始めている……戦に備えて、わずかながらの休息を取るために。
マンサフ・ディナーでつながれた、『新生イルカルラ血盟団』と『太陽の目』の戦士たちは、今、同じ『ガッシャーラブル』の城砦に抱かれて眠るのだ。泥のように眠る……たとえ、わずかな時間でも、それが体力を回復させることにつながるからだ。
満腹となった戦士たちは、夢の世界へと落ちていく……オレも、その例外には漏れないさ。全力で眠る。ミアと同じく、オレは最古参の猟兵の一人なのだからな、ガルフ・コルテスよ。
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