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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第四話    『ザシュガン砦の攻防』    その九十三


 闘争本能に正直になって荒くれた貌を浮かべたバルガス将軍を見た瞬間に、死んだ親父のことを思い出す。翼将ケイン・ストラウス。竜騎士たちの頂点であり、オレの父親。


 親父も戦に出かける時は、いつもあんな顔になっていたな。なんだか、懐かしい風に吹かれたような気持ちになりながらも、オレは竜太刀を構えて、馬に乗る彼の左側へと踊り出た。


 そこに回り込もうとしていた帝国人を斬り殺しながら、バルガス将軍に告げるのさ。


「バルガス将軍!アンタの左側は守ってやるよ!!」


「私の盾になるかね、ストラウス殿」


「そういうことだ。援護してやるから、好きなように暴れてみろ!!」


 新たな帝国人と鋼をぶつけ合わせながら、背中越しに親父に似ている男に言ってみたよ。何だか、ちょっと嬉しいね。死んじまった親父に、カッコつけていられるような気持ちになるんだからな。


「ハハハ!!いい男だよ、ストラウス殿!!砂漠に生まれるべき男であったぞ!!」


「ガルーナの風は、竜騎士に合っていたよ!!」


 馬を踊らせて、バルガス将軍は馬上から槍を打ち落とす!!奮戦する彼に応えるため、負傷者ぞろいの戦士たちが人生最後の意地を見せるのさ。傷から血を、無理をさせた体からは十里を走ったばかりの馬みたいに汗を走らせながら、槍や剣と存在を一つにする。


 叫び声をもって歌い、剣戟の音が響き合う。殺して、殺して、殺されていくのさ。尽きることのない報復の『正義』は、男たちを動かし続ける。かつて国を奪われた軍人たちは、その恨みを晴らすために死の恐怖を踏み潰し、ただただ怒りの体現者となる。


 怒りの熱量のまま、彼らは息を切らしながらも戦うのだ。


 オレのとなりに並んで戦う巨人族の戦士に、帝国人が投げた槍が突き刺さる。歯を剥きながら、歯に閉じ込められた赤い舌を打ち、その槍を投げた帝国人を正面から斬り殺す。


 槍は、彼の太ももに突き刺さっていた。深手だが、手当をしてやれる状況でもない。次から次に、バルガス将軍を狙って帝国人は集まって来るからな。


 それでも彼は、戦士であった。立っていることさえも辛いだろうに、ただただ立ち続ける。太い脚を貫いた槍を抜くと、その槍を帝国人どもの群れ目がけて嘆かした。悲鳴が上がり、誰かに槍が当たったのだろう。


 歩く。


 傷ついた戦士は、深手を負った脚を無理やりに動かして、バルガス将軍の隊列を維持しようとする。槍は武器ではなく、杖と化してはいたが、それでも打ち合う仲間たちの背を体を使って支えてやる。押し込むことでも、敵陣を崩す力になるからな。


 あふれる血は止まらないようだが、彼はそれでも行えることの全てを選ぶ。疲労と出血は、肌から燃えるような熱量を奪い去っていくだろう。砂漠の夜に暴れる北風みたいに冷たくなりながらも、彼は仲間のために祈りを歌うのだ。


「蛇神よ!!私は戦った!!貴方がたの使徒に嫌われることもあったかもしれないが、私たちはいつでも蛇神の忠実な戦士だった!!私たちは、私たちの誇りを守るために!!私たちの信仰を守るために、私たちの生きるべき形を守るために戦士であった!!」


 『蛇神ヴァールティーン』は、勇敢なる魂を愛でるのだろう。この戦いばかりの荒れ果てた土地には、あまりにも似た激しい戦神であるようだ。


「私たちは、七つの戒律を守った!!蛇神の前で嘘をつくことはなかった!!蛇神に供物を捧げた!!蛇神の神託をあおいだ!!蛇神の僧侶と巫女に敬意を払った!!蛇神の戦士は勇猛であるだろう!!蛇神の導く輪廻を信じている!!……今こそ、蛇神の名を広めよう!!我々は、『メイガーロフ武国』の最後の軍勢!!王国と『蛇神ヴァールティーン』に仕えた、忠実なる戦士だ!!」


 七つの戒律を叫びつつ、杖代わりにしていた槍を投げつけた!!そして、出血死寸前の巨人族は、倒れた仲間の死体を踏み越えて、片脚で跳ぶと敵へと襲いかかった。


「くそがあああ!!異教徒があああ!!」


 帝国人の鋼が彼の体を迎え撃ち、刃に彼は斬り裂かれる。それでも、彼は戦士だった。剣が戦士の体を深く斬り裂こうとも、彼は腰裏から取り出した二振りの短剣を左右の拳に握っていたよ。


 そいつは、まるでコブラの大牙のようである。


 広げられた左右の腕に煌めく、湾曲した短刀は蛇神の牙のように見えたのさ。刃の構造には、独特の溝が走っているからな―――アレには、おそらく毒が塗り込まれている。拠点の屋根裏めいた洞穴にコブラを飼っていたことを思えば、ヤツらの牙から毒を採取しているのかもしれんな。


 復讐者は、猛毒の牙を使う。自分の冷たくなりつつあった体を斬り裂いた敵の体に、左右の毒牙を叩き込んでいた。


「ぐううううっ」


「……いっしょに死んでもらうぞ、帝国人……お前たちの馬が踏みつけた、私の子供の苦しみを、識るがいい」


「お、オレは……お前の、子を、こ、殺しちゃいない」


「……だとしても、私は、お前を憎むさ。帝国人よ……お前たちさえ、この世にいなければ、私の子は今も砂を、蹴って……遊んでいたんだ……さ、三才で、死ぬことなんて、な、なかった……っ」


「お、オレにも……こ、子供が……っ」


「ならば、この末期の時に、お前の神に祈るがいい……」


「め、女神イースよ……っ。お、オレに……オレへ…………助けてください―――」


「……ヴァールティーンよ……り、輪廻に、再生の輪廻に導き給え……私の子の魂が、再び、わ、私の子として、生まれて―――――」


 殺し合った戦士たちが、それぞれの神々へと慈悲と救いを乞いながら砂漠へと崩れ落ちていた。


 慈悲の女神イースは帝国人に甘いのか?だとすれば、相変わらずオレの敵だな。蛇神はオレの仲間の神だから、敬意を払うさ。輪廻とやらを司るのならば、お前に忠実だった者たちの魂を、救ってやるがいい。


 父親と子が会えるってのも、悪くない願いだと思うんだ。とくに、今この瞬間はな。なあ、親父。アンタもガルーナのために死ぬ時、バルモア連邦のクズどもに突撃しながら、バルガス将軍みたいな貌をしていたのかな。


 ……間違っても、オレのかたわらに沈んだ二人の父親みたいな顔はしていなかっただろうよ。オレのことなんて祈っちゃいなかったさ。ストラウスの剣鬼は、ガルーナの竜騎士は、そういう趣味じゃないからな。


 祈りの歌と断末魔の叫びが、鋼の生む剣戟に融け合いながら、命からあふれた血のせいで、砂漠の砂は湿り気を帯びていく。ああ、砂漠はよく血を呑み込みやがるぜ。


「メイウェイ!!私はここだぞ!!隠れていないで、直接、その手で私の首を討ち取りに来るがいい、臆病者と後世に伝えられたくなければな!!」


 ……バルガス将軍はメイウェイを探しているが、ヤツの側近は全力でメイウェイが飛び出そうとするのを止めるだろう。今のバルガス将軍は、尋常ではない迫力を持っているからな。


 それに、将同士の一騎討ちをしなくとも、戦力の一部が東へと離脱した今となっては、『イルカルラ血盟団』の戦力は少なく、完全に包囲されつつある……。


「……バルガス将軍、何か、策は残っているのか?」


「……メイウェイが出て来ないのなら、すべきことは一つ。南に向かうぞ!!」


「なるほど。そう来たか」


 南、『ザシュガン砦』。せっかく奪ったそいつを、この状況で使う気だ。あえて包囲させることで、東に向かったナックスたちの追っ手を減らそうということさ……しかし、まあ、そこまで突破するのは一苦労だろうがな。


 


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