第四話 『ザシュガン砦の攻防』 その九十二
ストラウスの嵐を放つ!!
竜太刀と一つになり、目の前にいる帝国人どもを切り刻み、空を裏切り者どもの赤い血で染めてやるのさ!!
「死ねええ!!亜人どもがああああ!!」
「……目を開けているのかね?」
ドワーフ・スピンで帝国人の鈍い突きを躱しながら、そいつ背中を叩き斬る!!
そのまま、砂を踏むステップを組み替えると、稲妻のような突きへと化けるのさ。ドワーフの『狭間』、テッサ・ランドールが得意とする突撃の技巧。『狭間』の肉体がなくとも、帝国人を突き殺すぐらいの威力にはなれるのさ。
「ぐふうう!!」
「……悪くない腕と勇敢さだ。ゆっくりと眠れ」
手首と指で竜太刀を回転させて、若い帝国人の命を壊してやった。首根っこを左手で押しながら、若い帝国人の身体から竜太刀を引き抜く。心臓を突き壊してやったおかげで、血が飛び散ってくることはなかった。
「サー・ストラウスに続け!!」
「帝国人どもを、侵略者どもを皆殺しにしてやるんだああああッ!!」
オレの開けた穴に、次々と命知らずの巨人族の戦士たちが突撃していく。あちこちで鋼がぶつかり合い、火花の煌めきと剣戟の音がそこらじゅうで生まれるんだよ。
ああ。
最高に楽しい。戦ってのは、本当に楽しいから時々―――いや、ちょくちょく我を忘れてしまうもんだよ。
『パンジャール猟兵団』の団長として、ここは冷静になるべき瞬間かもしれん。
『イルカルラ血盟団』のベテランたちは勇敢だった。しかし、体力の限界も訪れようとしているのも事実だからな。オレもまた、動きが鈍り始めていやがる。
「……死ぬほど楽しい戦いだが、没頭しすぎているわけにもいかないか」
「サー・ストラウス!!疲れたのなら、オレが先頭に行くぞ!!」
愛馬を巧みに操りながら、ナックスがその長大なリーチから振り回す槍で帝国人どもを薙ぎ倒してみせた。
感動するな。砂漠の戦で巧みに馬を操ってみせるのか。まったく、やりやがるぜ。ククルと同じように、ナックスから砂漠の馬術のコツを伝授してもらいたくなる。
砂漠での戦いに誰よりも慣れているベテランは、馬上で槍を振り回し、何人もの敵兵を打ち倒す。いい動きだ。傷ついているハズの脚も、リエルの作った秘薬のおかげで誤魔化せているようだな。
明日の朝まで生き延びると、地獄のような痛みが反動として現れるだろう。ナックスは、生きる方を選んだようだからな。痛みを味わえる命があるだけ、マシってものか。
十五秒ほど立ち止まり、オレは『イルカルラ血盟団』の戦士たちの背中を見ていたよ。竜騎士の呼吸を使いながら、体力の回復をはかる。呼吸を整える。まだムリは利くが、やらねばならないことを、しに行く必要があるんだよ。
「ナックス!!ここは任せた!!上手いこと、部下を生かせてみせろ!!」
「……っ!!……ああ!!分かっている!!皆、ここを突破するぞ!!しんがりは、バルガス将軍たちに任せるんだあああッ!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
「突っ込めええええええええええええええええええええッッ!!」
巨人族の戦士たちは生き残ろうとしていた。敵を殺して潰しながらも、敵陣を北東に向かって突破した彼らは、徐々に東へと向きを変えることになる。ドワーフの大穴集落へと向かうことになるわけだ。
敵を殺し打撃しつつも、彼らもまた生き延び、『次』の戦いへと備える。それでいい。政治的には、ここで散った方が後の混乱を省けるかもしれないが……生き延びて、戦い続けるのも悪くない道だ。
ナックスとか……ソルジェ・ストラウスの9年間ってのは、そういうものだった。あの日に死んでれば、今日もこれだけ多くの帝国人を殺すことも出来なかった。生きることも戦いになる―――それを知っているのさ、オレもナックスも。
だから、オレはナックスにこの場を任せることが出来る。あとは、今宵、最も死にたがっている男のところに行くとしよう。敵が最も追いかけて来ているハズの男のところにな。
オレは竜太刀を肩に担いで、巨人族の戦士たちが生み出す突撃の潮流に逆らうことにした。
すれ違う戦士たちの中には、その理由が悲しみとも苦痛とも判断することが難しい、複雑な悩みと葛藤を浮かべた者たちもいる。
いい連中だ。
生き残ることに罪悪感を覚えるような男は、生き延びたならこれまで通りの良い仕事をするもんさ。
……さて、あとは猟兵に任せればいい。
戦場ですべきことを、最も理解しているオレたちに、後は任せて、生き残るための戦いを実行すればいいんだよ。
「殺せええええええええええええええッッ!!」
「ヤツを、討ち取るんだああああああッッ!!」
行くべき場所から、野太く凶暴さに揺れる叫びが聞こえて来やがった。そうさ。帝国人どももバカじゃない。狙うべき大物がいれば、そいつを仕留めようと動くもんだ。クソ寒いはずなのに、汗と血まみれになって肌が燃えるように熱くなっているこの戦場。
そいつを作り上げているのは、肉体由来の体力だけじゃない。
明らかなムチャをする時には、ヒトは精神力だって使って状況を実現している。
『イルカルラ血盟団』を支えているのは、間違いなく彼の意志だった。彼が死ぬと言ったから、皆が死地にまでついて来てくれている。彼の生きた道が、正しかったことの証になるな。
……誰もがそうであるように、アンタも完璧な人生ってものを歩むことは出来ちゃいないだろうよ。不満もあるし、名誉も失っている。悪い王に仕えたと、巷じゃ言われているが―――死のうとする瞬間に、これだけの強者が周りに集まるんだ。
間違ってはいなかったのさ。
アンタの人生は、絶対に間違ってはいなかったんだよ、バルガス将軍!!
「待たせたな!!」
ガルーナの野蛮人の喉が、そんな叫びを宣告しながら、バルガス将軍を左側から襲おうとしていた帝国人を斬り伏せる。横に薙ぐように斬り、かち上げるようにして斬りながら吹き飛ばしてやった。
馬上の将軍は、幾らか手傷を負っている顔で笑いやがるのさ。戦場を楽しめる、本物の戦士の貌だった。
「よく来たな、ストラウス卿よ!!」
「オレの提案に乗ってくれているようだからな。少しは、オレも協力してやらんとな」
「すでに、貴殿は十分に働いてくれているが……私にとっては都合がいい」
「そうだ。利用してくれ。オレも最後の突撃に付き合うが……死ぬ気はない」
「変幻自在の貴殿のことだからな。何かの策があるのだろう……死なぬのならば、容赦なく頼らせてもらうぞ!!」
「そうしろ!!」
「不帰への道を選んだ同胞たちよ!!今こそ、最後の作戦の時!!『未来』の礎となり、『蛇神ヴァールティーン』に会いに行くぞッ!!」
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