第四話 『ザシュガン砦の攻防』 その九十
死にゆく敵兵に背を向けて、南へ向けて進撃を再開する。焦げた空気を駆け抜けて、怯えた帝国人の群れに襲いかかるんだよ。
『魔剣』を放ったおかげで魔力は大きく損なわれてしまっているが、ちょっとだけ休めたから少しはマシだ。敵兵は反応して、こちら目掛けて走り始めたが、オレへの恐怖は拭い切れてはいない。
「く、来るなああああ!!」
「ば、バケモノめええ!!」
腰の入っていない剣と槍が、鈍い速さで視界に入って来る。竜太刀は臆病に震える鋼を打ち払うと、勇気に欠けた敵兵の肉に続けざまに斬撃を打ち込んだ。
鉄の板を裂いて、中身を深く破壊する。即死かどうかは分からんが、致命傷を与えたのだ。それ以上のこだわりはない。脚を進ませ、新たな帝国人に襲いかかるだけのこと。
単純にして明快な哲学に、ガルーナの野蛮人の身体は動く。哲学は衝動させるんだよ、とにかく敵を斬り殺せ!……分かりやすいことだし、哲学の対象相手はそこら中にいる。
怯えてはいるが、戦の経験値を持つ男たちも多い。退くことで事態は解決しないと理解していやがるのさ。隊列なんて崩すものじゃない。それを理解している。そして、ちょっとばかし戦略を学んでいるヤツらは、オレの行動の意味を見つけているだろうよ。
「と、止めるんだ!!」
「ここで止めなければ、コイツは陣形に穴を開けかねんぞ!!」
そうだよ。まさにそいつを狙って、筋肉を酷使している真っ最中だ。敵陣を貫き、バルガス将軍たちと合流する。オレが作った道を通れば、彼らは楽にこの陣形を突き破ることが出来るからな。
帝国兵どもを次から次に斬り捨てながら、前に前にと進むのみだ。後ろはあまり考えないコトにしている。リエルとミアに任せておけば問題はない。背後を取ろうとして回り込むとする輩には、上空からの矢と弾丸が死を運んでいる。
戦場では死体も一種のバリケードにはなるんだよ。それを踏み越えるのは、ちょっと倫理観が痛むもんだしな。とくに仲間の死体となれば、なおさらその傾向は強まる。物理的な問題として、それを踏めば転けてしまうかもしれん。
死にかけているヤツは、必死に仲間の身体を掴もうともしてくるからな。戦場で最も怖いことの一つは何か?……地上に倒れ込んでしまうことだ。重傷を負っただけの戦士でも、大地に横たわってしまえば、味方や敵に踏み殺されることだってある。
余裕がない残酷な空間だからな。仲間だろうが敵だろうが、容赦なく踏みつけてでも生きようとするもんだ。
まあ、動けないほどの重傷を負った者は、仲間にしがみついてでも立ち続けようとするもので、リエルとミアはそれを狙って即死はさせていない。腹を矢で射貫き、喉笛を弾丸で破壊している。
腹を射貫かれた帝国人は、苦しみながらも仲間の肩にしがみつく。喉笛を壊された帝国人はその場に立ち止まり、動くことではなく咳き込みながら呼吸の回復に期待するしかない。窒息するような苦しみのなかでは、敵と命がけで戦っている場合ではないものさ。
ゼファーの背の上から、リエルとミアが抜群の援護をしてくれている。そいつを信じて、猟兵団長サマは目の前の敵を斬るだけでいい。
ああ。
アーレスの歓喜の歌が聞こえてくるようだ。あの年寄り竜のしわがれた声は、敵の死を歓び、オレの武勇を喜ぶだろう。
体中を疲労で濁らせていきながら、敵兵どもへ殺戮を繰り返す―――ゆっくりと限界というものに近づいているのが分かる。帝国の兵士どもは、それなりに強い。竜太刀の斬撃を受け止める者も、時にはいるからな。
打ち合う度に、こちらの膂力も疲労によって鈍ってしまう。矢と弾丸のサポートがなければ、とっくに敵に埋もれて死んでいるような荒行じゃあるからな。振り回される鋼を潜り、避け、打ち払い。前に前に進みながら、竜太刀で敵の命を裂いていく。
攻撃の戦術の最中に在るときは、迷わないのもコツじゃある。
仲間が連携してくれると信じることでのみ、発揮することが可能なシンプルな威力ってのもあるんだよ。
殺しながらも、孤独は感じない。
独りぼっちではないからな、空にいるリエルたちだけじゃない。西で戦うガンダラ・チームもいる。そして……オレは信じているのさ。この突撃の完結をな。
「うおおおおおおおおおお!!こ、ここは、通さんぞおおおおッ!!」
重装備の歩兵の一人が、意志を雄叫びしながら肉体の盾となる。大剣を振るうその男に、竜太刀の一撃は受け止められる。強兵だ。たしかにそうだが、オレが弱っているのが原因だな。
体力と魔力に満ちていれば、こんな大剣など弾き飛ばすか叩き折ってやっていたところだが、疲れているということは、それほどにヒトを弱くもするもんだ。
ギリリリリリイイイイイイインンンッッッ!!!
刃と刃がせめぎ合いながら、甲高い雄鳥のさえずりにも似た鋼の歌を奏でていた。敵サンは両手持ちというオーソドックスな握り方で、剣の柄に指を絡めている。疲れているオレは器用さを捨てるしかない。
左手も使って、竜太刀の柄を握りしめた。関節を筋肉で締めつけて、骨と骨を結びつけるようにして重みを生み出す。筋力だけで技巧を表現するわけじゃないんだよ。骨格の姿勢と重心の移動だけでも、剣術は成る。
とくに鋼をぶつけ合わせての力比べの最中ではな。動きこそが少なくても、姿勢の制御だけでも強さを生めるのさ。
「ぐうううう!?」
押し込まれていく敵兵は、必死な形相で歯を剥き出しにする。耐えてくれているようだが、猟兵は時に意地悪な場合があるもんだ。
力を不意に抜き去って、ヤツの大剣をオレの左側に空振りさせるのさ。大きく崩れてしまったその剣術家は、古典的な技巧に敗れたことを悟りつつ、屈辱に顔を歪めていた。姿勢に依存した重さを使っていると、こういう力を抜く動きも冴えるからな。
竜太刀を軽く横に振り抜いて、沈んでいく剣術家の左腕ごと胸を斬り裂いた。致命傷を負わせたからな、次へと向かう―――そして、気がついていた。楽しげな狩猟場に、変化が訪れていた。
敵兵の背中を見つけたんだよ。
どういうことか?
理由は明白だった。こっちの作戦が結実しようとしている。
「―――信じていたぜ」
そうだ。
攻撃的な戦術において、その概念は大切だ。
愚直なまでに策に忠実になることで、それぞれの役割を確実に果たすことで。ついには連携ってものが完成することになるのさ。
「サー・ストラウス!!単独で突撃しておったのか!?」
帝国人を槍で打ち殺しながら、馬上のバルガス将軍はオレに語りかけて来た。返り血と汗に汚れた戦士らしい顔には、その疑問が浮かんでいたよ。
「そういうことだ!!しかし、オレは一人ではない!!突破してくれると、信じていたぞ、『イルカルラ血盟団』の戦士たちよ!!」
巨人族の戦士たちが、オレの目の前で帝国人を打ち払いながら現れる。作戦は成された。敵陣を貫き、オレたちは合流を果たした。さてと。もっと、暴れるとしようじゃないか。
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