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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第四話    『ザシュガン砦の攻防』    その八十二


 伝えたい言葉はナックスに託したよ。あとは、ナックスが行動し、『イルカルラ血盟団』の人々に伝えてくれるだろう。作戦と、そして、オレたちの感情的な願いだ。犬死にはするな……戦力を発揮して敵を可能な限り痛めつけたら、生き延びればいい。


 ……もちろん。全ての戦士がそんな選択をしてくれるなどという考えは、オレだって持っちゃいないんだがね。それでも、伝えておくべきだ。そちらの方が、より効率良く帝国軍との戦いを行うことになるかもしれない……その可能性を秘めているんだからな。


 別れの儀式であるかのように、ナックスはどこか静かになった。採風塔の地下で見かけた昨夜とは、あまりにも雰囲気が異なる。脚はまだ痛むだろうに、そんな素振りを見せてはいない。


 生粋の戦士であるんだよ。リエルの秘薬の影響も、もちろん彼を支えてやってはいるだろうが、行動を強く制限するような骨の痛みを、薬だけでカバーしきることは不可能だ。精神力が要る。鋼のように壊れない根性と、死にも戸惑うことのない覚悟がな。


 ナックスは、そういうモノを済ませている。だからこそ、ミア・マルー・ストラウスはナックスに死へと向かう者の気配を感じ取り、側にいてやるのだろう。


「ナックスちゃん、冷静に動いてね。戦場では、合理的に動いて、敵の弱点を突くの。自分の弱点は、敵に見せちゃダメ。基本だけど、聞いてね。ヒトって、冷静じゃなくなると、基本も実践することは出来なくなるんだから」


 ……ガルフ・コルテスから教わり、そして自身の戦闘遍歴が出した結論を、ミアは口にしているのさ。


「……ああ。分かっているよ。オレも、ムダなことはしない」


「……そうしてね」


「そうするよ」


 砂漠の丘にきらめく星々を、巨人族の大きな黒い瞳で洞察しているナックスは、うなずく横顔をミアに見せてくれていたよ。ミアは、それを信じられるほど幼くもない。すでに立派な戦士であり、戦士の霊長である猟兵の一員なのだから。


 それでも、無邪気な笑顔を作れる。その13才という年齢には、それが許されていた。


 ……馬たちにオアシスの水を飲ませて、喉を潤わせた後で、ナックスはオレたちに5頭の馬を残して旅立って行く。


 ミアは……カミラに抱きついていた。


「……ミアちゃん?」


「……ナックスちゃん、いいオッサンなんだー……」


「はい。そうっすね。自分にも分かるっすよ。あのひとは、さみしげな瞳で死地に赴けるヒトっすから」


「死なせないようにしようね……?」


「もちろん。自分たちが戦場を、砕いてやればいいっす!……そうすれば、『イルカルラ血盟団』の皆さんも、その全員が命を失うことにはなりません」


「うん……!」


 二人とも気合いが入っているな。ミアは、ニッコリと笑うと、オアシスの淵に座り込み、スリングショット用の弾丸を、弾薬ポケットから取り出していた。チェックするのさ。自分のルールによって、完全な順番でポケット内に配置されているかどうかを。


 そして、弾薬と共に使用する戦術と、戦場の環境を頭のなかに思い描いているはずだ。風向きや距離、砂丘の起伏に、帝国兵どもの装備の隙……どの弾丸を選び、どの軌道を選び、どうやって死を敵に与えてやるかを確認して準備している。


 『暗殺妖精』は、ピュア・ミスリル・クローを内蔵する特殊手甲を取り外し、スリングショット機能も、チェーン・シューター機能も、クローの鋭さも確認する。ギンドウ・アーヴィングが作ってくれた精密なギアの組み合わせを確認し、ミアは納得を得た。


「……万全。100%。あとは……全力で、戦いまで休む!お兄ちゃん、ミアは、ゼファーの上空から撃ちまくる係だよね?」


「もちろん、そうだ。敵兵の頭を撃ち抜いてもらうぞ」


「ラジャー!……だから、ゼファー!」


『なーに、みあ?』


 我が妹、ミア・マルー・ストラウスは砂漠を音を立てることもなく走り、ゼファーの背中に飛び乗った。両手足をだらりと脱力して、そのままゼファーの体温の虜となる。


「……お休みモードに入る。戦闘寸前まで、ミアは体力、魔力、集中力を温存して、貯めておくの……」


『わかった。ぼくのせなか、かしてあげるね、みあ』


「うん。ゼファー。お兄ちゃんの瞳術だけじゃなく、ミアとかリエルとの連携でも、『炎』を使うんだよ?……想像しておくの、私たちは北風に合わせて『風』を放つ。その流れにね、ゼファーは、やさしく長く、乗せるよーに、『炎』を吹くんだよ」


『……うん。そうぞうしておくね、みあ』


「そうすれば、私たち、もっと強く敵を砕ける…………ふみゃー……ぐっないと……」


『おやすみ、みあ』


 猟兵らしい寝付きの良さを見せて、我が妹、ミア・マルー・ストラウスはすぐに寝息を立て始めるよ。その眠りを妨げることは、誰にも不可能だ。雷が空から枯れ木を打ち砕いたとしても、ミアは眠りつづけるのさ。


 プロ根性に基づいてな。


 ゼファーもそれを学び取るために、金色に輝く大きな瞳をゆっくりと閉じて、ゴロゴロゴロという愛らしい寝息を立て始めるのだ。


 ……オレたちも、焚き火を起こして砂漠に腰を下ろしたよ。体力を回復するために、手足の指と全身の関節を伸ばしていく……戦前の準備体操だ。オレたちは、好位置につけているからな。


 ……今ごろ、メイウェイは『ザシュガン砦』が落とされたことに気づき、南下を始めている頃だろう。慌ただしい動きになるはずだ。南下することにもストレスを感じるはずだからな。


 『ガッシャーラブル』では、エルフの山賊たちが珍しく軍を敵に回して攻撃して来た……真実は、ちょっと違って、オレたちがそう認識させるように行動した結果なんだがな。


 帝国軍はそう評価しているようだ。


 それに、『アルトーレ』にはクラリス陛下が率いる『自由同盟』の軍勢がいる。南下するということは、その勢力に対しての守りを弱くするということだ。


 エルフの山賊たちが、唐突に行動方針を変えたことに、メイウェイは『自由同盟』の影を感じ取るかもしれない。オレたちが敵の動きを推測することが可能なように、敵だってこちらの動きの意味を知性で探り当ててしまうことだってある。


 油断ならない敵。


 だからこそ、動きを予想することだって可能になるし……バカな相手と違って、罠にかけることも出来る。メイウェイは、こちらの策を読むだろうが―――ヤツには読めるはずもないシナリオもあるからな。


 ……皆が静かに、時を過ごす。星がまたわずかに動き、ガンダラが宣告してくれたよ。


「……では、団長。そろそろ、移動を開始しましょう」


「……ああ。頃合いだな」


「メイウェイ配下の軍勢が、上質な戦闘能力と、十分な組織的結束を保っているとすれば……今から動けば、敵の背後を奪えるでしょう」


「衝突寸前が、最良のタイミングだな。理想通りに動けるとも限らないが、皆、そろそろ動くとしよう」


「バルガス将軍たちを、お助けするっすね!」


「そうだ。『イルカルラ血盟団』の援護に回るぞ」


 ……深夜の決戦が始まる。最初の突撃。全ては、それで決まっちまう。そこに、オレたちも全てを投入することにすればいい。簡単なお仕事だな、命がけなだけで。




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