第四話 『ザシュガン砦の攻防』 その八十
ゼファーの背で魔力の回復を実行しながらも、北風に導かれた飛行はすぐに終わりを迎えていた。馬で南下を続ける仲間たちに追いついていたのさ。素早い作戦時間だったから、当然のことではある。
『ちゃーくちっ!!』
幼い竜の声を放ちながら、ゼファーは大きな砂丘に脚爪と尻尾をつけるようにして着陸していた。砂が崩れるままに、ゼファーの巨体もまた砂を追いかけるように進む。ヒトのガキと同じように、竜の仔だって砂遊びは好きなのさ。
……崩れる砂に乗ったゼファーは、自分を運んでくれる現象に対して、何だかワクワクしてしまっている。
『おー……すなって、おもしろい。さばく……すきっ!!』
「そう。良かったわね、ゼファー」
「ゼファーには、丁度良いサイズの『砂場』ってところだろうな」
ドワーフ族や巨人族が作る公園には、『砂場』って施設がよくある。ドワーフたちは子供らに鉄鉱石の欠片で遊ばせて、鋼と語り合う力を磨かせるため。巨人族は、子供らが安全に砂遊びをするために作るのさ。
巨人族の子供たちは、他種族たちに、よく誘拐されて奴隷にされるからな。巨人族は子供でも力が強く、奴隷として酷使するには適していると考えるクズ野郎もいるんだよ。
だから、巨人族たちは自分たちの居住地の中心に子供を遊ばせるために、充実した公園を築くわけだ。人さらいどもに誘拐されないようにするための、彼ららしい合理的な理由だな。どこか、悲しい背景から来る合理性でもあるが……。
なんであれ、幼い魂たちは砂を好む。川辺や海岸、あるいは人工的な砂場なんかで戯れているのさ。
「おつかれさまです、団長、リエル、ゼファー」
巨人族の紳士が、馬に乗ってオレたちの隣りにやって来る。
「首尾は?」
「私たちを誰と誰と誰だと思っているのだ?」
「ふむ。愚問でしたか。まあ、失敗するとは微塵にも考えてはいませんがね。しかし、戦場というのは不確定なことも起きるものですから」
「……ありがたいことに、今のところは、想定内のことしか起きちゃいないよ」
『そーだよ、がんだら。そーてーない。そーてーない』
「ならば安心しました。幸運に恵まれているあいだに、体力を回復させるとしましょう」
「休めているか?」
「ええ。馬たちは、少し歩き疲れているかもしれません」
「物資が重いものな。よい馬たちだが、疲れてしまっているのだな」
リエルは翡翠色の宝石眼を細めながら、むー、と唸りつつ馬たちを観察してくれる。
「ちょっと、参ってきているようだぞ。やはり背負わせた物資が、少しばかり重いようだ」
「……もうしばらく歩けば、小さなオアシスがあるそうです。そこで馬に水を飲ませておくとしましょう。そこから後は、ナックスと別行動になります」
『べつこーどー?なっくす、どこかにいくの、がんだら?』
「彼には、馬を率いて『イルカルラ血盟団』と合流していただきます。予定では、バルガス将軍たちが『ザシュガン砦』を攻撃し始めるのは、もうすぐになりますから」
「ナックスが馬を率いて、到着する頃には攻略出来ている時間になりそうだな」
「していなければ、ナックスと馬たちは援軍にもなるでしょうから」
「……我々は、参加しないのか、『ザシュガン砦』の攻略には?」
砂漠に飛び降りたリエルは、長い銀色の髪を風に乗せるようにして、オレの方へと振り向いてくれる。返事をするよ、縦に頭をうなずかせることでな。
「オレたちの出番は、メイウェイ指揮下で南下して来る大軍に対して注ぎ切る」
「これ以上の連戦と、夜間戦闘の連続は、いくら私たちといえども体力を削りすぎてしまいますからな」
「夜風は、また一段と冷えて来ているしな。うむ……そうだな。油断すべき環境ではない。私たちは、まだ、この土地に慣れてはいないのだから」
「そういうことです。それに……我々の合流を知らせるメッセンジャーとして、ナックスには働いてもらおうと思います」
「なるほどな。私たちのことを敵だと思われるのは心外だし、下手をすれば『イルカルラ血盟団』からも攻撃を受けるというわけか」
「メッセンジャーがいた方が良いでしょう?」
「うむ。私たちのことを、よく伝えておけよ、ナックス!!」
リエルは馬をこちらに向けて歩かせて来ていたナックスに、そう命じていた。森のエルフの弓姫に命じられた巨人族の戦士は、その大きな頭をうなずかせていたな。
「もちろんだよ、リエルさん。貴方の薬のおかげで、オレは戦えている……貴重な医薬品も持たせてくれた」
「……リエル、『ガッシャーラブル』で薬を作っていたのか?」
「ああ。あそこには、薬草が売られていたからな。良い薬草が多い。高山地帯の薬草は、ゆっくりと成長するから、その葉にも根にも、強い薬効をため込んでいる。値段は、経費だぞ」
「もちろんだ。クラリス陛下には、請求する。高いか?」
「……値切れたぞ。宝石眼の力は、万国のエルフ族に有効なのである!」
「さすがだよ。世慣れして来たな」
「フフフ。ちょっとでも、お得に買い物をするのが、良妻の心得だと、こないだ読んだ本に書いてあったのだ」
「リエルも成長しているのですな」
大した感動を抱いていない男の貌をしながら、ガンダラはそんな言葉を口にする。リエルは、素直な性格をしているから、褒められたと受け止めていた。良い性格をしているよな。
「うむ。成長しているのである!」
ドヤ顔エルフさんモードになりながら、褒められて上機嫌なリエルはゼファーの顔をナデナデし始めた。
『あはは!『まーじぇ』、くすぐったいよー?』
リエルなりの照れ隠しなのだろうか?……成長した自分を褒められるってのは、ちょっと気恥ずかしくもある行いだったりするのかもな。プライドの高い、エルフの弓姫からすれば。
仲睦まじい、母と仔の姿を網膜に映しつつ、蛮族の唇は微笑みに歪むのさ。
……こういう、まったりとした時間にうつつを抜かせるのも、『全力で休んでいるモード』の影響かもしれない。オレたちは、あえて無警戒な状態になり、集中力を維持している。
だが、リエルとゼファーの笑顔を見ていると……どうにも、必要以上に脱力してしまうな。幸福感の虜になる。リエルの夫で、ゼファーの『ドージェ』だから、当然のことさ。
「……さてと。リエル、ゼファーに乗って下さい。それとも、馬に乗りますか?」
「ゼファーに乗るに決まっているだろう?」
『そーだよー。『まーじぇ』、のって!そろそろ、いどうをさいかいしよう!』
……ちょっと休みすぎているところもあるからな。ガンダラみたいに有能な副官殿がいてくれることは、とてもありがたいことだ。作戦の遅延を起こさない程度に、オレたちをコントロールしてくれるんだからな。
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