第四話 『ザシュガン砦の攻防』 その七十
「馬を出すんだ!!」
「早く!!早く!!火を消すんだああ!!」
馬を愛する騎士たちは、厩舎に駆け込んでいくのさ。
「いや、消火することはあきらめろ!!馬を優先しろ!!」
レイドー卿はいい判断をする。長剣を抜き放ち、目立ちながら大声で指示を飛ばす。統率力を発揮する者がいれば、軍隊というものは能率良く動けるわけだ。
騎士たちはレイドー卿の命令に従い、消火活動をあきらめた。北風が吹き込む状況だからな。あの火災を消し止めるのは困難を極める。そんなムダな時間を使うよりは、馬を厩舎から出してやるほうが良心的じゃあるわけだ。
しかし、オレたちの作戦ってのは、これで終わるわけじゃない。敵兵を薄めるための手段は、まだまだ残っているんだよ。
慌ただしい地上を見下ろしながら、オレはまぶた越しに左眼に触れる。
ゼファー。いいな?……もう一発、喰らわせてやれ。
―――うん!!いくよー!!
北天の星空に並ぶように飛びながら、ゼファーは高い位置で姿勢を変えた。ゼファーの金色の瞳が意地悪な攻撃者の様相を呈する。細められた金色の瞳は、アルノア・シャトーの北門を睨みつけているのだ。
もちろん、『ドージェ』も協力しているよ。『ターゲッティング』は仕掛けてある。北門に、呪眼の放つ金色の呪印はすでに刻まれていた。ゼファーの火球は、北門に向けて放たれる。
黄金の灼熱は、呪いに導かれるように加速を重ねていき―――強大な暴力となって、北門を作り上げている分厚い木製構造を吹き飛ばしていた。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンッッッ!!!
北門が吹き飛び、その砕け散った木の扉が近くで馬の救助を行っていた騎士たちに降り注いでいた。
爆裂の風を与えられた木片は、ヒトの体を容易く貫く。もちろん、馬の薄い皮だって同じように深々と傷つけていたよ。
「くそう!?」
「まだ、他にも爆弾が仕掛けられていたのか!?」
「北の門が……北の門が、開いてしまったぞ!!敵が、雪崩込むのか!?」
……さーて。
指揮官としては、判断能力が試される時間がやって来たぞ。
どう考える?敵は、『イルカルラ血盟団』だと、アルノア騎士団の連中は考えているだろう。こんな大胆な攻撃を仕掛けられる能力と動機を有している武装勢力は、彼らしかいないからだ。
傭兵どもが……『ラクタパクシャ』が襲いかかって来ているんじゃないかと、想像しなくても良い分、判断が楽になるだろうよ、レイドー卿。
……アンタは、どう考える?敵の作戦に乗って、好きなように踊らされている状況を、どう評価するんだろうな?
「……このまま、やられたい放題になっては、被害が拡大するかもしれん!!武装の済んだ者たちは、馬に乗り、城塞の外に出ろ!!敵が、シャトーの内部に侵入するのを防げ!!多くの騎士たちが、まだ十分に戦えるコンディションではない!!」
嫌いじゃない判断だ。城塞に閉じこもったまま敵を待ち構えるよりは、先手を打ち、敵の接近を防ぐ盾として、騎兵を使うというわけだ。
城塞に閉じこもるという戦術を貫いても良くはあったがな、敵の思惑に踊らされ続けているということを、レイドー卿は嫌ったのさ。
攻撃の作戦というのは、何とも緻密で几帳面に練り上げられているものだ。そういう緻密な行動の連鎖を妨害するには、何かしらの『異物』を連鎖のなかに放り込むというの手じゃあるんだよ。
攻撃の連鎖を断つためには、受け身ばかりではなく、攻撃することも有効ってことだ。レイドー卿は、壊された北門から『イルカルラ血盟団』が突撃して来る可能性を嫌った。酔っ払っている騎士たちは、厩舎の火災で混乱してもいる。
こんな状態で、敵の攻撃を受け入れることはリスクが大きい。体勢を整えるための時間稼ぎをして欲しいと、あの5人の騎兵には願っているわけだ。
「敵の攻撃に備えろ!!敵の姿を見つけたとしても、突撃する必要はない!!敵に対して見せつけるだけでもいいんだ!!備えているぞと!!守りを固めていることを示せば、亜人種どもで作られたゲリラ兵など、その動きを恐怖で止めるだろう!!」
「はい!!」
「了解しました、サー・レイドー!!」
「我々が、盾となり、このシャトーを防衛する!!」
爆破された門から、騎兵が出撃する。勇ましいが、彼らの役目は防御だ。門から出ると、すぐに隊伍を組み、その場に停止する。その騎士どもをカバーするために、城塞の見張りをしている弓兵が、北門に集まっていた。
西の守りは手を抜かないが……東と南の兵数は減っているな。北門が爆破されたことへの不安は大きいわけだ。ヤツらは、パニックになっているんだよ。パニックになっていると、理性よりも本能的な計算を頭がし始めちまうのさ。
殺し合いの最中にだって、髪をかき上げたり、鼻先を意味なく触ったりするヤツがいるように、ヒトの精神ってのは極限状態になると、理性や集中力の制御から離れてしまうこともある。
西からの襲撃に、酔っ払っているという体調不良、そして厩舎の火災に、馬の避難、北門の破壊……立て続けに起きたそれらが罠であると考えられるほど、頭には余裕がないもんさ。
戦場の混沌に呑み込まれることなく、頭脳と想像力を発揮出来るヤツってのは、本当に少ない。カードゲームや、チェスを楽しんでいるわけじゃないからな。ルール無用の殺し合い……戦場っていう場所が持つ得体の知れなさは、ヒトの精神から知性を奪う。
……こういう状態に引きずり込まれたら、オレたち猟兵だって対応能力が弱っちまうに決まっている。あの冷静なガンダラでも、ミスを犯す可能性が増えるだろう。マジメで攻撃的な思考をするようなヤツには、このストレスはたまらなく辛い。
ロロカ先生がマジメじゃないってことではないが、ロロカ先生ならば、こういう状況に陥れられたとしても、知性を活かして状況判断を下せるだろう。彼女は、守備に向く性格をしているからな。天真爛漫で、即興的な戦術を作り、完成度よりも行動力を重視する。
性格の問題だな。
攻撃に向く賢さと、守りに向く賢さってのは、別のモンなのさ。あくまでもオレの持論だが、今まで外れたことがない考え方ではある。
……レイドー卿を、その判断で評価するのならば……彼は、攻撃的な才能に秀でて、防御の才能はそれほどに高くはないようだ。語弊を有むかもしれないが―――もっと、不マジメで柔軟な性格をした人物の方が、この状況を守るには向いていただろうよ。
土壇場でも、攻めて守りを固めようとしている。5騎の騎士を威嚇と盾に使おうという考えは、悪くはないが……『パンジャール猟兵団』の戦術は、その対策では止めることは出来ないからな。
猟兵たちは、すでに南に集結している。
ミアの弾丸と、キュレネイの矢が手薄となってしまった南側の城塞の見張りを次々に殺していた。
オレたちは、少数精鋭だ。
少数精鋭の数少ない利点は、敵に見つかりにくいということだ。他には、ないかもしれないな。
ミアが、チェーン・シューターを使って、城塞の上に飛び移る。そこから、肩にかけていたロープを城塞の上にある石の構造物に結びつけると、城塞の下にロープを垂らす。そのロープを伝い、キュレネイとガンダラが登ってくるのさ。
三人の猟兵は、アルノア騎士団の連中に気づかれることなく、このシャトーの内部に侵入を果たしたわけだ。
今は、ガンダラまで弓を構えている。
狙うは、南に次いで手薄な場所……そうだ、東側の城塞の戦力だ。ゼファーの背にいるリエルも、三人と射撃を連動させるために弓に矢をつがえて、獲物に狙いをつけていた。
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