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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第四話    『ザシュガン砦の攻防』    その二十一


「……休息する場が欲しいのなら……ワシの屋敷に来るとええ」


「助かるよ」


「この大穴集落を救ってくれた連中じゃからな。最大限の感謝を捧げたい……ついて来るといい……風呂もあるぞい」


「イエス。レイチェル、ククル、来るであります。風呂にありつけそうでありますぞ。返り血とか砂塵を除去するであります」


 キュレネイの言葉は、猟兵女子たちを大いに喜ばせていた。


「まあ!それは素敵ですわ!」


「そうですね。私は砂埃ばかりですが、皆さんは返り血まみれですもんね。ソルジェ兄さんも」


「ん。そうだな……」


「ウフフ。『リング・マスター』次第ではありますけれど、一緒に入ります?」


「おい、レイチェル。既婚者を、真顔のジョークでからかうもんじゃないぜ」


「そうでしたわね。私も、一児の子を持つ母親ですもの……慎むとしましょう」


「では、団長とは私が一緒に入るであります。私は団長の『特別な秘密の犬』でありますからな」


「……わ、私も、兄妹分が一緒にお風呂に入ったり、一緒の布団で寝るのって、別に不思議なことじゃあ、ないですよね……?」


「……この黒髪の少女は、一体、何を言っておるんじゃ、ストラウス殿?」


 ドワーフの長老は少し引いている。ククル・ストレガは赤面していた。


「あの、その!?そうじゃなくてですね!?私の言っているのは、とても健全なことについてですからね!?」


「誰に言い訳をしておるんじゃか……まあ、とにかく、こっちに来い。あそこに、大きな家があるじゃろう」


 老いたドワーフの短くて太い指が、大穴集落にある巨大な四階建ての屋敷を指差している。ドワーフの建築物らしく、色々とツギハギしたような大屋敷だった。


 思いついたままに機能を拡張していく……それが、なんとも合理的な大雑把を感じられて、実にドワーフ的な建築だと言えるのさ。


「ああ。デカい家だ」


「そうだ。代々住み継いで……5世代目になるのかの。もっとかもしれないな。正確にはややこしい家系図を読み解かにゃあ、語れないところがあるが……とにかく、風呂はデカく作ってある。体についた血を洗い流すといい」


「助かるであります」


「そうですわね。このままでは、歌おうが踊ろうが、楽器を弾こうが……子供たちには怖がられてしまいますものね」


 レイチェル・ミルラは母親であり芸人だ。この大穴集落に発生した被害を見れば、使命に燃えるのだろう……とくに、子供たちを元気づけてやりたいと願っているはずだ。歌や踊りや楽器を弾くことなんかでね。


 そのためには、返り血まみれでは、あまりにも怖すぎる。戦を感じさせない雰囲気で、レイチェルは芸人としての力を発揮したいんだろう。


「……とにかく、風呂を借りよう。そして、図々しいかもしれないが、長老よ」


「わかっておる。食料じゃろうが?」


「ああ。竜に乗って飛び回ったあげくの戦いだからな。どうにも腹が減って来ているんだ。夜に備えて、胃袋に何かを入れておきたい」


「……食材はあるんだ。嬢ちゃんたちが作ればいい」


「そうか、じゃあ、オレが作るぜ」


「ストラウス殿は、従者に女をはべらせているというのに、料理を自分で作るのか?」


 大きな疑問だと感じるらしい。ドワーフは保守的な人物が多いからな。男が料理することを嫌うこともあるのさ。岩みたいに古くさくてガンコな連中だ。


 伝統と心中することを厭わない性質があるんだよな……。


「男が料理したっていいだろ?趣味なんだよ」


「なるほどな。分からないではないが……3人も女がいるのだから、彼女たちに作ってもらえばいいじゃないか?何のために『情婦』を三人も連れて戦場を回っているんだ」


「『情婦』じゃないし、女をはべらせているわけではない」


「……たしかに、私は団長の『特別な犬』でありますし」


「わ、私は『妹分』ですから!」


「じゃあ、私はただの『未亡人』ですわ」


「……何だかよく分からんが、ストラウス殿が健康的な男であることは分かったようなきがするよ」


「思いっきり誤解をされていそうな気がするが……まあ、別にいい。さっさと休憩に入りたい。あちこち、小さな傷は受けてもいるからな」


「……見事な戦いっぷりだったからな。それは当然じゃろう。今夜も『メイガーロフ人』のために戦うというんだ。それならば、しっかりと休息を取っておくべきじゃな」


 長老はそう言いながら、自宅の扉を叩いていた。


「ワシじゃ。死に損なって、帰って来ちまったぞー」


 なんどもドワーフらしい挨拶だな、とオレは思った。ドアが元気に開いていたよ。


「なんじゃい、じいさん。死なんかったんかい?」


 ドワーフ的な短躯をした、老婦人が現れていた。それなりに強烈な言葉と共に。


「うるせえババアじゃ。生きて帰った亭主に、酒ぐらい持ってくるぐらいの機転があっても良いだろうに」


「旦那用の機転なんてものは、ドワーフの女はもっちゃいないんだよ…………って。じいさんよ、このヒトたちは……さっき、戦場でじいさんどもが無様に包囲されて手も足も出なかったところを、助けてくれた人たちかい……?」


 婆さんの言葉は長老の心にザクリと刺さっていたらしい。ドワーフの顔がイヤそうに歪んでいた。戦士としては、不名誉な真実だった。敗北寸前だったことも、長として率いた戦いが負け戦となってしまったことも。


「うるせえよ!!とにかく、婆さん、彼らを頼んだ。ワシは、色々と仕事があるんでな。アードもルーガも死んじまった。小さな子供たちがいるってのに」


「……そうだねえ。大穴集落の長として、行ってやりな。遺族に補償と協力を……それに、集落のこの惨状を……後始末と、新しい課題を見せつけてやんな。そうじゃないと、このドワーフの大穴集落は滅びちまう」


「わかってる!やかましい婆さんだぜ!」


「わかってない時があるから、言っているんだよ、呑み助のクソジジイが」


「うるせえよ!」


 ジジイとババアのケンカを見てしまったよ。ちょっと、オレの口もとが緩んでしまうな。こういう明るい老夫婦の会話を聞いているとね。少し、疲れた心が癒やされる。


「……さーて。ジジイが行っちまったところで。お客人」


「なんだい、ご老人」


「この大穴集落を守ってくれて、ありがとうねえ。アンタたちが来なければ、本当に我々は滅びてしまうところだった。感謝するよ、『メイガーロフ・ドワーフ』の全員に代わってねえ」


「……気にするな。オレとしては、当然のことをしたまでのことだ」


「ハハハ!……いい答えをする赤毛の男だね。よし……まあ、アンタたち、返り血まみれだから。風呂にでも入って体をキレイにするといい」


「イエス。お風呂を借りたいであります」


「ああ、こっちに来な!!ウチの風呂は、バカみたいに大きいよ!!」




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