第四話 『ザシュガン砦の攻防』 その八
感情が爆ぜる。冷静さというものは、オレはあまり持ち得ていないようだ。『戦場で死んで、歌になりなさい!!』……お袋の口癖のせいで、オレは戦いに対しての恐怖心ってのは、幼い頃のどこかのタイミングで喪失しちまったらしい。
目の前には、うじゃうじゃ傭兵どもがいる。返り血にまみれた古傷だらけの強者どもだ。しかし、その瞳は驚きに震えている。理解が及ばないって貌してやがったよ。何十人も集まっている自分たちに対して、たった一人で突撃して来るオレに戸惑っているらしい。
蛮勇極まるストラウスの剣鬼の血が、燃えているんだよ。
ドワーフの大穴集落を襲撃しやがった、このクソ野郎どもに、残酷さをもって死の罰を与えろと血が騒ぐ!!竜太刀の鋼に漆黒が踊り、柄に絡めたオレの指まで火傷しそうなほどにアーレスの魂も熱を帯びていた!!
―――騎士道というものを教えてやれッ!!この戦士の資格さえも持たぬ、邪悪な者どもを斬り裂いてしまえッ!!
耳元で、あのしわがれた声で、そんな風に叫ばれているような気がするよ。アーレスは、女子供を殺すような者を……生かしておけと言うハズがないのだから。分かっている。アーレス。オレとお前の怒りで、歌を放ち、死の山を築くぞ!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
怒りの歌を放ち、竜太刀と重心を一つ融かして踊るのだ。
ストラウスの嵐、最速にして最強の四連続の斬撃を放つ剣舞によって、突撃を仕掛けていた傭兵どもの群れを食い破る!!
隊列の中央に突撃してやったのさ。
劣勢のドワーフ相手に、ヤツらの半分は休んでいるが……そんなことは許さない。休ませないぞ。ヤツらは意味もなくサボっているんじゃない。体力のあるドワーフを相手にするために、二組に分かれて攻めていた。
オレが突撃した連中は、おそらく最初に大穴集落へ攻め込んだ連中だ。
疲れているのさ、体力が回復するのを待っている。コイツらをその作戦通りに過ごさせたら、数で勝る傭兵どもは好きに大穴集落を滅ぼすだろう。
バカじゃない。
戦を知っているんだよ、この傭兵どもはな。
だからこそ、オレは激怒している。この大穴集落を襲い、女子供を殺した、戦のプロフェッショナルであるこの連中をな。略奪ならまだしも、焼き払うだと?……コイツらは、ただドワーフを殺すという命令を受けている。そんな命令を、戦士は実行すべきじゃない。
休息はさせん。
乱戦に持ち込み、ドワーフの体力の底力に賭けるのだ。
疲れて休んでいるコイツらを血祭りにすれば、ドワーフの戦士たちは、今、目の前で戦っている敵を倒せば、この大穴集落を守れるようになるんだからな!!
「なんだ、こ、コイツ!!」
「この数を相手に、た、たった一人で突撃して来るのかッ!?」
「ありえん、ありえ―――――」
おしゃべりな口を、竜太刀の鋼が横一文字に斬り裂いた。悲鳴も断末魔も上げずに、ただ流血だけを噴きやがる。血の雨に、世界もオレも赤くなる。大勢で固まっている傭兵どもは、オレと共に血を浴びて赤く染まっていく。
……多対一。そういった戦いの時には、怯みや戸惑いを持ってはいけない。たった一人に対して、全員で襲いかかるべきだ。そうすれば、数の利を使い……疲れて、多少の手傷を負っている彼らでも、オレを一瞬のうちに追い込むことだって可能かもしれない。
しかし、多対一という状況では、ヒトはサボるもんだ。
まして……オレのように明らかな強者に対して、すでに一仕事終えたつもりになっているコイツらは、積極的に戦いたがりはしない。敗北と死を予感してしまっているからこそ、臆病になり……一斉に飛びかかって来るというこ行動を取れないんだよ。
……誰かが、他のヤツが戦ってくれるだろう。
これだけ頭数がいるのだから。
ヒトは、疲れている時、体に傷があり痛みを抱えている時……他に頼れる仲間が多くいすぎる時。闘争本能が欠如するもんだ。
それは、ほんの十数秒の気の緩み。古強者のコイツらが、いつまでも自分たちの間違いに気づかないはずがない。
多対一がもたらす、その怠惰、その十数秒の思考の停滞、その闘争本能の停止……それは命取りではある。十数秒のアドバンテージを使い、オレは……この群れの数を七人ほど減らしていた。
「……っ!!」
「コイツは危険だ!!」
「全員で、囲め!!」
「休むな!!下がるな!!コイツは……バケモノ中のバケモノだッ!!」
気がついてくれたらしい。ストラウスの剣鬼が、どんな存在なのかを。返り血に赤く染まった体で走り、血の赤とヒトの脂肪の白に彩られた竜太刀を振り落とす!!
「やられるかああッ!!」
ガギイイイイイイイイイイイインンンッッ!!
竜太刀の一刀を、大柄の傭兵が長剣で受け止めた。ああ、お前はそれぐらいやるだろうと考えていた。だからこそ、さっさと仕留めておくために、今、斬りつけにかかったんだよ。体力が残っている、今のうちにな!!
体を浴びせるようにして、その大男を打ち崩す。連打を放ち、三打目の斬撃で、そいつの頭を斬り裂いた。
「ぎゅふうう―――――」
その直後……オレの左手は、それをブン投げていた。オレを取り囲むために、背後にも左右にも陣取ろうとしている傭兵どもの頭上にな。我が友、シャーロン・ドーチェが作ってくれた『こけおどし爆弾』。
そいつは、今日もあの吟遊詩人のリュートとおしゃべりみたいに大きな音を放つのさ。
シュバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンッッッ!!!
強烈な光が戦士の網膜を焼き、鼓膜をつんざく爆音が聴覚の不在を招く。
「なんだあああッ!?」
「クソ、目があああああッ!!」
「か、火薬仕掛けの、目つぶしかよ―――――」
斬り殺しながらニヤリと笑うよ。そうだ。ご明察。火薬仕掛けの強烈な目つぶしであり、耳もつぶすための武器だ。いきなり目の前でこんなものを炸裂させられたら、どんな戦士でも意表は突かれるてしまう。
こういう小道具の使い方も、ちゃんと『白獅子』ガルフ・コルテスから伝授されているんだよ。
竜騎士であり、『パンジャール猟兵団』の団長だからな。得意なのは突撃だけじゃない。こういう戦術だって使いこなせるようになっている。
……再び数秒のアドバンテージを稼ぐ。そこらに集まる傭兵どもを斬り裂きながら、駆け抜けた。目と耳をやられている傭兵どもは、深手を与えられると慌てたまま鋼を振り回す。
密集した時には、相討ちには注意したいものだ。最初は、その注意があったから、オレの単騎駆けを許していた。だが状況は変わり、目も耳もやらている今は、無言の統率が機能しない。死の恐怖と新鮮な激痛に駆られて、密集していたというのに鋼を振る。
相討ちが続発するその囲みを突破して、オレは走ったよ。体力の限界を感じているわけじゃないが、十数人を斬り殺して回るのは、それなりに疲弊はするもんだ。『こけおどし爆弾』をやり過ごした連中もいるからな……そいつらは素早く反応する。
「逃がすな!!」
「追いかけろ!!」
「アイツを殺すんだ!!」
血気盛んに追いかけて来る。悪くはない。腕が良くて、勘までいい古強者たちだ。戦に磨かれた連中は、オレが無茶な特攻をして疲れているか、手傷を負ったと考えている。あながち外れではないがな……ストラウスの剣鬼が、意味なく逃げると思うなよ。
しばらく走った後で、立ち止まり、背後を振り返った。血に染まったマントは重々しくもひるがえってくれたよ。
竜太刀を構える。十数人の傭兵どもは、歩みを遅くしつつも、間合いを詰めるのを忘れない。うすら笑いを浮かべているヤツも、緊張感で凍りついているヤツもいる。後者の態度が正解だろう。
「……へへへ!!追い詰めたぜ!!」
「一人で突っ込む?……英雄気取りが、災いしたな!!」
「……『英雄』?……オレはそんな大層なものにはなれんさ。本当の『英雄』なら、もっと多くを助けているに違いない。いつも、こんな時には遅れてしまう……守れることは少ない。だからこそ……オレは『魔王』になる」
「……ま、魔王だとッ!?」
「ああ。邪悪な力で、復讐してやるんだよ。なあ、傭兵どもよ。お前たちは、どう死にたい?」
「死なねえよ!!」
「お前を殺して、他のドワーフどもも、ぶっ殺すんだ!!」
気勢を上げて、傭兵どもが迫る。血の気が荒いヤツは……視野が狭くなりがちだ。
オレを脅威だと思い、自由にしては負けると近づいて来た。悪くはない。この地形も把握していたな。オレの行く道は、行き止まりだと。だからこそ、オレに斬りかかることより、そのまま走らせることにした。
悪くはない。古強者らしい戦い方だ。だが、戦場を支配するのは、いつだって合理的な悪意だ。疑うべきだったな、地理を把握しているのは、お前たちだけなのか?……上空を旋回していたオレが、どこまで大穴集落の構造を把握しているものか―――。
それなりに賢い。だからこそ、罠にハマる。
「ゼファー!!歌ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!」
『GHAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHッッッ!!!』
上空で旋回したゼファーは、歌と共に黄金色の火球を撃ち放つ!!……『オレが誘導することで、一直線の道に誘い込まれていた傭兵どもに』―――死は煉獄の輝きを帯びて降り注ぐのだ。
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