第四話 『ザシュガン砦の攻防』 その七
「殺せえええええええええええええええええええええッッッ!!!」
「人間族の裏切り者がああああああああああああああッッッ!!!」
……裏切り者ね。そんな感覚を持ったことはないんだがな。
やや曲がりのある長剣を大きく振り回しながら、接近して来る傭兵ども……見覚えのある技巧だな。南方の剣術だ。遠心力を使い、強力な一撃を叩き込む。
その構えのヤツが左右から二人、双子みたいに同じような動きをしていやがるな。同郷かつ同門の出身ということだろう。長年つるんで来たという気配が伝わってくるよ。
こいつらが放とうとしているのは威力の高い斬撃だが、かなり隙は大きい。しかし、連携することで、その隙を消せるというわけだ。一対一という特殊な条件下である道場では、こんなものは最弱だが、戦場ではかなり強いスタイルってことになる。
ただし、それは同時に攻撃出来たら強いってハナシなだけだ。
4、5人いるのならともかく、たった2人だけで攻め落とせる程、ストラウスの剣鬼は甘くはないぞ。
腰を低く落としながら踏み込み、一瞬で加速する。歩法そのものはシアン・ヴァティから覚えた加速技術だが、腕に宿す技巧は『ベイゼンハウド』で覚えた『剛の太刀』だ!!オレだって、まだまだ成長の最中にあるんだよ!!
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
右に見えた剣士に目掛けて、突きを放つ!!
振り回す剣は確かに威力は大きいが、一対一に引きずり込めば強さは消える。一瞬のうちに接近し、距離を潰してしまえば、仲良しのコイツらだって連携することは出来ない。こちらの速さを見抜けなかったな。
人間族が、須弥山の―――『虎』の歩法を使うとは、思いも寄らなかっただろう。速さで戦術をブチ壊しにして、加速した体から撃ち放った竜太刀の突きにより、剣士の胴体を貫いた。
「ぐふうッ!?」
鋼の胴巻きを貫いたアーレスの怒りは、肺と心臓と胸郭をも壊す。ヒゲ面の傭兵に体を浴びせるようにしながら、さらに密着する。手首を返して更に深い打撃を与え、死を作りつつも、そいつの襟元を掴んでステップを踏む。
死に行くコイツの相棒に対しての『盾』として使うために、九十度ほど回転するんだよ。死体と一緒に踊るわけさ。
「……ちいッ!?」
振り上げていた長剣を、下げるしかない。長年つるんだ兄弟弟子の死を、ヤツはまだ受け入れられていない。攻撃することを躊躇う。やさしいな。そんな感情があるのなら……オレとアーレスを怒らさなければ良かったのだ。
ヤツはバックステップを踏みながら、オレから距離を取ろうとする。悪くない判断だった。ムダに近づいていれば、この死体を浴びせてやるところだったんだがな―――。
まあ、いい。
前蹴りを死体に叩き込んで、竜太刀を引き抜いた。その隙を狙うように、剣士はオレに斬りかかって来る。連携用の大技を捨てた、シャープな動き。一対一用の技巧も知っている男だということだ。熟練の戦士。貴様の師匠たちは、傭兵の職業倫理を教えなかったか。
憎しみと怒りに歪む顔で、烈火のように燃える殺意を放ちつつ、ヤツはオレに挑む。
無言のままの斬撃は、噛みしめられた牙をミシミシと振るわせながらのものだ。シャープな動きからの肘を素早く伸ばし、全身を押し込んでくるシンプルな打突。悪くない。南の剣は、殺傷能力を重視しているな。
見たコトが無ければ、少しは苦戦もしてやれたが……お前以上の使い手を、何人か殺しているんだよ。その打突に対して、竜太刀を薙ぎ払うようにして鋼を交差させた。
ギギイイイインンッッ!!
鋼が歌を放ちながら暴れ、ヤツは大きくバランスを崩されていた。かつての使い手は、打ち崩された時は接近して、隠し持っていたナイフでオレの脇腹を狙っていたが……それほどの技巧を宿してはいない。
崩れたまま、すり足で体勢を取り繕い、オレから間合いを取る。ヒット・アンド・アウェイが身についている。その体格とその素早さで、そいつを繰り返せるという攻撃手段は、悪くないのだが……後退するための歩法は、さっき見せていたな。
長剣を手前に引き寄せながら下がる。安定さと守りを重視した剣だが、それに打突を乗せられることをイメージした日はあるか?……ヤツの守りの動きに、こちらの攻撃を『差し込む』ように動く。
下げた剣に対して、押し込む竜太刀が衝突し……ヤツは大きく崩されながらも、意地を見せた。押し負けながらも、己の長剣に左肩を押し当てて、力負けを防ごうとした。
しかし、ヤツも分かっているよ。あまりにも力量差が違い過ぎる。怪力を宿すストラウスの右腕と、アーレスの竜太刀。それが放つ重みに負けて、ヤツの膝が折れてしまい、血に屈する。だからこそ、血走った眼を、ひん剥きながら呪詛を吐きつけてくる。
「よくも、アディを殺しやがったなッ!!……お前は、人間族のくせに、ドワーフの肩を持つ……裏切り、者だ……ッ」
「……違うな。オレの『正義』こそが、真に正しい」
腹立たしそうに牙を見せ、歪んだ顔をしたヤツへと葬送の技巧を使う。竜太刀を跳ねるように踊らせて、その刃の鋭さと速さを用いて、ヤツの首元を深々と斬り裂いていた。頸動脈を刎ねられたことで、首は最期の呼気を吐き出しながら、血を噴射させた。
返り血を浴びながらも。オレは死に行く獲物ために、言葉も感情も使うことはない。無表情だ。静かに、内にこもる怒りに、オレの腹は燃え盛り、オレの皮膚は凍てついているのだ。
若い女のドワーフと、その子供なのだろうな。腕に抱かれた幼子が、血まみれとなって死んだ母親と一緒に横たわっている。間に合わなかったことも多いらしい。だから、罪滅ぼしだ。
『ガッシャーラブル・ワイン』臭い呼気を漂わせながら、オレは凍てつく狼の貌になり、大穴集落の血まみれの土を蹴りつけた。加速する、加速して、獲物に迫る。傭兵どもだ。剣とか、槍とか、戦斧とかを持っている。
知ったことかよ。
今のオレとアーレスは、凍りつくほどの怒りで、体が爆ぜてしまいそうなのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
魔王の歌を放つのだ。邪悪なゴミ屑どもを蹴散らす、魔王の行進。技巧は宿さない。ただの力と速さと手数を使った、肉体を酷使し、敵を破壊するだけの乱暴な攻めだった。
暴れ回った竜太刀が、漆黒の軌跡を描き―――赤い死をこの場に刻む。
「ぎゃがあああああああああああ!?」
「ひゃぐううううううううううう!?」
「う、腕がああああああああああ!?」
獲物どもが叫ぶが、知らない。オレは止まらない。まだまだ敵がいるからな、竜太刀と踊り、竜爪をもって抉る。
『ストラウスの嵐・崩れ』。完成度を低いが、死にかけの雑魚を呑み込むための稚拙な太刀と爪との二刀流。そいつを持って、オレは悲鳴を止めるのだ。
血霧に赤く染まった風を吸い込みながら、怒りは……凍てついた貌を、怒りの熱に帯びた魔王の顔へと変えるのだ。肌が、燃えるように熱いのだ。怒りは、質を変え、オレは歌う!!
「貴様ら、全員、ぶっ殺してやるぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
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