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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第三話    『イルカルラに熱き血は捧げられ……』    その四十


 バルガス将軍は、しばらく笑みを浮かべていたが、やがて思い出したかのように戦士の貌へと戻っていたよ。彼は、卓上に広がる羊皮紙の地図を見つめている。


「……色々と工作をばらまくつもりだが……最終的に、私たちが、『ザシュガン砦』を襲撃するのは、深夜12時ちょうどだ」


「……なるほど。ならば、今夜10時に、オレたちが『アルノア査察団』のいる砦とやらを襲撃するというのはどうだ?」


 二時間ほど、早くだ。


 この時間ならば、『ラーシャール』にいるというメイウェイ大佐も就寝前か?……戦力を率いて、『アルノア査察団』の救援に直接、向かうかもしれない。その直後に、南の『ザシュガン砦』が攻撃されていると聞かされたら、陽動だと判断し、総力を南下させる。


 夜間での強行軍だ、体力はすっかりと削られてしまっているさ……もちろん、そんなことで五分と五分には、なりはしないだろうがな。


 それでも、500の戦力で3000を奇襲し、『ザシュガン砦』に立て込むことが出来たなら……敵戦力をそれなりに巻き添えにするさ。


 そもそも、『ザシュガン砦』は『メイガーロフ人』の建てた砦だ。『ベイゼンハウド』の『岸壁城』がそうであったように、現地に住む者のみが把握している弱点なんてものも存在しているだろうよ。


 そして、この作戦を練り上げてきたバルガス将軍は、そういう手段を用意しているさ。長年戦い抜いて来た古強者だ。無策なはず、この不利な戦に向かうはずがないってことを、オレはガルフ・コルテスから十分に学んできている。


 バルガス将軍は、あの長考の果てに、巨人族の大きな頭をうなずかせていた。


「……いいタイミングだ。任せるぞ、我が友、ストラウス卿よ」


「任された、我が友バルガス将軍よ。後のことを気にすることなく、存分に戦い抜け。『自由同盟』は、ドゥーニア姫と連携するし……彼女が指導者になるのなら、この土地を侵略する政治的な理由を、クラリス陛下は失う」


「……君の雇い主に、敬意を」


「ああ。アンタの死にざまの見事さを、伝えさせてもらうぞ」


「……良い歌にしてくれよ」


「詩人が部下にいるから、ヤツにでも頼むさ」


 ニヤリと笑う。オレとバルガス将軍、二つの口がね。そのまま、オレは立ち上がり、鳴いているカミラの頭を撫でてやる。夫として、団長として。二つの立場から、カミラ・ブリーズに力を与える義務がオレにはあるからね。


「……さて。カミラよ、仕事が出来たぞ」


「は、はい!……ばるがすしょうぐんを……えんごしますう……っ」


「そういうことだ」


 カミラはべそをかきながらも、オレの右腕に支えられたまま、将軍の部屋から出るために歩き始めてくれたよ。


 だが……将軍は、やはり気になるらしい。


「……しかし。どうやって、潜入して来たんだ?」


 今のカミラを見ていても、彼女の異能がどれほどのモノなのかを気づけはしないだろう。ただの町娘みたいに、純朴でやさしいからね。


 オレは、カミラを自慢したい気持ちになった……?というか、カミラの強さを、バルガス将軍に教えておきたくなったのさ。彼は、この可憐な乙女の偉大さを、知るべき人物の一人だと思ったんだよ。


「……本来は、企業秘密なんだが……アンタには特別に教えてやるよ。他言は無用で頼むぜ?」


「あと半日ほどの命だ。秘密のまま、砂漠に還るとするから、安心するがいい」


「わかった。カミラ?」


「は、はい。『闇』の翼よ―――っ』


 床から勢いよく伸び上がってきた影が、オレとカミラを包み込む。バルガス将軍は今までで最も驚いた表情をしていたな。企業秘密を解禁した甲斐があるというものだよ。


 オレたちは『闇』に夫婦して取り込まれて、やがてその肉体は無数の『コウモリ』へと分散していった。


「……なんと。異能も異能……いやいや。まさか、これは……第五属性の魔術だというのか……?」


 室内をパタパタと舞い踊る『コウモリ』の群れを、どこか子供じみた好奇心に輝く瞳で見上げていたよ。


『ああ。第五属性、『闇』……オレのヨメさん、カミラ・ブリーズの力だよ』


「……ほう。ヒトでは使えぬはずの、属性を使いこなすというのか。大したものだな」


 『吸血鬼』かどうかとか、人外のバケモノであるかとか、そういう発言をカミラは心配もしていたようだが、我が友は、そんな細かいことを気にするような男ではなかったようで、安心したよ。


『……あ、あの。すみません。黙っていて。自分は、その……』


「最後の竜騎士、ソルジェ・ストラウス卿の奥方だろう?」


『は、はい!』


「私には、それで十分だ。世界の謎の全てを知りたがるほどの童心は、すでに無くしてしまって久しいものだからね」


 ユーモアのある言葉も使えるんだがなあ。政治家としては、マジメ過ぎてダメだったのか。勿体ない御仁だが……彼の生きざまと人生における幾つもの選択を、オレは友人として受け入れることにする。


『さらばだ、我が友、バルガス将軍よ!……ドゥーニア姫のことは、オレたちに任せておけ』


「……ああ。ドゥーニアの支えになってやってくれると、助かる」


『約束しよう』


「……ならば、明日の朝にでも、ここにやってくるがいい。新たな指導者と話し合うことになる。さらばだ、我が友、ソルジェ・ストラウス卿。そして、その奥方である、カミラ・ブリーズ嬢よ」


『は、はい!さ、さようなら……バルガス将軍っ』


 カミラはその言葉を残して、『コウモリ』たちを飛び立たせていた。パタパタと翼の音を響かせつつ、廊下を遡って行くのさ。


 侵入経路を逆にして、外へと向かって一直線だ。


 何度かの曲がり角と狭い階段を飛び抜けて、あとはコブラの巣食う空間を越えると、砂塵に黄色く曇った、『イルカルラ砂漠』の空へと踊り出ていた。


『……また、砂塵が舞っているな』


『は、はい…………バルガス将軍たちは、これで、いいのでしょうか……?』


『止めるための言葉はない。それに、これは戦だ。誰かが敵を攻撃して、敵を殺さなければ勝利を得ることはない……その結果、大勢の命を失うことになったとしてもな』


『……そうっすよね。そうっす……欲しいモノを手に入れるには、対価が必要なもんすよね……っ。でも……分かっているっすけど……なんだか、とっても、さみしいですよう、ソルジェさまぁ……っ』


 早く『コウモリ』からヒトの姿へと戻り、カミラのことを抱きしめてやりたい気持ちで胸が一杯になっちまうな……。


 ……それに。


 バルガス将軍の前では、秘密にしていたプランもありはするんだ。


『……なあ、カミラ?』


『……なんでしょうか、ソルジェさま……?』


『戦場ってのは、何が起こるか、分からないもんだよな』


『はい……そうっすね……?』


『ならさ。死の限界まで戦い抜いた、ある将軍を……竜が上空からかっさらう夜だって、有りはするかもしれないだろ?』


『……っ!!』


『……オレたちには、翼がある。お前の翼もだし、ゼファーの翼がある。夜の十時まで、時間も少しだけあるわけだ』


『そ、それなら……何かが、出来るっすよね?』


『状況を変えるために、まだ色々と、オレたちにはすべきことがあるはずだ』


『……何か、バルガス将軍や、『イルカルラ血盟団』が、有利になる方法が?』


『あるはずだ……この戦いは、バルガス将軍たちの自己満足ではない。巨人族の復権のための戦いでもない。『メイガーロフ人』のための戦いだ』


『はい!将軍は、私利私欲とか、なかったです!』


『……彼の意志を、伝えてやるべき者たちが、まだこの土地にはいるはずだ』


『……それって、つまり……『太陽の目』の人たちっすか……?』


『それもあるな』


 『ラーシャール』は巨人族の多い街だという、『太陽の目』に所属している者たちの血筋も多くいるだろう。


 彼らを説得して、『イルカルラ血盟団』に合流させることまでは出来なかったとしても、バルガス将軍の最後の意地を見届ければ……彼に対する評価は変わるさ。


 誤解や曲解なく、彼の真実を知らせればな。


 ……どうあれ、多数派の巨人族を団結させる。それを行うためには、『太陽の目』と『イルカルラ血盟団』の結束は不可欠だし、彼らの結束無しでは、帝国軍との戦いになど勝てるはずもない。


 ……いい考えだ。長老の一人とは、オレたち知り合いでもあるわけだしな……バルガス将軍の真実を、彼らに伝えておくのも悪いことじゃない。


『……ソルジェさま。『それも』ってことは……他にも、いるんすか?』


『いるぜ。ガンコそうな連中だが……状況次第では、特攻するバルガス将軍たちの命を救ってくれる可能性のある連中がな』


『……だ、誰っすか?』


『……ドワーフ。戦士の魂と強靭な体を持つ、最上の戦力だ』




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