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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第三話    『イルカルラに熱き血は捧げられ……』    その三十九


 そいつは何とも怪しいハナシだったな。『イルカルラ砂漠』を拠点とする、人間族主体である残虐な部隊。しかも、帝国軍が護衛する商隊の動きを把握しているかのように、効率的に商隊を襲う新興山賊集団―――『ラクタパクシャ』。


「……つじつまは、合いそうっすね」


 アメジスト色の瞳を細めて、探偵モードな顔になりながらオレのヨメの『吸血鬼』さんはそう語っていたよ。


「だって、帝国軍のスケジュールを知っていそうっすもん。同じ帝国人ですし。査察団の特権とかを、そ、その……つかって……?」


 査察団とやらが持っていそうな具体的な特権までは、カミラの知識には無いようだな。もちろん、ガルーナの野蛮人であるオレにだって、そういう知識はない。だが、権力者だし貴族だもんな?……コネと金と人を使うことに経験を持ったヤツだってのは、分かるぜ。


 『アルノア査察団』……こいつらの主な役目はすでに決まっている。メイウェイのあらゆる行為に文句をつけることだろうが、より粗探しをするため、必死になってメイウェイとその軍隊を調べ上げていそうだよな。


 メイウェイの部下にだって、亜人種が嫌いだっていう連中も少なからずいるだろう。若年層ほどに、帝国人の亜人種差別は進んでいるのだからな……新兵は金もなく、買収するには持って来いだろう。


 エリートである第六師団入りが出来なかったことに対して、口惜しさもある。劣等感を補うために、少しでも多くの銀貨を手にしようと考えるかもしれない。第六師団を引退したベテランたちとは、かなり考えが違うだろうよ。


「お嬢さんの言う通りだ。査察団には、様々な権限が与えられているようだ。本来は秘密にしているハズの、帝国軍の動き……それさえも、アルノア伯爵は調べられる権限を持っているようだよ」


「じゃあ、それを悪用して……帝国軍が商隊を護衛するスケジュールを、事前に『ラクタパクシャ』に横流ししているっすか……?」


「……あくまでも、可能性だがね。決めつけるほどの確証はない。しかし……『ラクタパクシャ』が暴れるほどに、この『メイガーロフ』の太守であるメイウェイの評価も下がるだろう。山賊を野放しにしている……そう言われれば、軍人としては立つ瀬がない」


 十分にあり得るハナシではあるが―――たしかに、確証はないのだろう。


 腕が立つ武装集団が護衛しているのであれば、マトモな感性の連中は、そういうヤツらに近づこうとは思わない。


 戦闘能力の高い50人の騎士と兵士?……そんな集団に供給される物資を、情報通らしい『ラクタパクシャ』が襲いたがるとでも?……そういうロジックで否定されたなら、どうすることも出来ないだろうしな。


「……確証は無くとも、怪しい。何よりも、帝国貴族だ。オレたちが人質にするメリットは、それだけで十分にある」


「そういうことだ。君らにも、そして我々にもメリットがある。『ラクタパクシャ』との関係までは断言することが出来ないが、『アルノア査察団』への攻撃を行えば、メイウェイはかなり慌ただしく動くことになる」


「砂漠をマラソンさせられるわけっすね!」


 奇しくも、グラーセス王国で、オレたちがアインウルフが率いる、騎馬隊メインの第六師団を相手に使った戦略にも似ているな。


 走らせればいいのさ。走るのが得意だと思っているヤツらは、よく走ってくれるもんだ。そいつが、ジワジワと体力を蝕むことに、得意だからこそ気がつけない。疲労というのは、強度と頻度で決まってくるし、強者も弱者も必ず疲れる。敵地を走り回ることは、必ず戦士を疲弊させるわけだ。


 戦場でのマラソン。兵士にとっては、地獄だよ。


「そういうことさ、お嬢さん。ヤツらお得意の騎兵でも、12キロに及ぶ砂漠の道を往復したあげく、すぐに南下して、我々が攻撃している『ザシュガン砦』に戻って来る。我々も疲弊しているが、ヤツらはもっと疲れている」


「それが、戦力差をカバーする戦術か」


「そういうことだ。実際は、『ラーシャール』で噂話を流すだけにしておこうと考えていたんだがな……」


「『アルノア査察団』が『イルカルラ血盟団』に襲撃されると?」


「ああ。我々は、彼らとは戦ったことはない。高い優先度になるほど、彼らと戦う理由など無かったからだ」


 わざわざ強者ぞろいの査察団を襲撃する理由は、『イルカルラ血盟団』には存在しちゃいないわけだ。当然ではあるよな……。


「それじゃあ、噂だけでは誘えなかったかもしれないっすね……?」


「色々と、小細工を他にも施すつもりだったがね」


 老練な経験値を持つ戦士だ。何か噂にリアリティを持たせる方法の一つや二つは持っていただろう。だが、虚構よりも真実のほうが、敵を揺さぶるに決まっているのも事実だよ。


「……バルガス将軍。アンタの作戦とその意図はよく分かったつもりだ。それで、いつ決行する?」


「君たちの訪れが、契機となった」


「……焦らせてしまったか?」


 ヒトの命を短縮させてしまったとするのなら、その行為には罪深さを感じるものだ。たとえ、それが自ら死に向かう定めを背負った戦士の命だったとしてもな……。


「『自由同盟』からの使者が訪れた。そのことに、決死隊の心は揺らいでしまう。生き延びられるチャンスがあるのではないかと、心が迷えば……敵を殺す鋭さが、今よりも欠けてしまう」


「邪魔しちまっているな」


「そんなことを気にするな、ストラウス卿よ。これも定めだ。私たちは、元より死ぬまで戦い続けることを誓い……ようやく、今日が訪れた」


「……悲しいコトにな」


「さみしさは残るかもしれん。だが……それ以外の大きな意味も残る」


「そうだな。アンタたちは、英雄となり、この砂漠の歌となるのだ」


「……歌か。ガルーナ人は、いい感性をしているな」


「戦士の一族だからな。戦場で死ぬことを喜べと、子守歌まじりに聞いて育つ」


「一度、足を運んでみたかった土地だ」


「ああ。竜が舞う空に、黄金色の小麦畑を撫でる風……大きく回る風車の群れ……一つか二つは、お気に入りの風景と出会えただろう」


「いい故郷だ」


「そうだ。だから、必ず、取り戻してみせるよ」


「ストラウス卿ならば、やれると信じているよ」


 ……さみしげな雰囲気になっちまっているから、カミラは泣き始めていた。アメジスト色の瞳から、大粒な涙がこぼれていたよ。


 老戦士は、そういう瞳に見送られることを……気に入ってもいるのかな。よく分からんが、この戦士の笑みが曇ることはなかった。


「今夜、私たちは新たな主力をこの場所に置いて、古びた者だけで特攻を行う。砂漠を南下して、メイウェイとその主力部隊のいない『ザシュガン砦』を襲うのだ」


「……戦力差は?」


「『ザシュガン砦』にいるだけで、あちらが、3000だな。こちらは、500」


「ろ、六倍の敵っすか……っ」


「そうとも、しかもくたびれた老兵ばかりだ!ハハハハ!」


「わ、笑えないっすよう……っ!」


 カミラは泣きながら、ちょっとだけ怒る。やさしくて、そして常識的なカミラには、死に趣く戦士の笑い声を理解することは出来ない。


 それでいいのさ。誰しもが、戦いに全てを捧げられる価値観だったりすれば……あまりにも悲しい。


 老戦士は、オレたちを交互に見た。オレと、カミラを。そして……羊皮紙に描かれた地図に戦いに疲れた瞳を向ける。


「今夜で、終わりだ」


「しょ、将軍……」


「悲しむな。お嬢さん。私たちは、長く戦い過ぎた。ガミン王のもとでも、ガミン王が死んだ後でも……私たちは、戦い過ぎて、肉体どころか魂までもが磨り減ってしまっているんだ」


 死に救いを求めているようだった。家族もいないからな。この世は、彼みたいに娯楽を追及して生きることもなさそうな男には……あまりにも、さみしすぎるのさ。


「……よく戦ったよ、アンタは」


「……いい言葉だ。今生の別れになるだろう。私は、悪評といっしょに砂漠へと消え去ってやる」


「『未来』のために、命を捧げるわけだ」


「そうだ。私には、血を受け継ぐ子どもたちは、もういない。だが、ここには、血こそつながらぬが、同じ歴史を生きた、同胞たちとその子供たちが大勢いるのだ。私は、今夜、死ぬことになるだろうが……それは、とても幸せな終わりなのだよ」


 戦士の悲しげな哲学を語りながら、バルガス将軍はいい笑顔を浮かべていたよ。砂漠の戦士たちは、何とも潔い死にざまを選べる。孤独な魂の旅路は、そろそろ終焉を迎えるのだ。


 全てを、戦いに捧げて来た男は……そうすることで、ようやく自由に戻れるような気がした。




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