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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『不帰の砂漠イルカルラ』

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第三話    『イルカルラに熱き血は捧げられ……』    その三十一


 『イルカルラ血盟団』のリーダー、バルガス将軍。オレたちはついに彼と遭遇することが出来たらしい。


 『コウモリ』の群れから、ヒトの形へと戻る……ここの近くには、護衛はいない。人払いさせているようだな。いい情報を入手出来そうな環境ってことさ。


 オレとカミラは通路にしゃがみ込んだまま、気配を消して会話を盗み聞きを再開する。


 バルガス将軍は闇に響いた声に、即答することを嫌っていた。彼は悩んでいるのか。それとも、会話の相手を説得するための言葉を心中で模索しているだけだったのか……。


 ……沈黙の時間は永遠じゃない。指揮官には、政治屋どもと異なり、逃げ続けることは許されていないからな。


 歴戦の戦士らしい、しわがれた低い声が聞こえる。このホコリっぽい場所にな。


「……決まっている。我々は、もはや散るのみの存在だ」


 ずいぶんと悲観的な言葉だったな。だが、オレやガンダラの予感は外れていなかったらしい。バルガス将軍は、帝国軍に特攻を仕掛けて死ぬ気なんだよ。


「……その考え方をあらためる気はないのか?……『自由同盟』だ。北では、帝国軍相手に連戦連勝だと聞く」


「強い外国勢力。それは、魅力的な言葉ではあるまい。カジム殿、そなたは『メイガーロフ』をルードの属国に捧げたいのか?」


 クラリス陛下は活躍しすぎたのかもしれないな。城塞都市『アルトーレ』を一晩の内に陥落させた。もちろん、クラリス陛下だけの力じゃなく、元・『白虎』の『虎』たちが、命を捨てて戦い抜いたりした結果でもあるのだが―――。


 ―――戦場で得た栄光は、指揮官の政治力へと変わるもんだ。


 ルードの女王クラリス……その名前は、他国が恐れおののく侵略者の名前へと変わりつつある。


「……ルードの属国か。正直、ワシら商人からすれば、悪くはないと考えてしまう。帝国の商人どもと商売敵にするよりは、ルード商人の方が気楽だ」


「ならばこそ、なおさら彼らを頼ることは許されない。当初からの計画通りに、行動するとしよう」


「私が『自由同盟』寄りだと非難しているのか?……愛国者ではないと?」


「売国者とは考えてはいない。カジム殿は、いつでも我々を助けて下さった。その行いは開国王ジンガさまに伝えるべき、価値ある行いだ」


「……私も巨人族だ。『メイガーロフ武国』の再建を望んでいた。バルガス将軍よ。死ぬのを止めるつもりはないか?……君だけが、武国の新たな王となれる器の持ち主だ」


「……買いかぶり過ぎだ。二度も帝国軍に敗北した男に、ヴァールティーンの祝福は授けられまい。国を守れなかった将軍であっただけでなく、帝国への抵抗組織さえも負けに導いた」


「負けてはおらぬよ。数の多さに遅れを取っただけのことだ。将軍は、負けてはいない」


「大商人カジム殿に評価されてもらえたことは素直に嬉しいが……やはり、私は負け犬に過ぎない。民の心をまとめられなかった男に、王などつとまらない」


「……ガミン王の命令に従っただけだ。全ては、あの虐殺のせいだ。あの虐殺が、君の名誉を貶めた……だが、あれは……ガミン王の命令だった」


「……ガミン王の考えが間違っていたとは思ってはいない。『太陽の目』は、宗教組織として許されるべき軍事力を超えて保有していた。国を割るような蜂起を、遠からず行っただろう」


 『太陽の目』のことを、バルガス将軍は信じていなかったらしい。彼の気持ちに理解が及ばないわけではないさ。蛇神ヴァールティーンに仕える、狂信的な宗教原理主義組織。蛇神の教えを実践する国を創りたい……とか言い出しても、不思議じゃない。


 軍人ならば、そういう大規模な反乱を力尽くでも止めるという行いは、至極当然なこととも言える。


「泥沼の内戦を避けたかった。ガミン王も、私も、『ザールマン神殿』でのことを間違いなどと考えたことは一度足りともない」


「尊師ホーミーは、たしかに殺しておくべき野心家だったろう。長老衆の中でも、最大の武闘派だった。カルト野郎さ……」


「排除に成功していなければ、今ごろ、幼子さえも戦場に連れ出すようにして、僧兵を量産している頃だった。私は、間違ってはいない。ガミン王もだ」


 尊師ホーミー、そいつが『ザールマン神殿』の指導者……長老の一人か。バルガス将軍は何年も前に殺したはずの男に対して、未だに忌ま忌ましさを残しているようだ。個人的に恨みでもあるのだろうか?


「……ふう。昔のことを言い出しても、今さらどうにもならんことだな……」


 大商人カジムの声は元気がない。あきらめているのかもしれない。バルガス将軍を自分では説得することなど、もはや出来ぬのだと。


「……使者殿はどうする?……殺すのか?」


 カミラの体が怒りに反応してビクンと揺れたが、オレは冷静だ。カミラの肩に腕を回した、無言のままに抱き寄せる。カミラは、オレの意図を汲んでくれたらしい。怒りを殺すために、彼女もまた小さな息をゆっくりと吐いていく。


 大商人カジムは、オレに感謝すべきだな。かなりの暴言であったが、オレのおかげで仲間想いの『吸血鬼』に惨殺されることなんて死にざまを晒さずに済んだわけなのだからな。


 ……しかし。


 興味深い質問ではある。


 バルガス将軍の腹を探ってくれる端的な質問だよ。オレも、今後の状況判断の材料にすべき言葉になりそうだと、集中力を上げて聞き耳を立てていた。


「……拘束する気もないさ。彼には、このまま会わないことにする」


「……そうか。彼は……どこか怪しいぞ」


「……帝国軍のスパイではないだろう」


「それは、そうだが……どうやって、この隠し砦を見つけたというのだ?」


「……分からない。直接、聞いてみたくもあるがな。ナックスの身柄も、彼が保護してくれているらしいしな」


「ナックス。有能な戦士だと考えていたが、拷問に屈したか?」


「拷問には耐えただろう。だが、ドゥーニアのためなら、彼は『自由同盟』の力を借りようとする」


「……ナックスは……そうか、大臣殿の護衛を務めていたな」


「いい腕の戦士だ。暗器も使いこなす男だ。裏切ってはいない。忠義のために行動しただけだろう」


「だが、この場にいないのは気になる」


「……負傷しているのだろう。どうあれ、ナックスは裏切らない。私と同じように、仕えるべき者を、護衛すべき人々を……守れてはいないのだからな」


「……自虐が過ぎるぞ、バルガス将軍。ワシは……君が、よくやったと思っているよ。いつでも『メイガーロフ武国』に忠実だったし……ガミン王を支えきった」


「その結果、アインウルフに敗北し、ガミン王の首を落とされ……今では、率いて来た軍の残党も崩壊寸前だ」


「……相手が悪かった。敵は、帝国は巨大過ぎたんだよ……それに、あの狂人であるホーミーが生まれていなければ……君は、もっと―――」


「―――民の心を得ていたか?……それは、どうだろうな。私は……自分の弱点を分かっている。自分を変えられない」


「自分を曲げない男は、魅力的なものだよ」


「……それでは、砂漠に沈み乾き果てる獣と同じ……ただ闇雲に、愚直に……道を進めば天が道を開いてくれるとは限らない……」


「……生き方を、変えるための最後のチャンスだと思わないのか?」


「北から来られた同胞に、私はそこまで期待することは出来んよ。『自由同盟』の連中が我々にさせたいことも、見えているしな……」


 それはそうだろうな。政治と戦争は悪意が舵取りをしているんだ。オレたちは、『メイガーロフ人』からすれば、警戒すべき対象ではある。オレが『イルカルラ血盟団』に所属する巨人族で、20才ぐらいの血気盛んなバカだったら……ガンダラに斬りかかっていたかもしれん。


「……『自由同盟』は、我々を……いや、『メイガーロフ』そのものを帝国との戦の盾として消費する気だ」


 ……まったくもって、その通りだから反論する気にはならない。帝国軍からの攻撃を『自由同盟』の軍が少しでも受けないようにするために、オレたちは『イルカルラ血盟団』を利用しようと考えている。


 いや、『太陽の目』だってそうだし―――バルガス将軍の言う通りに、『メイガーロフ』の全てを、帝国との戦いに使おうとしているんだよ。


 『内海』から敵サンの戦力が無傷なまま北上して来たりしないように、『メイガーロフ』には帝国軍と泥沼の戦いを繰り広げてもらえるのならば、それが『自由同盟』にとっては最良のシナリオだ。


 盾にする。


 まさに、その通りだった。


「……その扱いに、私は結局のところ耐えられないガキだということだ。『自由同盟』と組むメリットはある。理屈では分かる。しかし……安っぽい誇りがそれを許さない」


「……安っぽくなどないさ。君は、楽な生きざまよりも……『メイガーロフ人』のためだけに生きた。自身の名誉回復を期待することもなく、我々、砂漠の砂を踏んで生きて来た者たちだけの力で、かつての栄光を取り戻そうと足掻き続けた。それは、気高いことさ」


「……だとすれば、良いんだがな。カジム殿よ……私は、そろそろガミン王に謝罪するため、黄泉の流砂に身を捧げなければならない。子供らを、任せられるか?……それに、ドゥーニアのことも」


「……分かっているよ。サポートは続ける。君よりも、彼女は人気者だからな。楽になるだろう、ワシの仕事も……」


「感謝しますぞ」


「……いいさ。ワシだって、理想というものを棄てたわけじゃないんだ」


「彼女ならば、成し遂げるだろう。『メイガーロフ人』の手に、この土地を取り戻すことが」


「……見たかったよ。その日を、君と一緒に祝いたかった」


「一緒に祝っているさ。地獄の底からでも、その独立の日のためになら、私は歓喜し叫ぶに決まっているのだから」




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