45話 銀の刃
「はあぁぁっ!」
「ふっ!」
「せいっ!」
「はぁっ!」
息つく暇など皆無の連撃。一撃一撃が当たれば全て致命傷となる威力を持っている。
ライカが剣を、リマーラが槍を、一振りするごとに壁が壊れ、柱がえぐれる。
だが、二人はどれだけ部屋が傷付こうとも全く意に介さない。たとえ謁見の間が崩壊したとしても戦い続けるだろう。それほどに二人の眼には互いしか映っていなかった。
「くっ」
リマーラの槍がライカの左腕を斬り裂く。
「ちぃっ」
ライカの暗器がリマーラの右太腿に刺さる。
それでも二人は止まらなかった。怪我など負っていないかのように武器を振るい続ける。
互角と言っていい二人の闘いは永遠に続くかと思われた。
「――っ!」
空中で蹴りをくらったリマーラが、後ろに飛ばされながら左手を床について着地する。
と、そこで彼女の纏う殺気が少し弱まった。
それを感じたライカは、たんっ、と床に足をつけると攻撃には移らずに動きを止めた。
はぁっ、と息を吐く。
ライカとリマーラの額には汗がびっしりと浮かび、顔には髪が張り付いていた。
「はぁ……ここまで強いとはな。私の読みが甘かったようだ」
言葉とは裏腹に口元に笑みを浮かべながら、リマーラは太腿に刺さった暗器を躊躇いなく引き抜くと、髪を掻き上げた。相当な痛みがあるはずなのだが、彼女は痛がるそぶりを見せない。
「終わりにしますか?」
ライカも髪を掻き上げる。左の袖は血で染まっていた。
「まさか。……ここからが本番だ」
口元に浮かぶ笑みを深め、リマーラが懐から何かを取り出す。それは小さな瓶だった。
瓶の中にはきらきらと輝く液体が入っている。
「これで後戻りは……いや、最初から決めていたことだ。私もファムカとシュニカに続こう――」
寂しそうに、哀しそうに、リマーラは蓋を開け、瓶を持った左手を口に近づける。
「まさかっ」
リマーラの取り出したものの正体に気付いたライカは、床を強く蹴った。
「飲んでは駄目――!」
手を伸ばし必死に距離を詰める。それほど離れてはいないのに、とても遠いと感じるのは何故なのか。
瓶がリマーラの唇に触れる――
間に合わない。
ライカがそう思ったとき、奇跡が起きた。
ばんっ! と大きな音を立てて謁見の間の扉が開き、ダレスとヴォードが飛び込んできたのだ。
「ライカ! 無事かっ!」
「っ!?」
彼らの登場に驚いたリマーラの唇から瓶が離れる。
「リマーラっ!」
ライカは瓶めがけて手にあったものを放った。
――暗器ではなく剣を。
「…………わたしの負け、だ」
リマーラの身体がゆっくりと崩れ落ちる。
ライカの剣は彼女の左手と左胸を貫いていた。
「リマーラ様!」
ライカは駆け寄って傍に跪く。
暗器を投げるべきだったのに、何故自分は剣を放ってしまったのか。
リマーラとの戦いは、どちらかが倒れるまで続いただろう。
だが、こんな終わり方は……。
「何を悔やんでいる。お、お前は勝ったのだ。喜ぶべきだろう」
リマーラの左手から、左胸から、止めどなく血が流れゆく。その血に混じるきらきらと輝く白い粒。
命の源とそれを奪うもの。
「“至る夢の砂片”だな」
厳しい顔で近寄ってきたダレスとヴォードがリマーラを見下ろす。
「……そうか。やはり、あの二人は飲んだか……」
「……ああ」
ヴォードの答えに、リマーラはもう一度、そうかと呟き眼を閉じた。
「ファムカとシュニカは同じ村の生まれだ。何もない、平凡で、貧しい村。太陽を恐れ、水不足に嘆く、この国のどこにでもある村……だった」
ごほ、と血の咳をするリマーラ。彼女に残された刻はあまりないようだった。
「十六年前の暑い夏の日、私たちはこれまでにない、喜びに浸って、いた……。村人の一人が、地下水脈を、掘り当てたのだ。もう、日照りに怯えなくてすむ。もう、水不足に悩まされなくてすむ。村中の人間が、手を取り合って喜んだ。……だが、その喜びは悪夢へと変わった……」
突然の狂暴化した獣の集団による襲撃。村人たちは為す術もなく命を落とした。
「獣に、食い殺された、父の、友人の、村人の姿は、私に絶望と疑問を、もたらした」
何故、私たちがこんな目に遭わなくてはならないの? 私たちが何かしたの?
かろうじて父と判断できるほどにしか原型を留めていない骸の前で、幼いリマーラは天を仰いで問いかけた。
「答えは、得られなかった。だから、強くなろうと決めた。次にどこかで同じことがあったときに、そこにいる人たちを、護れるように……」
母親と同じ弓を武器としなかったのは、より相手を倒す感触がほしかったから。
「『朱の霞』に選ばれたときは、嬉しかった。女王を護る誇り高い部隊……。だが、ある日、私の前に、ファムカとシュニカを連れた男が現れた。その男……セアルグは語った。何故、村は獣の襲撃を受けたのかを……」




