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打ち明け話

9、打ち明け話


「タイに話したいことある」

「なに?」


 夜半にお互いに焚き火を挟んで座っていた。

 これまでタイのケガを慮って、なるべく休んでもらうようにしてきたけど、そろそろ話しあいの時が来たと思った。

 私も話してないことはあるけどタイにも隠してることがあるんじゃないかと思う。何しろ不可解なことがありすぎて、私がいくら考えても説明がつかないことが多すぎる。

 今の状況ではお手上げなんだ。


「タイ。私ね、これまでいろんなこと勉強してきたの。なんて言うんだっけ、神童ってやつ。4歳で大学入って、14年間、いろんな大学で勉強したり、先生しながら研究したりしてきた。だから薬草に詳しかったりしたの。医者の勉強もしたしね」

 タイは目を丸くしている。

「じゃ、ええと、18歳で医者なわけ?」

 

「というわけでもないんだ。物理学もやったし、化学もやった。いろいろ関連があったりして。じゃあ、あっちもこっちもってつまんでたらすごいことになってた。なんでこんな話したかと言うとさ、私、大きなくくりで言うと、一応科学者なわけよね。でもさ、この島に出るかなって」


 いざ言おうとすると、ものすごく勇気がいる!


「お化け、みたいなの?」

 言っちゃった!


「科学者が何を言ってるんだと思うだろうけど……さ」

「うん」


 やっぱり!言うんじゃなかった。

「ごめん、忘れて」

 自分の顔が真っ赤になるのがわかる。


「いや、違う。確かになんかいるよな」

「あ、そ」

 拍子抜けした。タイがこんなにあっさり認めるなんて思わなかったから。あのときは聞かれたくなさそうにしてたから。


「タイはあの夜でしょ?3日目にずいぶん沖のほうに行ってた時」

「うん。夢にも出てくる、と思う。あのときも夢かと思ってたから」

「どういうこと?」


 タイの説明はあっちに行ったりこっちに行ったり要領を得なかったので、私の理解したところをまとめると、こうなる。


 この島に流れ着いてから、毎晩夢に現れる存在がいる。存在って言うのは、男とか女とか、年齢も全くわからない。思考みたいなもの?と私は解釈した。それが夢で言うんだって、私たちはここにいるしかないって。

 私たちがここにいるのには理由がある。とても大事なことだけれど、私たちにとっては関係ないことでもある。

 それにこの島からはどうやっても出られないことを、あの夜に教えられていたと。


「何度も試したよ。でもあるところから壁みたいのがあって、そこからは指一本出られないんだ」

「けがしてたからじゃない?」

「いや、それは関係ないと思う。それに泳いでたわけでもなくちゃんと海底に足がついてたよ。波も風も普通に見えるのにオレだけが壁にぶつかったみたいにはじかれるんだ」

「そう」

 全然納得できないんだけど!


「あの夜、それを確かめてたんだよ」

 あり得ないでしょ。それでも強情に言い張るタイに腹が立った。気づくと海に向かって駆け出していた。

「ミヤ!」

 止めようとするタイを振りはらって海に入る。そんなことがあってたまるもんかと、必死で沖へ沖へと進んで行った。


 後ろを振りかえると砂浜が見え隠れするようになっている。もう背が立たなくて、つま先でジャンプしながら思いっきり波をかぶっていた。鼻から入る海水がつんとして涙が浮かぶ。

 「むう!」

 頭がぽよんと跳ね返された。唖然として何度試しても手も足も跳ね返される。

 その間も、波をばんばんかぶっていた。タイの言ってたとおり、波も風も通すけど私は通れない。

「ミヤ、もういいだろ」

 いつの間にやってきたのか、後ろからウエストに手をまわして抱えあげられて、やっと深く息ができる。タイには手も足も出なくて、無言のまま浜へ戻された。


「そいつが言ってた。もしかしたら帰れる時がある。その時はそいつが誘導するって。だけど今じゃない、と」

「じゃあ家には帰れない?」

「すぐには」


「なにをしたら帰れるのか聞いといてよ」

 しばらく泣いて、タイを責めてもしょうがないと思えたときに言った。

「できたらな、でもそこにオレの意思はないんだよ」


「でもまだ信じられない」

「おれもそうだったよ。でも昼間にも壁に触りに行ってみたらいい。魚は壁で引き返す、オレも向こうへ行けない。だから壁の内側にいる小魚しか釣れない」


 すっかり崩壊してしまった私の世界を再構築するために時間が必要だった。

 大学も、研究も、タカシのことも。ついでにタイもそいつも。私のことすら自信がない。


 この島はおかしい。


「そもそも飛行機事故だってあったの?」

「あった、よ。じゃなきゃオレの頭がおかしいんだ。海にのまれた人がいた、この目で見た。オレは必死で泳いだ」

「そう、私は白い煙と急降下を覚えているけど落ちたところは覚えてないから」

「疑ってる?」

「そう、疑ってる。自然の法則にしたがってたら海に壁があるなんてありえないでしょ!」

「でも実際あるんだ。自分で触ったことを、見たことを否定はできない」


 タイもおかしい。

「今日は浜で寝るからひとりにして」

「ミヤ!」

 タイを置いて歩き出した。


 正常な場所があるのだろうか?私が学んできた正しい場所に帰りたい。

 そもそも正常な場所って何なのだろう?

 あれ?わからない。


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