拝啓、南の島より
29、拝啓、南の島より
見える限りの青い海と空にぽっかりと白い雲が浮かんでいる。大きな入道雲はスコールのおまけつきで男の乗ったカヌーを水浸しにする。
水を掻きだしながら風の流れを読んで小さな帆を上げた。カヌーは潮と風をとらえて速度をぐんぐんと上げていく。
もう何日こうしているのだろう?釣れた魚は、内臓以外を生のまま食べて食料にしている。フルーツはすでになくなり、干し芋が少々残るのみとなった。ビタミンの不足した体は、口角に炎症を作る。塩水のしみること。
「菜っ葉をたべるんだよな」
しばらく会話らしい会話をしていない男の声はしゃがれて、オールを漕ぐのについた筋肉に比べると声帯の筋肉は落ちてしまっている。
男は自身が今どこにいるのかはわかっていないが、私たちにはわかるだろう。赤道直下から逃れて、黒潮に乗り北上を続けている。もう少し辛抱していれば見えたはずの島影は男には見えなくてさらに北上を続ける。
夜になれば目印にするのは北極星。確かあれは……
「こと座のヴェガ」
遠い昔に教えてもらったこと。
毎晩思い出す遠物語に、にじむ星を見上げる。
「なぜこうしているんだろう?俺はどこに行くんだろう?」
そして、とうとう男は力尽きた。水のしみるカヌーは水を漕ぎだすものはなくどんどん沈んでいく。
ひたひたと体を冷たい海水が濡らし、とうとう耳にはいってきた。
その時聞こえてきたのは愛する者の声。
「タイ、がんばれ!」
最後の力を振り絞って頭を起こした。
「ミヤ……」
その目に映ったのは、海の中をしぶきを上げて進むイルカの大群と、その波に押される男のカヌーだった。
意志を持ったイルカのその目には、行く先が見えている。夢?希望?
顔を上げると遠くに島影が見えた。
泣き笑いをする男に向かって手を振るものがいる。
男も手を振り返した。
時は過ぎて
男のエンディングももう間近
この次元での彼の役割は終わり、永の想いは彼女へと向かう
拝啓、南の島より
僕は先へ進みます
敬具
おしまいです。
読んでくださったかた。本当にありがとうございました。
こんな中途半端で終わりますが、お許しを。
この話には続編がありますが、
「続編か?」
と作者すらつっこむような感じなので、忘れたころに続けたいと思います。
このお話の最中に私的な事情で投稿時間がばらつき、楽しみにしていてくださった方にご迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした。
もうひとつ、書きかけの「純情愛歌」はもう少し寝かせといて、次はまた違うものを書きたいと思っています。
作者の中ではバイオレンスですが、たぶん違うといわれそうなものです。
長々と失礼いたしました。
これにて。終了!
下総みずき




