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大きなガジュマルの木の下で

27、大きなガジュマルの木の下で



「まって」

 荒い息をつくタイが、前かがみでひざに手をついていた。視界に入るのは岩と、岩を打つ白い波。


「美也、聞こえる?」

『うん』

 視線が上下に動く。タイがうなずいているんだ。


「タイちょっと空を見て」


 窓が大きく上に移動した。

『なにこれ!』



 空を覆う渦巻きがまるで生きているように、とぐろを巻いた蛇のようにうごめいていた。今までの渦なんか排水溝の渦みたいなもんで、今回のこれは規模が大きすぎて脳の処理能力が追いつかない。


「今はこの世界にあるエネルギーを集めているところ。十分なエネルギーが集まると渦の直径がどんどん縮まって、周りのすべてがのみこまれはじめる。残る時間はかなり少ない。それは、あたしの作ったこの小さな世界の滅亡。小さくても莫大なエネルギーですべてが一点に収縮する」


ブラックホールみたいなことかしら?


「名前はないの、ただ実際見たことがあるだけ。それに巻き込まれないうちに脱出したいの。この次元から。今はもうあたしの作る小さな渦でさえ危険。だけど一つだけ道がある。それにはあなたも行ったことのある、北に生えてるガジュマルの木のうろに隠されたホール」


 ふと真也の意識がそれた。続く声は焦っていた。とても。

「話は以上、もう時間がない。太一泳げ!」


 タイはすぐさま海に飛び込んだ。勢いよく手をかいてクロールで泳いでいく。真也は海の中でどうしているんだろう?まさか、泳いでないよね。

 タイがクロールってことは、どこかにしがみついてるのかな?

 大のおとなに海中で引きずられる赤ん坊。シュールすぎる。


 窓を見たところで、海中の様子だけしかわからない。潜水艦みたく泳いでくれたら、少しは楽しめるのにな。なんて悠長に思っていたけど、刺青の人のことを思い出した。この海に沈んでいて、もうすぐ一点に収縮する渦に飲み込まれるはずの人。形見の指輪はタイのもので、もしかして家系図に載ってないのかな?

 さっきのまま放置してあった家系図を取り上げる。プラチナっていつごろからあんなにきれいに精製されるようになったんだっけ?

 そもそもは古代エジプトのころにあったっていうけど、あの光り方、海水につかっても全く変化しないんだから、純度は高いんだ。そう言えばタイタニックの時代に流行ったって聞いたことあるなあ。それだと1900年の初頭頃。

 戦争に言った太一さんが持っててもおかしくないんだね。でもそうだとしたらよっぽどのお金持ちだ。


 調べたら面白そうだけど、この家系図じゃそれ以上はわかんないや。

 よく見ると、箱にも系図の先頭にも例の家紋が入ってた。巻物をどんどんほどいていくと、住所が書いてあった。これも古い地名と番地でどこだかわからない。

『なになに……』


「美也、聞こえてる?ついたよ」

『あ。ついたんだ』


「のんきに言ってんじゃないわよ」

 タイは水しぶきを上げながら木の下を走っていた。しぶきは後方へと流されていく。木に守られて揺らめくだけだった海面は、さざ波を上げている。木の葉のこすれる音がやけに大きく、細い枝が折れてすべては後方へと向けていく。


「渦が収縮を始めたの。もうすぐ竜巻があちらこちらでできる。何千何万ものそれは最後には一つになってすべてを飲みこむ。ジェットを上げながら反転して、自らに押しつぶされて小さくなっていく。すべては無に向けて」


『無……』


 縦横に走る木の根が移動の邪魔をする。苦心して進むタイも疲労とケガの影響でうまく進めないようだ。


「太一。上を見て。3メートルくらいのところにうろがない?」

「うろと言うと……」


『木の幹にできた横穴のことよ』

「そのうろの中にホールがある。禁じられた場所に。あ!あそこ!」


 真也が見つけたのはとても小さな穴だった。直径は5センチほどの穴は奥が真っ暗で今にも動き出しそうだった。だがどうやっても届きそうにない。

『どうやって』

「どうやってあそこに入るんだ?」



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