133話
「ハハハ! 面白いな! これだけ面白い戦いは久しぶりだ!」
ドラグルは大剣を振り下ろしながら、高らかに声を上げる。
それを避けるシスの師匠は、鋭い視線でドラグルの動きを読む。ドラグルの剣速は、その剛腕から驚くべき速度で振るわれる。剣を見て回避行動をしていると回避が間に合わなくなるのだ。その為、風の動きと筋肉の力の入り方。それを見てシスの師匠はドラグルの次の行動を予想して動いていた。
しかしそれも完璧では無い。
読みを誤ってピンチに陥ることも何度かあったが、何とか今まで戦い続けて来れていた。
「俺の星よ、燃え上がれ。ファイアロード!」
ドラグルの詠唱によって、地面を一直線に炎が走る。シスの師匠はそれを、風を使って高くジャンプすることで躱し、天井に足を着けてドラグルに向かって蹴った。
重力と蹴りの速度を伴って、シスの師匠の剣がドラグルに振り下ろされる。これならばドラグルに比べ力の無い師匠でも、十分ドラグルの力に抵抗できる。
ドラグルはそれを自分の剣で受け止め、ニヤリと笑みを浮かべる。
「俺の星よ、剣を燃やせ。フレイムソード」
「星に願いて風刃を纏う。エアカバー」
瞬間、ドラグルの大剣が真っ赤に燃え、師匠の剣の周りに風が集まり刃を形成する。そして大剣から来る熱を風が遮った。
シスの師匠はさらに力を籠め、ドラグルが押し返した所でそれを利用し大きく後ろへと飛ぶ。そして下がりながら剣を振り抜いた。
すると纏っていた風刃がカマイタチのように射出され、ドラグルを襲う。
突然の飛び武器に、さすがのドラグルも反応が遅れ、体は大剣で守るも、両腕に風刃を受ける。
しかし傷が浅い。ドラグルの腕からは血が流れるが、骨も神経も、筋肉すら切れた様子はない。表面の皮と皮脂を切った程度だ。
「固すぎないか?」
「炎は何もかもを焼き固めるものだろ」
「土じゃないんだから少しは常識を持て。A+という連中は本当に常識を無視し過ぎだ」
彼女の知っているA+の連中は、全属性を持ちながらさらに異常な筋力を持っていたり、平然と雷速の中で移動しながら攻撃を仕掛けて来たり、自分の神経を自分の電気で強引に操ったりと、常識というものをかなぐり捨てた連中だ。
そしてこのドラグルも、自分の皮膚を焼いて硬くしたり、炎を纏っていてもケロッとしていると当然のように常識に囚われていない。
最終目標としてA+になることを目標としているシスの師匠だったが、これらの連中の行動を見せられると自分はAぐらいに収まっていた方が良いんじゃないのだろうかとすら思わせた。
「貴様もなかなか面白みがあったがそろそろ俺も仕事をしないとな」
「させると思うか?」
「するさ。冒険者は信用が命だからな。特に俺のような半分フリーランスのような奴にはな!」
ドラグルは炎を体に纏って突っ込んでくる。二メートル超えの男が火だるまとなって迫ってくる。それはさながら炎の壁が迫ってくるような物だ。
そんな力技に対処する手段は、女性であるシスの師匠が持ち合わせているはずも無く、選択は逃げる一択だった。
しかし戦っている最中の移動で、いつの間にか地下に来てしまっていたため廊下に窓は無く外に逃げるようなスペースは無い。
とっさに近くの壁を切り飛ばしそこに飛び込めば、当然のようにドラグルも追ってきた。
「部屋は行き止まりだぞ」
「壁が迫って来れば、誰だってとっさに飛び込むものだ」
「だがこれでお終いだ」
「まだ終わるつもりは無いさ。感動の再会もはたしていないからな!」
そう言って自らの剣を床へと突き刺した。瞬間、部屋の床全体に亀裂が入る。
師匠は剣の先から一気に風刃を放ち、床を一瞬で破壊したのだ。
激しい音とともに崩落が起こり、師匠もドラグルも地下へと落とされた。
ケホッと舞い上がった粉塵に咳き込みながら、シスの師匠は周りを確認する。
周囲は瓦礫で酷い荒れようだが、何やら資料室のような場所だと分かった。
押しつぶされた棚には大量の本が収められており、近くには真ん中で真っ二つに折れた大きな机がある。
上流階級の使う部屋なのか、灯りはランプではなく、魔力を使って照らすものが使われていたのか、瓦礫のいたる所から灯りが漏れていた。
「ずいぶん強引にやってしまったが、賠償など要求されないだろうな」
かなりの数の本をダメにしてしまった。ある程度製紙の技術があるとはいえ、まだまだ本に出来るような紙は値段が高い。
かなりの数をダメにしてしまったため、賠償額としてはかなり巨額になってしまうのだ。
「自分の命より賠償の心配か?」
声は瓦礫の下から聞こえてきた。
そしてゆっくりと瓦礫が持ち上がり、そこからドラグルが這い出てくる。多少のかすり傷はあるが、致命傷になったものは無かった。シスの師匠は自分の場所を中心に破壊したため、そこだけは床を細かく砕き埋もれるのを防いだのだが、ドラグルの周辺にはそのような面倒なことはしていない。
つまり、ドラグルは埋められても自力で出てきたことになる。
「さて、ここからどうするか」
埋められてくれれば、少しは時間が稼げると思っていたシスの師匠としては、いささか計算外だった。
周囲には部屋と瓦礫の残骸、少し離れた場所には扉がある。距離的には師匠の方が近いが、ドアを開けたり切って壊したりしている内に攻撃されてしまう範囲だった。
困った表情で警戒していると、そのドアのノブがガチャリと動く。
そしてゆっくりと開いた。
「これは酷いな」
入って来たのは剣を構えたカランの騎士だった。そこでシスの師匠は自らのミスに気付く。
師匠が崩落を起こしたせいで、地下三階へと来てしまい、さらに運悪く議員たちの集まっている部屋の隣にある資料室まで来てしまったのだ。そのためすぐに騎士が確認に来た。
騎士は粉塵で良く見えない部屋の中を懸命に覗きながら、状況を把握しようとする。
「どうだ、何か分かるかね?」
「粉塵が酷くて良く見えません。少し中に入ってみます」
「気を付けたまえ」
ポカンとしていたシスの師匠だったが、その言葉に反応して我に戻る。そしてすぐに注意を叫んだ。
「来るな! ここにはドラグルがいる!」
「む! 誰だ!」
騎士は突然の声に反応して師匠の方を見る。そしてドラグルの炎が師匠の横を通り過ぎ騎士へと襲い掛かった。
「ハハ! 何の偶然かは知らんが、役に立ってくれたようだな!」
ドラグルは駆け出し、騎士達が入って来た扉へと向かう。師匠もすぐに駆け出し、ドラグルと扉の間に入った。
「行かせん。星に願いて、風の道を示す。ウィンドロード」
師匠の魔法により、部屋の中に風が吹く。その風は一直線にドラグルの顔へと向かい、部屋の中粉塵をドラグルの顔へと直撃させた。
さすがに硬いドラグルであっても、目は鍛えられず口や鼻に砂が入れば苦しむ。
「くはっ、ふん! ペッ」
必死に目を擦り、鼻から砂を飛ばし近くにつばを吐くも、一度入った粉塵はそう簡単には抜けない。その間にも師匠は周囲の粉塵を、風を使って一つに纏めドラグルの顔に向けてウィンドロードで流していく。
そこに新たに声が聞こえた。騎士が叫び声をあげたせいで見に来てしまったのだ。
「これは激しく壊れてますね」
「ばらばら」
奥の部屋から覗く顔。それはシスの師匠が良く知る水色の髪の少女と、その足元で少女と同じように部屋の中を覗く真っ赤な髪の子供の姿だった。
そしてその少女がシスの師匠を見る。視線が合い、お互いに固まった。
「やっぱりリリウムさん」
「フィーナ?」
シスの師匠、リリウム・フォートランドは、ある意味劇的な再会を果たすことになった。
突然の破壊音と共に、隣の部屋へと続くドアの隙間から煙が上がってくる。
部屋の中にいた議員たちは騒然とし、その扉を見た。一瞬煙が出てきたので火事かとも考えた一同だったが、すぐにその煙が粉塵であることに気づき、さらに動揺する。
そもそも、議会自体がかなり頑丈な作りの地上三階地下三階の構造になっており、議員たちがいる場所は地下三階。それも一番奥の部屋だ。襲撃の対策も考えられ、地下一階から三階までは、相当な厚みを持って設計されている。
しかし、隣の部屋から聞こえてきた音は明らかに崩落の音なのだ。それを考えれば、床が抜かれたことは間違いない。
常識外の出来事が起きて、議員たちの頭に浮かんだのは、ドラグルの存在だ。
A+冒険者、しかしドラグルは炎属性と荒い性格も相まって、かなり破壊的だと耳に挟んでいた。
「まさか、ドラグルが来たのか?」
誰かのつぶやきは波紋となって次第に周囲へと広がっていく。それにいち早く気付いた議長が騎士達に確認をとるように命令する。
騎士は議長の命令に従い、剣を抜くと部屋の扉をゆっくりと開く。
中から一瞬溜まった粉塵が出てきて口元を押さえるが、すぐに構えなおして部屋へと入って行った。
「どうだ、何か分かるかね?」
議長が尋ねると騎士は埃が多くて良く見えないと返す。そしてさらに中へと入って行ったところで中から女性の声が聞こえてきた。
「来るな! ここにはドラグルがいる!」
その直後、騎士の悲鳴が聞こえた。
悲鳴に議員たちは驚き部屋の扉から少しでも離れようと一斉に距離をとる。そんな中、議長とフィーナだけが平然としていた。
と、言うよりも議長は、どこに逃げてもここに攻め込まれた時点で何もかも無駄だと冷静に判断しており、フィーナは一心不乱にサンドイッチを齧るフランに夢中だっただけである。
しかし部屋の中から聞こえた声で、フィーナは不意に顔をあげた。
「あれ? 今の声」
フィーナはその声に聞き覚えがあった。他人のそら似と言うこともあるだろうが、この状況で声が聞こえてきた状況を考える。
隣の部屋にはドラグルがいて、これまでの状況から察するとドラグルと戦いながらここまで来てしまったという状況を予想する。ならばさっきまでの、近づいてくる爆発音はこの二人の戦闘の音なのだろうと。
そしてA+と戦おうとする奇特な精神を持った者で、同じような声をする者が沢山いるとは思えない。
フィーナは立ち上がり、その扉へと向かう。議員たちが口々に止めようとするが、剣にだけは手を掛けすぐに抜ける状態にして部屋の中を覗き込んだ。その足元にはフランも付いて来ている。
そして中にいた人物と目が合う。その女性は、男に向けて手を突きだし何やら魔法を使っている様子だった。
白い鎧をまとい、金髪をなびかせるその女性。
それはフィーナの予想した通り、リリウムだった。
お互いに目が合い、名前を呼び合う。そしてすぐにハッとしたリリウムがすぐに部屋に戻るように言ってきた。
「もしかしてリリウムさん、ずっとドラグルと戦ってました?」
「いや、そうだが。とにかく早く退避してくれ!」
「この奥の部屋が最深部なので、退避のしようがないんですが」
「なに!?」
嫌な事を聞いたとリリウムが額を押さえる。
「なので手伝いますね。フランちゃんはちょっとおじさんの所に隠れててくださいね」
「ままどっかにいっちゃわない?」
「大丈夫ですよ。リリウムさんも一緒ですからね。リリウムさんはパパとまでは行かないですけど、とっても強いんです。なんといっても私に剣を教えてくれた人ですからね」
「うん」
頷いたフランはトコトコと議長の元へと行く。それを見送ってフィーナは詠唱をした。
「星に願いを。閉ざせ氷結の檻。フリージングワールド」
その魔法で一瞬にして扉の入口が凍り付き塞がる。それだけにはとどまらず部屋一つまるごと覆うように氷の壁が出現した。
そこにドラグルが炎弾を放つが、氷はその程度では少し溶けた程度ですぐに修復されてしまう。
「これで他の部屋に行くには私たちを倒すしかなくなりましたね」
「トーカの影響か? 無茶をするようになったな」
「無茶をするつもりはありません。フランちゃんのお母さんとして、まだしっかり未来まで守ってあげないといけないですからね。これはトーカが来るまでの時間稼ぎですよ」
「さっきの子供のことか? 色々と私がいない間に楽しそうなことがあったようだな」
「そこまで明るい話じゃなんですけどね」
「まあ、後でゆっくり聞かせてもらうさ。私も話したいことが沢山あるし、紹介したい者もいる」
リリウムが剣を構えなおすと同時に、フィーナも自らの剣に魔力を流し、その刃に結晶を纏わせ構える。
闘技大会以来、久しぶりに師弟のタッグが結成された。
フィーナが氷の魔法でドラグルをけん制しながら、リリウムが風を纏わせた剣で斬り込む。さすがのドラグルも、同じ一等星の加護を持つフィーナの魔法は無視できず、躱したり同じような魔法で相殺している。
その隙をついてリリウムが斬り込むため、フィーナ達は比較的有利に戦闘を進めていた。
「フィーナ強くなったじゃないか」
「だてにトーカと一緒に冒険はしていませんよ。最近は休みがちでしたけどね」
アイスニードルをドラグルに放つ。ドラグルはそれをファイアボールで相殺し、リリウムの剣を大剣で受け止める。
「俺の星よ、極炎を纏え! ウェアファイア」
ドラグルの足もとから火が噴き上がり、一瞬にして体を包み込む。リリウムは詠唱の開始と同時に後方に飛び退いていて巻き込まれてはいない。
再び炎の塊となったドラグルが、リリウムに迫る。
しかし、リリウムとドラグルの間に氷の壁が突然そそり立つ。
「火事は、すぐに鎮火させないと危ないですよね」
「この程度の氷で俺の炎が消える訳無いだろ!」
ドラグルは剣を氷の壁に突き立てる。氷はすぐに炎によって溶かされ、剣は貫通する。そのまま腕を振るって氷の壁に大きな切れ目を入れていくドラグルを横目に、フィーナは新たな魔法を詠唱する。
「星に願いを。極限の世界にいざなえ、アイスコフィン!」
ドラグルが壁を切り裂いたのと同時に、フィーナの詠唱は完了した。そして新たな壁がドラグルを囲い、四角い箱を形成する。
そして閉じ込められたドラグルの炎が消えた。
「これは!?」
「私の最大威力の魔法ですよ。しばらくは閉じ込めさせてもらいますね」
アイスコフィンはフィーナの必殺技だった。氷の箱に対象を閉じ込め、その中を極限にまで冷やすことで相手を凍死させる。その上、箱には空気を入れる隙間など無く、暴れればすぐに酸素を使い果たし窒息の可能性すらある魔法だ。その上ドラグルの属性は炎。酸素を消費して燃やす炎系の属性にとって、この魔法はまさしく必殺の威力を持っていた。
しかしこれでも、フィーナはドラグルを倒せるとは思ってない。精々時間稼ぎが限界だと思っていた。
それがA+だと何となく理解していたからだ。
「リリウムさん、大丈夫ですか?」
「ああ、さっきより大分楽に戦闘出来た。しかし、この魔法はえげつないな」
「トーカに教えてもらった技ですからね。フランちゃんを守るためにも、私自身強くならないといけませんから」
守るために戦う。戦うためには強くなければならない。
その為の魔法としてトーカが考えたのが、このアイスコフィンだった。
「これで少しは時間稼ぎができますね」
「やはり倒せるとは思ってないか。まあ、私もあまり期待はしていなかったが」
「ドラグルさんでA+の方とは全員会ったことになりますけど、正直同じ人間とは思えない人ばかりでしたからね。まあ、一人は違う意味で驚かされましたが」
学園でルリーが起こした騒ぎのことを思い出し、フィーナは苦笑する。
「ところでトーカは今どこに行っているんだ? 姿が見えないが」
「極星の勇者を復活させようとしているという情報がありまして、それを止めに行っていますよ」
「なに?」
フィーナの言葉にリリウムは眉を顰める。そしてフィーナから状況を詳しく聞いて、確かにトーカが行く必要があると感じた。
そして同時に、おそらく蘇生してしまったのだろうとも考えた。
「ドラグル、聞きたいことがある」
「ん?」
先ほどから大剣を氷の壁に叩きつけているドラグルにリリウムは尋ねた。
「極星の勇者は復活したのか?」
「しただろうな。気配を感じた。それにギンバイの兵士が動いたということはそう言うことなんだろうな。あんたの彼氏だったか? 死んだかもな」
ドラグルも片耳程度にはフィーナの話を聞いていた。そして極星の勇者が復活している以上、死んでいると考えた。
普通ならば、その考えが通るだろう。しかし、相手はトーカだ。だからフィーナもリリウムも特に心配はしていなかった。
「ドラグルはこう言っているが?」
「トーカなら大丈夫ですよ。そろそろ来ると思いますし」
襲撃の開始からそろそろ三十分が経過する。復活と共に兵士が攻め込んできたのならば、トーカが島から戻って来れる時間はそろそろだろう。
「ふん、なかなか頑丈な氷だな」
「ありがとうございます」
「だがいささか俺の満足できるものでは無かったな。そろそろ終いにしよう」
とたん、ドラグルを囲っていた氷が溶けだし煙を上げだした。
その中では、ドラグルの体が炎を纏っていないにもかかわらず真っ赤になる。まるで全身が火傷で赤くなっているようだ。
その状態でドラグルは氷に右手を伸ばし手の平を押し付ける。
すると瞬く間に手の平を当てた部分の氷が溶け、腕だけが壁から生えている状態になる。
そのままドラグルが腕を移動させれば、それに沿って氷が溶けて行った。
「さすがにこうも簡単に溶かされるとショックなんですが」
「ドラグル、いったい何をやった?」
「簡単、俺の体温を上げただけだ」
そう言いながらドラグルは完全に壁から抜け出した。そして今まで壁に遮られていた熱がフィーナ達の頬を焼く。
まるで真夏の太陽に焼かれるような、そんな暑さをドラグルは全身から放っていた。
「炎を付けるのが不味いなら、中で燃やせばいい。俺の体は今、鉄すら溶かす」
見れば、ドラグルの着ていた鎧は全て爛れたように溶けており、ぽたぽたと地面に垂れている。剣はすでに握っておらず、氷の壁に突き刺さったままだった。
「今の俺には近づくだけで焼け死ぬぞ」
一歩進むだけで、圧倒的なまでの威圧感を放つドラグルに、リリウムは今までの同一人物とは思えなかった。
「どうするのだ、フィーナ。何か策は?」
「意外と万策尽きていたりします。私たちが有利に戦えてたのは、どうやら手加減されてたみたいですね……」
フィーナも額に汗を垂らしながら、ドラグルから離れるように後ずさりする。
「ならば頼むのは一つか?」
「それしか無いですね。大声で呼んでみます? 意外と来るかもしれませんよ?」
「試してみる価値はありそうで怖いな」
意外と余裕を持って喋っているように見えるが、内心びくびくしっぱなしの二人。会話も何かしゃべっていないと精神が持たない気がするのだ。
「じゃあせーっの! で」
「分かった」
「せーっの!」
『助けて! トーカ!』
二人は全力で叫んだ。それこそ、これまでで出したことが無いほどの大声で。
そしてその声とほぼ同時に、大きな揺れが議会全体を揺らした。
フィーナもリリウムもA+の全力のプレッシャーに威圧されておかしくなってます。