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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
カラン合島国・極星編
133/151

132話

「ここから通すな! 全力で守り抜くぞ!」


 騎士の怒声が飛び、剣と剣が打ち合う。

 中央議会の正面玄関は、まさしく戦争状態だった。

 ドラグルの突入をきっかけに、隠れていたギンバイ兵が一気になだれ込み、一時は議会内部まで押し込まれたものの、何とか正面まで押し戻していた。

 そこにドラグルの姿は無い。

 しかしカランの騎士達に、それを気にするほどの余裕は無かった。


「押しつぶせ! ここを通れば一気に制圧できる!」

『おう!』


 ギンバイの勢いは凄まじい。それもそのはず、ギンバイが今攻めている場所の目と鼻の先には、カランの首脳部がそろい踏みだ。ここを制圧できれば、ほとんど被害を出さずにカラン合島国自体を制圧できることになる。

 そうなれば、ほぼすべての島の代表が人質に取られ、良いように毟り取ることができるのは目に見えていた。その為、ギンバイの兵一人一人の士気も高い。

 しかし、それでもいまだに制圧できないのは、一人のまだ少女とも呼ぶべき姿の冒険者のせいだった。


「あはは! 私の剣を止められますか!」


 狂気にも似た笑い声をあげながら、その少女シスは次々とギンバイの騎士を切り倒していく。

 振り下ろされた剣を、持ち前の小ささと小回りの良さで難なく躱し、後ろに回り込んで鎧の隙間から確実に騎士の体を突き刺していく。


「魔法なんて使えなくても、雑兵には負けませんよ!」


 飛んできたファイアボールを斬って、シスはさらにギンバイ兵を追い詰めていく。


「なんだアイツは!」

「知るか! 取り囲んで殺せ!」

「取り囲まれるほど愚かじゃないんですよ!」


 シスはすぐにギンバイ兵から注意される存在になった。しかし、数で押そうにもすぐに包囲網は破られる。そしてカランの騎士たちが包囲網のせいで手の薄くなったところを確実に突いてくる。

 乱戦のせいで、思うように魔法を使うことも出来ず、ギンバイ兵たちは徐々にその戦闘場所を門の外へと押し返されていた。

 もともと奇襲で準備の出来ていないカラン兵を一気に殲滅する予定だったのだ。戦闘が長引けば長引くほど、ギンバイの不利は確定的なものになる。

 その上、ここはカラン合島国。次々と騎士の増援はやってきて、ギンバイ兵を追い詰める。


「隊長これ以上は!」

「くそ! ドラグルは何をやっている! 高い金を払っているんだぞ!」

「議会には潜入したようですが、居場所は分かっておりません」


 奇襲において先陣を切ったはずの爆炎のドラグルの姿は見えない。時々爆発音が聞こえて来るだけで、どこで何をしているのかも分からない。隊長はただ悪態をつくしかなかった。


「こうなれば市民を人質に取るしか」

「そんな下劣なことが簡単に思い浮かぶのは、さすがギンバイの兵士ですね!」

「なにっ!?」


 隊長の後ろにはいつの間にかシスがいた。そしてニコニコと笑みを浮かべながら、容赦なく隊長の体に剣を突き立てる。


「私の村もギンバイに焼かれたんですよ! これは復讐しなければなりませんよね! そうですよね!」


 とても復讐しているようには見えない。まるでおもちゃで遊ぶ子供のように屈託のない笑顔を浮かべながら、シスは何度も執拗に隊長の体に剣を突き立てる。

 それを見て、周りのギンバイ兵たちに戦慄が走った。

 こいつはまともじゃないと。

 酷い形相を浮かべながら動かなくなった隊長の頭に、最後に剣を振り下ろし、シスは他の獲物を探す。


「殺しますよ! ギンバイ兵は皆殺しですよ! 投降は認めないのです!」

「くそっ!」


 斬りかかられた兵士は何とか抵抗を試みようとするも、あっけないほど簡単に剣を空に弾き飛ばされ鎧の隙間に深々と剣を突き立てられる。

 突き立てた剣はさすがに簡単には抜けない。その隙を見つけた兵士がシスに斬りかかる。しかしシスは落ち着いた様子で空いた左手を空に向ける。

 そこにはついさっき兵士から弾き飛ばした剣が降って来ていた。そしてそれを握り、平然と兵士の剣を受け止める。


「甘いのですよ! 師匠様はこんな甘々な攻撃はしてこないのですよ!」


 右手で突き刺さった剣を抜き、兵士へと振るう。兵士もそれを防ごうと盾を構えるが、剣は盾の横をすり抜けて兵士の胴に当たる。しかしただの剣ではプレートを貫くことなどできない。

 ガンッと重い音が辺りに響くと同時に、シスは剣をさらに押し込む。

 貫くことは出来なくとも、力で押すことは出来るのだ。兵士は少女とは思えないほどの力に押され、たたらを踏む。その瞬間には、首に銀色の刃が突き刺さっていた。


「私の本気はこれからなのですよ!」


 ただ一人の少女に指揮系統を奪われたギンバイの兵士たちは、後からやってくるカランの騎士達になすすべもなく打ち取られていくしかなかった。




「ここどこだ?」


 ドラグルは議会の中で道に迷っていた。

 似たような廊下の続く議会は、初めて来た人にとっては迷いやすい場所だ。案内なども特に書いていないため、目印になるような物も無い。

 もともと、カランの頭脳として侵略に色々と対処できる形には作られているのだ。逆に言えば、それでも最深部にまで到達した隠密筆頭の技量の高さが凄まじいものだと言うのが分かる。

 そしてドラグルは道に迷った挙句、部屋を片っ端から見ていくと言う手法をとることにした。

 強者にと戦闘に対しては天才的だが、それ以外にはバカなドラグルだ。


「次はここの部屋」


 蹴り壊すように扉を開ける。中には侍女たちがいた。全員が怯えた表情でドラグルを見ている。

 それを見てフンと鼻を鳴らすと、新しい部屋に向かう。

 ドラグルにとって戦う価値の無い物と、依頼の内容に無い物に興味はない。今回の依頼内容は、カラン議員の出来るだけ多くの殺害だ。そのため侍女などには目もくれず次の部屋を目指す。

 そこの侍女の一人でも脅して場所を聞けばもっと早い話なのだが、それに気づかないのがドラグルである。

 そのドラグルが肌に何かを感じる。


「強者の気配。そこか!」


 ドラグルは突然大剣を抜くと、天井に向かって突き刺さした。

 ぱらぱらと天板が崩れ落ち、そこから一人の男が降ってくる。

 真っ黒な服で全身を覆い、顔を隠したその男は、カラン隠密筆頭だった。

 筆頭は上手く着地しドラグルから距離をとる。しかし、ドラグルの初撃により、腕に浅い傷をつけられていた。


「俺の気配に気づくか」

「視線は消せん。強者の視線は肌をちりちりと焼くような感覚になるからな」

「化け物め」

「それがA+と言うものだ!」


 ドラグルが室内だというのに容赦なしに炎弾を放ってくる。威力も高く、破壊力もあるため筆頭は躱すしかない。そしてあっという間に炎弾はカーペットやカーテンに燃え移った。

 辺りに火が回り、一気に室内の温度が上がる。


「こんな状態にして、お前も自由に動けなくなるぞ」

「バカめ。爆炎の俺が炎ごときで怯むと思っているのか? この程度の炎なぞ、俺の皮膚を焼くことは出来ん」

「……」


 まるでドラグルの周りを炎が纏うように渦を巻く。


「ここで止める」

「貴様程度では無理だ」


 ドラグルは大剣を振りかざして筆頭に向かって踏み込む。筆頭は大剣の範囲を考え下がりながらナイフを投げつけた。しかしそのナイフはドラグルに届く前に溶けてしまう。

 そもそも隠密筆頭は影から敵に攻撃する物だ。正面から戦うことなど隠密の戦い方では無い。そのせいで筆頭は、隠密としての強さを引き出せずにいた。


「逃げることしかできんのか! 雑魚が!」


 下がりながらナイフを投げ続ける筆頭に向けて、当たらないはずの場所からドラグルが大剣を振るう。すると、衝撃波と共に激しい熱風が筆頭を襲った。

 息を吸うたびに肺が焼けそうになる。すぐに筆頭は呼吸を止めて、逃げに徹することにした。

 そもそも筆頭の目標は、ドラグルを議会の最深部へ行かせない事。そのために逃げながら引き付けていたことを、当然のようにドラグルは気づかない。

 おかげで、大分入口近くまで引き戻すことが出来た。

 全力で逃げることに徹した隠密は、さすがにA+と言えど追えない。ドラグルは逃げた筆頭にすぐに興味をなくし、再び議会の最深部を目指して廊下を歩き始めた。




 議会の一部から煙が上がる中、シスの師匠も道に迷っていた。

 シスを正面の防衛援護に回らせ、その隙にこっそりと侵入したは良いがどこに行けばいいか分からずとりあえず廊下をあてどなく歩いている。

 いつしか黒煙が天井の隅をたどるようになり、次第にその量は増えていく。そこで初めて議会が燃えていることに気付いた師匠は、すぐに風属性魔法で自らの周りに新鮮な空気を集めて探索を続けている。


「さて、どうしたものか」


 悩んで足を止めた時、突然背筋に恐怖が走る。そしてとっさにその場から飛び退いた。

 するとすぐ横、窓の外から大剣が廊下へと飛び込んでくる。


「何事だ!」

「ちっ、外したか」


 師匠が外を向けば、そこには大剣を投げた体勢のまま師匠を睨みつけるドラグルの姿があった。

 ドラグルは、入口近くまで戻された後、再び中に戻ろうとしてなぜか入口の所に出てきてしまっていた。

 それにキレたドラグルは、庭側から窓の中を覗き、人がいる場所に片っ端から攻撃を仕掛けていく手法に切り替えたのだ。

 そして運悪く初めてであった人物。それがシスの師匠であった。


「あなたは爆炎のドラグルか!?」

「むっ、どこかで見たことがあるような」

「ほう、記憶の片隅にあっただけでもうれしいと思った方が良いのかな? 以前大規模討伐で御一緒したことがあった」

「大規模討伐っつうと一等星級を倒した時か。あ、たしかにあんたみたいなやつがいた気がする。ってことはアンタ強いんだな? ランクは?」

「Aだ」

「ほう」


 それを聞いた途端、ドラグルが嬉しそうに舌なめずりをする。


「それは楽しみだ!」


 シスの師匠とドラグルが踏み込んだのは、同時だった。




 フィーナは一足先に議会の最深部。議長室へと来ていた。そこにはフィーナのほかにもカランの重役の面々が顔を合わせている。


「議長! どうなっているのだ!」

「騎士達はなにをやっている!」

「現在戦闘中だ。ただ相手にA+ランクがいるという情報が入っている。迂闊には動けん」

「A+だと!? ドラグルが帝国にいたというのか!」


 フェイリスの居場所は魔の森と把握されているため、必然的に出て来る名前はドラグルのみになる。

 そしてその問いに議長は一つ頷いた。


「今は入口近くで戦闘をしていると情報が入ったが、いつまで持つかは分からん。伝令には常闇と狂呀に戻ってくるように伝えさせているが、それも時間的にはギリギリになるだろう」

「ならば我々はどうするのだ!」

「我々に出来ることは大人しく待つことだ。騎士たちの邪魔をせずにな」

「そう言えば王宮はどうなっている? あちらも襲撃を受けているのか?」


 一人の議員の何気ない疑問。それは当然のことだった。議会が頭脳ならば、王宮は顔。

 王宮が制圧されたとあっては、カランの頭脳が残っていたとしてもメンツは丸つぶれになってしまう。

 その上王族が人質に取られようものなら、戦況は一気に不利になるだろう。

 しかし、議長は首を横に振った。


「向こうには向こうで警備がいるし、王族には専用の逃げ道もある。城が陥落することはあっても、王族自体が捕まることはまずない。それにルリーには劣るが向こうにも精鋭はいる」


 ルリーが議会の護り刀だとすれば、王宮には王宮の護り刀が存在する。ルリーほどとまでは行かないが、それなりの使い手だ。A+のドラグルが議会の制圧に来ているのならば、王宮の方は守り刀に任せても問題ないという判断になった。


「ここに逃げ道はないのか?」

「議会の方には存在しない。王族は取り替えが効かないが、議員は取り替えが効くからな。それに四五年で入れ替わる議員にいちいち避難用の経路を教えていては、どこから情報が漏れるか分かったものではない」

「それもそうか……」


 議長の言葉はどこまでも冷静で現実的だった。

 それゆえに、他の議員たちも次第に落ち着きを取り戻していく。そして議長はおもむろに席を立つと、部屋の隅におとなしくしていたフィーナとフランのもとにやってきた。


「君たちには怖い思いをさせてしまって申し訳ない」

「いえ、こういうことにはなれていますから」

「そ、そうか……しかしあなたたちの命は我々カランの民が全力を持って死守させていただく。色々と国の面倒事に巻き込んでしまったのだ。それぐらいの責任は捕らせてもらうよ」

「ありがとうございます。でも大丈夫だと思いますよ? トーカは約束を破ったことはありませんでしたから」

「ハハハ、心強いな。では私たちももうひと踏ん張りしよう」


 議長は微笑んで自分の席に戻っていく。

 それを見送って、フィーナはフランの頭を撫でながら小さく呟く。


「いざとなったら私も戦わないといけないかもしれませんね」


 ここにいるのは見張りの騎士とフィーナを除けばほぼ全員が非戦闘員だ。もしここまで敵が攻め込んできたときは、客だとかなんだとかは言ってはいられない状況になる可能性が高い。

 それにフィーナにはもう一つ気になることがあった。

 それは先ほどから爆発音のような物が近づいているのだ。

 議員たちは緊張して気が付いていないようだが、爆発や何かが壊れる音は確実に近づいてきている。

 耳を澄まして聞いてみれば、それは誰かが戦闘をしているような音だ。

 戦闘をしながら近づいてきていると言うことは、カランの騎士とドラグルが戦っているのだろうと予想した。


「カランの騎士は意外と強いのかもしれませんね」


 今まで見てきた騎士たちは正直言って信頼に欠けるもの達ばかりだったので、意外と言えば意外だった。


「あ、フランちゃん、サンドイッチ食べます? お昼ご飯まだでしたし、そろそろお腹すいたでしょ?」


 とりあえずフィーナは、暇を持て余していそうなフランにバスケットの中からトーカに作ったサンドイッチの残りを差し出すのだった。


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