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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
カラン合島国・極星編
124/151

123話

 突然の騒ぎに詰所の前は騒然となる。なにせ2階の窓から人が落ちてきたのだから当然だろう。

 そして落ちた隊長さんに人々の視線が集まる中、俺はこっそりとその窓から飛び出し、近くの家の屋根に隠れた。

 その直後、さっきまでいた部屋の中に、剣を抜いた騎士たちが流れ込んでくる。そして倒れている仲間の姿を見て、驚いた表情をしていた。


「トーカさん、これからどうするんですか!? これ指名手配されますよ!?」

「一時的にはそうなるだろうな。けど、死者蘇生をそのままにするわけにはいかないだろ。何とか信頼できる騎士に連絡取って、上からどうにかしてもらうしかないだろ。その間は隠れながら動くか……いや、フィーナ達が狙われると危険だな」


 フィーナ達は俺達の現状を何も知らない。ただ騎士が訪れて来ただけでは、何も警戒せずにそのまま捕まってしまう可能性もある。

 あの騎士どもがフィーナ達を人質に取る可能性がある以上、放っておくわけにも行かない。なら、いっそのことフィーナ達と合流してから立てこもった方が良いな。なら場所はやっぱり鍛冶屋か。おっさんには迷惑かかるが、一番守りやすい場所だろ、宿みたいに大多数がいる所は迷惑になる人も多くなっちまうからな。

 ならまずはフィーナ達と合流しよう。ならまずは宿に行くか。


「今から宿に行くぜ。とりあえずフィーナ達と合流して鍛冶屋まで逃げる」

「そこで籠城ですか? でもそれじゃ騎士と連絡が取れませんよ?」

「大丈夫。手はある」


 俺は心配そうなカラリスに1つ頷き、宿のある方向を向いた。

 その行動に、カラリスの額から汗が垂れる。


「あれ? もしかして地面は歩かない感じですか?」

「騎士がいっぱいだからな。とりあえず屋根を伝ってくぜ」


 言うや否や、俺はカラリスの悲鳴を連れて屋根を蹴り、飛び出した。


 さすがに屋根の上まで警戒していることは無かったようで、スムーズに宿まで到着する。騎士の連中に俺の名前を教えなかったために、身元はまだバレていないようで、宿に騎士たちが集まっているということは無かった。

 そのまま宿の中に入り、部屋に戻る。

 扉を開ければ、ソファーに座っていたフィーナとフランがこちらに振り返る。


「ただいま。ちょっと急で悪いけど、今から荷物纏めて鍛冶屋行くぜ」

「え? どうしたんです?」

「本当に悪いが急ぎだ。理由は鍛冶屋に着いてから話す」


 いつになく真剣な俺の表情に何かを感じ取ったフィーナは、1つ頷いてすぐに荷物をまとめ始めた。

 俺は窓から外を警戒する。

 カラリスはフィーナが荷物をまとめている間、フランを抱っこして頭を撫でていた。今の状況とは一転、なんとものどかな表情だ。


「私も早くフランちゃんみたいな子が欲しいですね」

「それはバスカールに相談してやれよ。俺達に言われても何も出来ん」

「それもそうですね、じゃあ帰ったら誘惑してみましょうか」

「誘惑ねぇ……」

「なんですか、その何か言いたげな視線は?」

「や、別に何も」


 一瞬カラリスに向けた視線を再び、窓の外に戻す。

 正直、カラリスが誘惑ってあんまりピンとこないんだよな。まあ、結婚するぐらいだから、バスカールからしたら魅力があったんだろうけど。


「準備ができましたよ」

「うし、じゃあ行くか」


 俺はカラリスからフランを受け取り抱き上げる。

 さすがに3人も担いで屋根の上を走っていくわけにも行かないので、俺たちは騎士たちの視線から外れるように、裏道を走って行った。


 もう少しで鍛冶屋に着くという時、俺たちは騎士に見つかった。

 鍛冶屋が近くなってきたところで、一瞬気を抜いてしまったせいで、壁の影から様子をうかがっている所を、騎士とカラリスの視線が合ってしまったのだ。


「トーカさんすみません!」

「待て!」

「待てと言われて待つバカはいない!」

「なに言い返してるんですか! 今は逃げるんでしょ!?」


 フィーナとカラリスが荷物を分担して持ち、俺がフランを抱えて逃げる。

 あの騎士が計画とやらに加担しているかどうか分からないため、迂闊に攻撃するわけにも行かない。もし計画に加担していない騎士だった場合、大事な仲間になる可能性がある奴を減らすことになることになるからだ。


「ああ、もう! しょうがねぇ、俺が囮になるから、その間にお前らは鍛冶屋に行け」

「カラリスさん、こっちの荷物持ってください」

「はいはい」


 フィーナがカラリスに自分の持っていた荷物を渡し、俺が抱えていたフランをフィーナに渡す。


「トーカ頼みましたよ」

「フィーナ達も気を付けろよ。特にカラリスな」

「うう、分かってますよ」

「ぱぱ、がんばってね」

「任せとけ!」


 フィーナ達が角を曲がったところで、俺だけが足を止める。

 すると数人の騎士がすぐに追いついてきた。


「貴様、詰所で暴れてただで済むと思っているのか!?」

「別に思ってねぇから逃げてんだよ。てかお前ら隊長が隠してる事どこまで知ってる?」

「隠し事!? そんな事いちいち気にしていられるか! それともなにか!? 隊長がカツラだったから苛立ったとでも言う気か!」

「そっちの隠し事じゃねぇよ! てかあいつヅラかよ!」


 どうでもいい情報を入手してしまった。しかし、この騎士は計画に関係してないようだな。けど、他2人の騎士は何かしら知っているっぽいな。僅かに視線が揺れた。


「あいつは死者蘇生の魔法が使われそうになってることを黙ってたんだぞ? とりあえず俺はそれを上の連中に伝える」

「そんなことがある訳ないだろ! 隊長は極星の勇者の強さにあこがれて騎士になった高潔な精神の持ち主だ! だから我々も慕っている!」

「高潔な奴がヅラなのかよ」

「高潔であるがゆえに見た目も気にするのだ! きっと! ……たぶん」

「自信無くなってるじゃねぇか! てかこっちの話も事実だからな。引くわけにはいかない」

「それはこちらも同じこと。捕まえさせてもらおう」

「出来るかな? お前たちに!」


 俺は輪廻剣を鞘から出し、魔力を流し込む。一瞬にして刃が高速回転し、刀身を炎の光が包み込む。その光景に、騎士たちが一歩下がる。

 威嚇とばかりに輪廻剣を地面に当てれば、地面の煉瓦が削れ火花が散る。


「これに斬られると痛ぇぜ?」

「その程度で!」


 先頭の騎士が心を猛らせてこちらに走り寄ってくる。実力はあるのだろうが、俺にしてみれば遅い遅い!

 振り下ろされた剣を悠然と躱して、脇腹に蹴りを入れる。さすがに輪廻剣でこの通路を血まみれにするわけにもいかないしな。

 あれ? 輪廻剣意外と役立たず?

 どこかでくしゃみの音がするのを聞きながら、残った騎士たちに向き直る。

 一撃で仲間が沈められたのに驚いた騎士たちは、警戒して俺との間合いを測る。

 けど、そういう慎重な姿勢を取られると、少しいじりたくなるのが男の子ってもんだ。

 じりじりと足を動かす騎士たちに対して、俺は1歩前に出る。するとすぐに騎士たちは1歩引き下がった。

 しかし、俺は騎士たちの動きを見た後すぐに1歩下がる。すると騎士たちは慌てたように1歩前にでた。

 うん、面白い。

 次に俺は2歩後方に下がる。同じように騎士たちが前に出ようとしたところで、すぐに2歩前に出た。

 騎士たちはそれを見て慌てて距離を取ろうとしバランスを崩す。その隙を突いて、俺は思いっきり跳躍。一息に屋根の上にあがり、騎士たちを見下ろす。


「フハハ! 実力のない騎士ほど、哀れなものは無いな! ではさらば!」


 言いながら屋根を飛び越え、俺は鍛冶屋へと向かった。


 鍛冶屋の中に入ると、フィーナ達はすでに到着していた。


「トーカ」

「大丈夫だったか?」

「それはこっちのセリフのような……まあいいです。こちらは問題ありません」

「まだ俺の身元がバレてないだろうからな。けど時間の問題だろうな」


 ギルドに問い合わせれば、すぐに俺の身元などバレるだろう。輪廻剣も使ったしな。そう考えると、すぐにでもこの店にバリケード張らねぇと。


「じゃあ全員に事情説明するから聞いてくれ」


 そこで、俺はさっき詰所で起きたことを話す。ところどころカラリスの補足が入ってより分かりやすくなった解説で、一気に説明することが出来た。


「それはまた面倒なことに巻き込まれましたね」


 フィーナは呆れ顔だ。何だか面倒事に巻き込まれるの慣れてきてない?


「それでトーカさん、信用の出来る騎士と連絡を取る方法って何なんですか?」

「それは直接見せるぜ」


 俺は魔力探査を発動させ、相手の場所を確認する。そいつは俺の右上にいた。

 よしよし、ちゃんと付いて来てるな。


「話は聞いてたろ? いい加減出てこいよ」


 俺が屋根に隠れているそいつに声を掛ける。最初は何も反応が返ってこなかったが、俺がじっとそっちの方向を見ていると、やがて諦めたのか、天井の一部が開き、そこから人が降りてくる。


「いつから気付いていた?」

「お前が監視を始めてからずっとな。監視が付くことはミラノから聞いてたし」

「一応これでもエリートで通っていたのだがな。それも返上せねばならん」

「俺だから仕方がないって。それより連絡取ってくれるか?」

「ならば貴様の持っているミラノの印をよこせ。それで証明ができる」

「こいつか」


 それはミラノからもらった鉄の板。どうやらそれが必要になるらしい。


「こんなに早く使うことになるとはな」

「それはお前が悪い」

「そうか? 計画に加担している騎士の問題だと思うけどな」

「……とりあえず俺は連絡を取る。お前はここから動くなよ。監視の意味が無くなるからな」

「ああ、俺たちはここに引きこもってお前たちが動くのをのんびり待たせてもらうさ」

「すぐに届ける。こちらとしてもこの国で禁術が使われるのは避けたいからな」

「んじゃ頑張んな」


 男は再び屋根裏に戻って行った。

 それをポカンと見送っていたフィーナ達が動き出す。


「い、今の人は誰ですか!?」

「突然現れて、なんか突然去って行きましたね」

「あいつは俺の監視だよ。ルリーに勝っちまったからな。カランの監視が付くってミラノが言ってたんだよ。それがあいつだ。カランの本部から直接送られてきた奴だからな。下の方の計画には関係してないはずだ」

「なるほどね。なら安心はできるかな。A+ランクの監視を任せられるってことはそれだけ実力があるし信頼されてるってことだしね」

「そう言うことだ。まあ、俺たちはゆっくり待てばいいさ」


 俺は近くにあった椅子に座り、鞄の中から干し肉を取り出し齧りついた。




 正直面倒なことに巻き込まれた。

 隠密である男が感じたのはそんな感情だった。

 男に名前は無い。隠密としてカランに仕えると決まった時に、すでに名前は捨てられ過去は抹消させた。しかしそれは男自らが望んだことであり、そこに不満は無い。

 その男は今、屋根の上をトーカから渡された鉄版を持って走っていた。しかし、その足取りは隠密にしてはどことなく重い。

 確かに愛国心はある。カランで死者蘇生などと言う禁忌を犯されては国の信頼もガタ落ちになってしまう。

 それを止めなければならないのは分かるが、何故自分がその役目の一端を担わなくてはならないのか。

 男が隠密になった最大の理由。それは単純に人付き合いが面倒だったからだ。

 なまじ実力があっただけに、人から頼られることが多かった男は、いい加減周りに集まって来る人間たちが鬱陶しくて仕方が無かった。

 そんな時に偶然耳に挟んだこの仕事。色々と犯罪スレスレの事もやってきた男だからこそ耳に入ったその情報は、議会仕えの隠密の仕事だった。

 そしてその仕事内容は、秘かな情報収集や、尾行、護衛など、基本的に他人と関わることが無い。

 そして雇い主とのやり取りでさえ、全て手紙でのやり取りとなる。

 それを知った瞬間、男はこれだと思った。この仕事こそが、自分の運命の仕事なのだと。

 男はすぐに議会へと走った。

 カランの隠密となるには、いくつかある試験の1つを突破する必要がある。

 そのうちの1つがカラン議会への侵入と、議長への直談判だ。

 しかし、その試験は最も困難でもあった。なにせカラン合島国の中枢部である。当然警備は厳しく、捕まった時のリスクは間違いなく死だ。捕まるような隠密など絶対にいらない。議会に忍び込んだ時点で、情報漏えいの可能性も考慮されて内々に消されるのである。

 その為、普通隠密になろうとするものは、他の隠密を探し出して推薦してもらったり、犯罪者の情報を持って騎士団に掛け合ったりするのであるが、直感的に動いた男はその事を知らなかった。

 そして平然と議会の最深部、議長室まで辿り着き、直談判したのだ。

 これまでの過去に数名の成功者はあった。しかしそれは監視されわざと見逃してもらったりして、何とか議長室まで辿り着くことが出来たのだ。

 その為議長も前もって聞かされており、堂々と議長室で待っていたりもした。

 しかし、今回は本当の意味で男に侵入されてしまった。

 議会に張り巡らされた密偵用の罠を平然とかいくぐり、他に控えている隠密の誰もが気付くことなく議長室まで到達されてしまったのだ。

 当然議長も突然現れた男に驚き、大至急警備を呼んだ。

 その後の騒動は当然の結果である。

 議会全てに響き渡る警報。走り回る警備の騎士たち。裏では隠密達が総動員され、侵入者を捕縛しようとした。

 さすがにその状態で直談判などできるはずも無く、男は仕方なく『隠密になりたくて侵入しました。明後日の同じ時間に来るので、採用の合否を教えてください』と言う書置きを残して、当たり前のように誰にも気づかれることなく議会から帰ったのだった。

 当然、もう一度来た時も誰にも気づかれることなく侵入し、議長室まで辿り着いた。

 その事に、議長は腰を抜かし、最初は隠密の下っ端や見習いなどから始める所を、いきなりカラン筆頭隠密にされてしまったのだ。

 適当に下の方でひっそりと仕事をしようとしていた男にとってそれは大きな誤算だったが、さすがに嫌とも言えず、今こうしてA+ランクの冒険者の監視をさせられている。

 つまりこの男、とにかく面倒事が嫌いなのだ。

 にもかかわらず、カランの最終兵器、常闇のルリー専属従者であるミラノへの伝言を頼まれてしまった男は「そろそろこの仕事も辞め時かな?」と思うのだった。


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