第2章 「欠けた一日」
その朝、街は普通だった。
ユウはいつも通り目を覚まし、いつも通りパンをかじり、いつも通り外に出た。
なのに。
最初の違和感は、時計だった。
「……7時?」
家を出た瞬間の時間が、どうしても合わない。
スマホを見る。7:00
街の時計を見る。7:00
でも、体感だけがずれている。
まるで“昨日の続きの朝”じゃない。
「……気のせいか」
そう呟いた瞬間、通り過ぎた子供が言った。
「ねぇ今日さ、昨日の続きじゃないよね?」
母親が慌てて口を塞ぐ。
「変なこと言わないの!」
ユウの背中に、冷たいものが落ちる。
⸻
同じ頃。
ミアは目を閉じていた。
未来視を使うときの、あの静かな沈み込み。
でも。
「……?」
未来が“開かない”。
正確には、開いた瞬間に全部がノイズになる。
何も見えないのではない。
“見えすぎて崩れる”。
ミアは小さく息を吐く。
「一日、欠けてる」
⸻
ガイのところには最初に異常が来た。
街の外れ。
見張りの任務のはずだった場所に、存在しない建物が一つ増えている。
白い壁。扉はない。窓もない。
ただ“そこにあることだけが正しい”建物。
「……記録にない」
ガイは剣に触れないまま、建物を見る。
その瞬間、建物が一瞬だけ“透明になる”。
中に何かがいる。
でも見えた瞬間に、記憶が抜け落ちる。
「……今のは」
⸻
そしてレオン。
酒場。
いつもの場所。
いつもの仲間。
なのに。
「おい、昨日のさ、あれ何だったっけ」
誰も答えられない。
昨日の出来事だけが、綺麗に抜けている。
グラスの数も合わない。
会話の途中だけが消えている。
レオンが笑う。
「おいおい、俺ら記憶まで酒に溶かされたか?」
誰も笑えない。
⸻
そしてユウが合流したとき、全員が同じ結論に触れる。
ガイが言う。
「昨日がない」
ミアが静かに言う。
「違う。消えたんじゃない」
レオンが眉をひそめる。
「じゃあなんだよ」
ミアは少しだけ間を置く。
「“使われた”」
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その瞬間だった。
酒場の壁に、ひびが入る。
音はしない。
でも、確かに“割れる前の割れ方”をしている。
ユウの視界が一瞬だけ白くなる。
そこに浮かぶ文字列。
――欠損日、補完開始。
⸻
ガイが即座に動く。
「外に出るぞ」
レオンが舌打ちする。
「こういうの説明なしで来るのほんとやめろ」
ミアはすでに立っている。
「もう一回起きる」
ユウが聞き返す。
「何が」
ミアは答えない。
でも目だけが、少しだけ震えている。
「このままだと、“今日”が増える」
⸻
外に出た瞬間。
街が一瞬だけ“二重”になる。
昨日の街と、今日の街。
同じ場所なのに、歩道の位置が違う。
人の影がズレている。
ガイが剣を抜く。
初めてではない異常に対して、初めて“戦う準備”をする。
「原因を潰す」
レオンが笑う。
「原因ってどれだよ、これ全部バグだろ」
ミアが低く言う。
「バグじゃない」
ユウが気づく。
空が、一瞬だけ“ページをめくるように”揺れた。
⸻
そして、事件の中心。
街の外れの“存在しない建物”。
そこに、鍵がある。
扉のない建物の“中身”へ繋がる鍵。
ユウがそれに触れた瞬間。
世界が一度だけ止まる。
音が消える。
呼吸だけが残る。
そして――
「昨日」が、少しだけ戻る。
でも戻った瞬間、また削られる。
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ミアが呟く。
「これ、修正じゃない」
ガイが言う。
「回復でもない」
レオンが静かに言う。
「じゃあ何だよ」
ミアは答える。
「編集」
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その言葉と同時に。
建物が“目を開く”。




