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第2章 プロローグ

現象の気配はまだ遠い。


その日の朝は、逆に“やけに普通”だった。



ユウは木の椅子に座りながら、ぼんやりとパンをかじっている。


「……今日、風変じゃない?」


そう言うと、向かいにいるミアは顔を上げた。


「毎日そう言ってる」


「いや、今日のは違うって」


「昨日も言ってた」



ミアは小さくため息をついて、カップを持ち上げる。


湯気がゆっくり揺れている。


その動きだけは、どの世界でも同じに見えた。



少し離れたところで、ガイが荷物を整えている。


剣はまだ出していない。


というより、この時間だけは“出さないようにしている”感じだった。



「なあガイ」


ユウが声をかける。


「お前、休まないの?」


ガイは少しだけ手を止める。


「休むってのは、こういう時間のことか?」


「まあ、そうじゃね?」


ガイは短く笑った。


「じゃあ休んでるな」



その答えが妙に軽くて、ユウは少しだけ肩の力を抜いた。



ミアがパンをちぎりながら言う。


「今日、何も起きないといいね」



その言葉は軽い。


軽いはずなのに、少しだけ引っかかる。



ユウは窓の外を見る。


世界は普通だ。


人が歩いている。

風が揺れている。

光が揺らいでいる。



でも。


ほんの少しだけ。


“ズレている気がする”。



「……なあ」


ユウが呟く。


「普通って、こんなに普通だっけ?」



ミアは一瞬だけ止まる。


そして、何も見ていないふりをして言う。


「普通は普通だよ」



その言い方だけが、少しだけ優しかった。



外に出ると、ガイが先に歩き出す。


ユウとミアが続く。


特に目的はない。


ただ、いつもの流れ。



途中で、子どもが走っていく。


笑い声がして、誰かが呼び止める。


それだけの風景。



ユウは少しだけ立ち止まる。


「こういうの、守れてるのかな」



ガイは振り返らずに言う。


「守れてるうちは、気づかないもんだ」



ミアはその会話を聞きながら、空を見る。


その目は、ほんの一瞬だけ曇る。



でもすぐに戻る。



「行こ」


それだけ。



その“何も起きない時間”は、確かにそこにあった。


そしてその静けさの奥にだけ、ほんの少しの歪みが潜んでいた。

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