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第一章『荒野の少年』⑨

 空が、静かになっていた。


 さっきまで暴れていた“世界の書き換え”が、嘘みたいに止まっている。


 アブソリュートは、そこに立っていた。


 だが──違う。


 さっきまでの“圧”がない。


 削除でもない。


 支配でもない。


 ただ一瞬だけ、そこに“接続されていた存在”が離れている。


「……観測不能領域」


 低い声。


 ノイズ混じり。


 アブソリュートがユウを見る。


 いや、正確には“ユウの章の入口”を見る。


「未定義成長」


「第九章干渉の可能性」


 ミアが息を呑む。


「第九章……やっぱり……」


 その瞬間だった。


 ガイが一歩踏み出そうとする。


 だが足が止まる。


「……あ?」


 レオンも同じ。


 構えた剣が、下がらない。


 いや、下げていないのに“下がっている”。


 戦闘が終わったわけじゃない。


 ただ──


 アブソリュートが“撤退を選んだ”。



「ここは未成熟」


 静かな声。


 だが、その言葉は冷たい敗北宣言ではない。


 むしろ逆。


 評価。


「観測続行対象とする」


 空間が裂ける。


 あの“ページの裂け目”が再び開く。


 ユウは一歩も動かない。


 動く必要がないと、どこかで理解していた。


 アブソリュートが最後に一言だけ残す。


「ユウ」


 初めて名前を呼んだ。


「貴様の章は」


「まだ始まっていない」


 そして。


 消える。


 まるで最初からいなかったかのように。


風が戻る。


 荒野に、音が戻る。


 ガイが大きく息を吐く。


「……終わった、のか?」


「いや」


 レオンは剣をしまう。


「終わってねぇな」


 その言葉に、誰も否定しない。


 ただ。


 ユウは空を見ていた。



 少し離れた場所。


 ミアが立っている。


 《クロニクル》は、もう完全には元に戻っていない。


 でも、壊れてもいない。


 むしろ──


 “別の章に繋がっている”。


「ユウ」


 静かな声。


 いつものミア。


 でも少しだけ違う。


 世界の奥を見た目。


「ねぇ」


「これから、どうするの?」


 ユウは少しだけ笑う。


 荒野を見る。


 仲間を見る。


 そして、もう一度ミアを見る。


「決まってるだろ」


 答えは迷いがなかった。



「この章は終わった」


「なら次に行くしかねぇ」



 ミアが少しだけ目を細める。


「怖くないの?」


「ちょっとはな」


 即答だった。


 そして続ける。


「でもさ」


「お前が見てるなら、まぁいいかって思える」


 ミアが一瞬止まる。


 風が吹く。


 荒野が揺れる。



 その瞬間。


 《クロニクル》の奥に、ひとつの“新しいページ”が生まれた。


 まだ書かれていない章。


 誰も知らない章。


 でも確かに存在する章。



「ユウ」


 ミアが小さく笑う。


「行こうか」


「ああ」



 ガイが肩を鳴らす。


「次はもっと面白ぇの頼むぞ」


 レオンは背を向ける。


「退屈だけはさせるなよ」



 ユウは歩き出す。


 荒野の向こうへ。


 まだ名前のない世界へ。

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